たくましく自然界を生き抜く魚たちには、人間にとって要注意な「毒」を持っているものがいる。とはいえ、どれも特徴的な魚たちなので、一度見ておけば必要以上に怖がる必要はない。
楽しく安全に釣りをするために、代表的な種類を覚えておこう。

刺されると危ない

まずは刺されると腫れをともなって激しく痛むグループ。刺毒魚はヒレをはじめ頭部やエラブタに有毒のトゲ(棘)があり、魚を素手でつかまないのはもちろん、食べられるものを調理する際には、ハサミでトゲの先端をカットするなどの注意を払う必要がある。刺された部位の痛みは半日~数日にわたり、素人による有効な対処法はないので、ガマンできない痛みがあればすぐに病院に行こう。

アイゴ

元々は南西日本の浅い岩礁や藻場に分布し、各ヒレの棘条(きょくじょう)に毒があるが、近年、温暖化を背景に、関東以北に急速に勢力を拡大していて、堤防釣りや磯釣りでよく釣れる。死んだものの毒棘(どくきょく)も危ないので絶対に陸地に放置しないこと。食べられるが関東では毒棘と内臓の臭みから人気がなく、海藻やアマモを食い荒らして磯焼けの原因となっている。

ゴンズイ

背ビレと胸ビレに鋭い毒棘を持ち、刺されると激しい痛みに襲われる。幼魚は「ゴンズイ玉」と呼ばれる濃密な群れを作り、釣れることはほとんどないが、成魚は単独行動し夜釣りでよく釣れる。海産魚には珍しいナマズの仲間で、独特の体形から区別は容易。暗がりでよく確かめずに掴んで刺される事故が多い。最大で22cmほど。

ハオコゼ

陸からの小もの釣りの定番外道で、背ビレのトゲのほか、頭部のトゲにも毒がある。浅海の藻場や岩礁域にすみ、潮溜まりでも普通に見られ、釣りはもちろん磯遊びでも注意を要する。夜行性で、昼間は物陰に隠れてじっとしていることが多い。青森県から九州南岸までの沿岸域、瀬戸内海に分布。最大で10cmになる。

アカエイ

陸から釣れる刺毒魚の中で最も危険で、尾に強大な毒棘がある。トゲの両側面には逆バリ状の鋸歯(きょし)が並び、触れただけで皮膚は切れ、刺さると容易には抜けず、抜けても傷口が大きく割けて感染症のリスクを高める。釣れたらイトを切って逃がしてやること。死んだ個体の毒棘も危ないので注意。

オニカサゴ

沖釣りで人気のオニカサゴは標準和名イズカサゴという別種で、水深30m以深に生息し岸からは釣れない。一方、本種は南日本太平洋岸の水深30m以浅の岩礁域に生息し、磯釣りなどで時おり釣れる。体側は複雑に入り組んだまだら模様に彩られ、頭部に多くの皮弁を持つ。イズカサゴと同様にヒレの各棘条と頭部のトゲに毒がある。体長30cmになる。

ミノカサゴ

深く切れ込み美しく伸びた胸ビレと背ビレが特徴で、体には赤褐色の多数の横縞を持つ。泳ぎは優雅だが、捕食時は目にもとまらぬ速さで獲物を丸呑みにする。泳がせ釣りではアジを丸呑みして釣れ上がることがある。ヒレの各棘条に強い毒があるが食べれば美味。北海道南部から琉球列島の浅い岩礁や藻場に分布する。全長30cmになる。

食べると危ない!

食べてはいけない毒魚には、大きく分けて3種類の毒を持つ魚たちがいる。代表的なのが「フグ毒(テトロドドキシン)」を持つフグ類。フグはそもそも、どんな種類でも処理免許のない素人がさばいては絶対にいけない。その他に注意が必要なのが、「シガテラ毒」もしくは「パリトキシン様毒」と呼ばれる毒を持つ魚たちだ。シガテラ毒は主に熱帯・亜熱帯地域でプランクトンが作り出す毒で、食物連鎖を通じてそれが大型魚の体内に蓄積する。近年、九州や本州では釣りの対象魚としても一般的なイシガキダイを原因とするシガテラ中毒が発生し問題になっている。さらに南方系の魚に見られるパトリキシン様毒も要注意。ソウシハギなどは近年東京からも近い伊豆大島などでも目撃例が増えており、充分に注意が必要だ。

