魚釣りといえば、エサ釣りであっても、ルアーフィッシングであっても、あるいはフライフィッシングであっても、多くの場合は、何らかの形で魚の食性に訴えて、駆け引きするのが基本です。

しかし、そうした他の釣りには見られない、独自のアプローチで生み出されたものに「アユの友釣り」があります。

アユの友釣りは、この魚が持つ「ナワバリ意識」を利用したもの。世界でも日本でしか見られない、伝統的な釣りの1つで、その独創性と、何より釣りとしての楽しさから、井伏鱒二氏、夢枕獏氏など、古今の文人たちも愛好し、その魅力を紹介しています。

一年で一生を終える年魚

アユは一年で一生を終える。その命が最も輝くのは夏

アユにはいくつかの特徴があります。まず、姿が美しく、食べて美味しく、生息域がほぼ日本だけであること。

そして、寿命は1年で、晩秋に親魚が川の下流部で産卵し卵が孵化すると、卵からかえった仔魚はすぐに海に降り、海で冬を過ごしたあと、南の地方では翌年の3月頃から、寒い地方では5~7月にかけて、川を遡上して上流を目指します。

成長期に入ったアユの主食は、川の石に生える新鮮なコケです。水が澄んで陽光がたくさん降り注ぐ清流ほど、より良質なコケが生えるので、アユはどんどん上流を目指します。

石の上をこするように動きコケを食むアユ。この食性のため、アユの口には櫛のような細かい歯があります
山間部にある水の澄んだ清流が典型的な夏のアユ釣り場です

このような特徴は他の魚には見られません。
つまり、アユは独自の食性を得ることで、他の魚とのライバル関係を避けてきました。

であるなら、アユの生存は安泰……でしょうか?
そこが自然の面白いところで、アユは他の魚と争わなくてよい代わりに、仲間同士(アユ同士)の競争がとても激しいのです。

アユは良質なコケが生える石を見つけると、自分のナワバリとして守るようになります。
他のアユがお気に入りの石に近づくと、体当たりをして追い払おうとする習性があるのです。

昔の人は、川を観察しているうちに、このアユ独自の習性に気が付きました。
そして、このアユを釣るにはどうしたらいいのかを考え、編み出したのが、生きたオトリのアユにハリを取り付け、他のアユがナワバリを張っている場所まで泳がせて、体当たりを誘発して釣りあげる、という方法だったのです。

オトリを泳がせていく時のハラハラドキドキはこの釣りならでは

世界に多くの釣りがあっても、こんな方法は他に類を見ません。
そして、日本ではこの方法を「アユの友釣り」と呼ぶようになりました。

アユでアユを釣るから“友釣り”。
釣られるアユにしてみれば、友どころかライバル(敵)ですが、オトリにするアユを「釣り人にとっての仲間」と考えることもでき、そんな風流な呼び方を多くの人が支持したことも日本的かもしれません。

ちなみにアユの友釣りは、伊豆半島の狩野川が発祥の地といわれています。
もちろん、他にも諸説ありますが、少なくとも当地では、江戸時代の後期にはすでに友釣りが盛んだったことが分かる記述が残っています。

アユの友釣りで使う主な道具

アユザオ

現在は9mが標準の非常に長く繊細なサオ。ただし2尾のアユを同時に取り込めるしなやかさとパワーもあります。

仕掛け(天井イト、水中イト、目印、中ハリス、ハナカン、逆バリ、掛けバリ)

オトリアユを泳がせるため、基本的に他の釣りと比べても非常に細いイトを使います。先端部分はオトリアユを取り付けられるようになっており、ハナカンと呼ばれる金属の輪をオトリアユの鼻に通し、さらに逆バリと呼ぶ小さなクリップの役割を果たす金属パーツをオトリアユの尻ビレに引っ掛けて、その逆バリに他のアユを引っかけるためのハリス付きの掛けバリをセットします。

ハナカンはオトリアユの鼻に通す金属製のパーツ
アユの尻ビレにセットする逆バリ。ハナカンとは中ハリスで繋がっており、眼鏡になった部分に掛けバリのハリスをセットします
左がハリス付きの掛けバリ。右はサオに結べばそのまま使える仕掛け部分のセット

アユダモ

釣れたアユをキャッチしたり、長いサオに仕掛けをセットする時に、アユ釣りでは専用のタモを使います。アユダモはウエストベルトを着用のうえ、釣りの最中は腰とベルトの間に差し込んで携行します。

曳き舟

オトリアユを入れて生かしておく道具です。新しいアユが釣れたらそれをオトリにし、それまで使っていたオトリはこの中に入れます。

ライトスタイルも近年人気!

長いサオで繊細な仕掛けを駆使するアユの友釣りは、川の中のポイント(アユの付き場)を的確に捜しだし、そこに弱らせずに元気な状態のオトリアユを送り込めるかが勝負の分かれ目。そして、アユの友釣りは「循環の釣り」と呼ばれるように、川の中にいる元気なアユが釣れると、次にそれをオトリにすることで、どんどんよいアユが釣れるというサイクルが生まれます。

ナワバリを持った“追いけのあるアユ”は、魚体が鮮やかな黄色味を帯びます。こんな1尾が釣れれば、次のアユもすぐに釣れる可能性大
オトリアユ(右)に体当たりし掛けバリに掛かったアユ(左)

アユが川に遡上して盛んにコケを食むのは盛夏。
その短い季節に気持ちのよい清流に浸り、目印がすっ飛ぶ激しいアタリを経験した人は、必ずといってよいほどこの釣りの虜になります。

そうして手にしたアユは川魚の中でも屈指の美味しさで、良質なコケを食べていることで身に付く甘くほろ苦いハラワタ、上品な白身の組み合わせは、まずは塩焼きで味わうと格別です。

釣りたてのアユを塩焼きで味わうのは至福の時間

近年は、より多くの人が気軽に楽しめるよう、速乾性のある上下のタイツとショートパンツ、ウエーディングシューズといった軽装で楽しむ、いわゆる「ライトスタイル」のアユ釣りも広がりつつあります。

アユ釣りが盛んな川の近くにある釣具店では、道具を貸し出してくれる無料スクールなども行なわれています。
また、和歌山県のように、県内の漁協がアユの友釣り入門者を応援するキャンペーンを長年にわたって継続している地域もあります。

ライトなウエアでのアユ釣りは近年注目のスタイル

夏はぜひ、日本独自のアユの友釣りに挑戦してみてください。

※このコンテンツは、2019年8月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。