フグの親戚で食べて美味しいカワハギは、堤防や磯からもねらえる人気の釣りターゲット。そうした中、東京湾や相模湾などでは、昔から乗合船、つまり船釣りが人気だ。
釣り場は港から遠くない近場が中心。水深も釣りやすい平均20〜30mで、道具は専用のライトタックルを買い求めるか、レンタルを利用できる。エサは誰でも触りやすいアサリ。つまり、船釣りの入門者にとって、とても始めやすいターゲットなのだ。

釣って楽しく食べて美味しいカワハギは、これからの季節の船釣りでも特に人気だ

反面、カワハギは一筋縄ではいかないゲーム性の高さも持つ。理由はヘリコプター泳法と呼ばれる、カワハギ独特の泳ぎ方にある。胸ビレ、背ビレ、尻ビレ、尾ビレの4ヵ所のヒレを自在に動かし、海中を上下左右前後に泳ぎ回れるカワハギは、エサの動きに応じて巧みに移動する。この能力を生かし、釣り人が気づかぬ間に、手応え(=抵抗)を与えずにエサを食べてしまう。カワハギのあだ名は“エサ盗り名人”なのだ。仮にアタリを感じても、アワセをしているのになかなか思うように魚がハリに掛からない、なんてことも起きる。

とはいえ、食欲は旺盛な魚だし、ビギナーでも釣れるチャンスは充分にある。1対1の攻防戦は、時に頭に血が上ってカリカリするほど面白く、それゆえ、秋から冬にかけては釣り具メーカー主催の大会も各地で行なわれている。

道具もライトで老若男女誰でもチャレンジしやすい
道具もライトで老若男女誰でもチャレンジしやすい

そんなカワハギだが、釣りの好機は晩秋の水温が低下し始めてからだ。冬が近づくにつれ、冷たい海での生活を乗り切るため、カワハギは群れをなしつつキモ(=肝臓)が肥大してくる。このキモが、濃厚なうまみが凝縮した珍味であり、ただし鮮度も重要なため、まさに“釣り人だけが味わえる”極上のグルメとなっているのだ。

カワハギの刺し身をキモで味わう。キモ醤油のほか、オリーブオイル、レモン、塩で調味した西洋風のキモだれもおすすめ

カワハギは“皮剥”と書くように、さばくのも簡単。サメ肌の外皮の切り口をつまみ、少し力を入れて引っ張るとヒレ際の皮もスムーズにビリビリと剥ける。ただ、千切れやすいキモの取り扱いは注意。最良の方法は、キモの下に手を当てて支え、頭の付け根から内臓ごとキモをそっと引き抜くように取り外すことだ。この際、内臓に付着している黒っぽい“ニガ玉”と呼ぶ胆のうは壊さないうちに取り除く。最後にキモに残る血ワタなどの汚れを洗い流し、水気をふき取ると下処理は終了だ。

誰もが絶賛するカワハギ料理といえば、たっぷりのキモを使った、キモ醤油で味わう刺し身。下処理を終えたキモを包丁で細かく叩き、薬味のワサビ少々とともに醤油に混ぜ合わせ、そぎ切りにしたカワハギの身を付けて味わってみてほしい。生臭さを気にしやすい人なら、漉しザルに乗せて手じゃくしをやさしく当てて、キモを濾すひと手間を加えるのもおすすめだ。こうするとザルの上に毛細血管が残り、生臭さがより気にならなくなるとともに滑らかな舌触りに仕上がる。

カワハギのさばき方

1
まず頭のツノ下から包丁を入れ、中骨主骨を切断したら止める
2
頭と胴体を握り、力を入れて2つに割る
3
キモは内臓ごと下から手を当てて支え、頭の付け根からそっと引き抜くように取り外す
4
内臓に付着している黒っぽいニガ玉は壊さないうちに取り除く
5
頭の切り口から硬い外皮をつまみ、尾ビレに向かって引っ張ると簡単に剥げる

キモの処理方法

ボールを下に置いた濾しザルにキモを乗せ、手じゃくしを軽く当ててキモを濾す
ザル上には生臭さの元になる毛細血管が残り、滑らかな舌触りに仕上がる
カワハギの刺し身と濾したキモ、大葉、ネギといった香味野菜を絡めてゆずの器に盛り込んだ「とも和え」は見た目も艶やかな季節の一品。ゆずの絞り汁入りのポン酢を添えて召し上がれ

冬のカワハギを賞味するのは、まさに釣り人の特権だ。面白く美味しいカワハギ釣りに、出かけてみよう。

※このコンテンツは、2018年11月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。