キタマクラ

食べると「北向きの枕に寝かされる」というのがその名の由来で、フグ毒を持ち食べられない。吻がやや突き出た小型のフグで、体側に2本の暗色縦帯を持つことが特徴。夏~秋の繁殖期には、オスの腹部に青い虫食い状の斑紋が浮き出て美しい。南日本の沿岸浅所の岩礁や藻場にすむ。全長15cmになる。

クサフグ

陸釣りの定番外道の小型のフグ。一般的に食べられないと思われているが、フグ処理の有資格者がさばいた筋肉の食用は厚労省が認めている。肝臓、卵巣、精巣、腸と皮の毒は強く食べられない。なお、咬毒はもたないが咬む力が強いので、釣れた個体を扱う際には咬まれないように注意すること。全長15cmになる。

イシガキダイ

昔から釣りで人気の魚。体に褐色の斑点が密に分布することが名前の由来だが、成長とともに斑紋は薄れ、オスの老成魚では口の周りが白くなりクチジロと呼ばれる。イシダイに似るがやや南方系で、琉球列島や小笠原諸島には本種のみが分布。美味しい魚なのだが、南方域の個体はもちろん、本州周辺の個体でも大型になるほど毒化のリスクが高まる。

アオブダイ

日本のパリトキシン様毒中毒例のうち65%を占める原因魚で、長崎・高知・三重県などでの発生が多く複数名の死者を出している。喫食部位が分かっている中毒例では、筋肉と肝臓がほとんど。濃青緑色を呈する大きなウロコに覆われ、成長に伴って頭部がコブのように突き出す。全長65cmに達する。

ハコフグ

堅い箱のような体を持ち、ヒレだけを動かすユーモラスな動きをする。中毒例の多さではアオブダイに次ぐ原因魚だが、死亡例は知られていない。ストレスを与えると皮膚から毒を出して周囲の生物を殺すことがあるので、もし飼育用に持ち帰る際も、絶対に他の魚と同居させてはならない。狭い容器内では、自らの毒で死んでしまうことがある。

ソウシハギ

「パトリキシン様」毒ではなく、正真正銘のパリトキシンを消化管や内臓に持つことがある毒魚。家畜の死亡例があるが、体に多数の黒斑と虫食い状の青色斑が散在することなどから見分けは容易。南方系の魚で、関東・東北沿岸ではまれだったが、近年はよく見られ注意が必要。幼魚はしばしば流れ藻に随伴して岸辺に寄りつき、成魚は全長60cmになる。

咬まれると危ない!

海に棲む咬毒生物といえば、ウミヘビ類がよく知られるが、釣りで出会う可能性はほとんどない。ウツボ類は噛まれると危険だが、咬毒は持っていない。釣れる可能性があって咬毒を持つ生物としては、ここで紹介する猛毒のヒョウモンダコのほか、マダコやサメハダテナガダコも咬毒を持つ。

ヒョウモンダコ

唾液にフグ毒を持ち、咬まれると危険なうえ食べても危ない。体長約10cmでその名のとおりヒョウ柄と輝青色のリングに彩られる。泳ぎは不得手で墨を持たず、吸盤も小さく弱々しいが、毒を持つせいか海中では逃げ隠れせずよく目立つ。熱帯性種と思われているが、南日本で普通に繁殖する温帯種。海外では近縁種による死亡例がある。

刺されたり、咬まれたりすると毒がある魚は、基本的に手では触らないこと。小魚タイプであればフィッシュグリップなどで掴んでからハリを外しリリース。アイゴなど大きいものなどはそもそも掴もうとせず、タモですくったり、サオである程度引き上げた状態で、魚の上のハリス部分をハサミで切ってそのまま海に返すのがよい。必要な予備知識を身につけて、安全に釣りを楽しもう。

監修:工藤孝浩(神奈川県水産技術センター主任研究員)
※このコンテンツは、2019年5月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。