3月を迎えると、全国で「渓流釣り解禁」の声が聞かれる。長い冬の間、熱心な釣り人たちが再会を待ちわびるのが、ヤマメ、アマゴ、イワナといった、河川でも水が澄んだ上流部、つまり“渓流”に生息する魚たちだ。
ワインのボージョレーヌーボーの「解禁日」は、もともと、人気のあったボージョレー産の新酒ワインの、売り急ぎによる品質悪化を防ぐために作られたそう。
渓流釣りの解禁というのも、飲み物と生きものとで、対象の違いはあるが、大きく見れば、同じような目的から決められている。
ヤマメ、アマゴ、イワナといった渓流魚は、サケの仲間だ。サケはよく知られているように、親魚が秋に海から川にやってきてペアリング・産卵。卵から孵化した稚魚は、しばらく川で過ごしたのち、翌年の春になると、栄養やエサがより豊富な海へ降りて成長する。
ヤマメ、アマゴ、イワナの先祖も、元々は同じように海に降っていたが、氷河期に陸地に取り残されたあと、一生を川で過ごすライフサイクルを獲得。現在のような、「渓流魚」になった。
ただ、今でも海に降りていた頃の性質はしっかり残されており、ヤマメの中には、地域によって、サケと同じように海に降って大きく育ち、サクラマスになるタイプがいる。アマゴで同じケースにあたるのがサツキマスだ。イワナも北海道に生息するタイプのアメマスは、海と川を往来するものがいる。
このように、渓流魚は今もサケの仲間としての性質を色濃く受け継いでいる。
そのため、産卵の時期も、サケと同じ秋(だいたい10~11月)なのである。
渓流魚にとっては生涯最大のイベントである産卵の時期と、その後の稚魚が育つ春までの間は釣りをガマンして、その他の採捕も行なわない。そのために、地域により多少の違いはあるものの、全国的にだいたい10~2月の間が、渓流釣りの禁漁期と定められている。
禁漁期のおかげで、かえって解禁が待ち遠しくなるのはワインと同じ。
魚のためのルールは、釣り人自身のためにもなっているのだ。