どんなことも調べてみよう!釣りの実験ラボ

  • 第4回
  • 「汗冷え」はこんなに寒い!レイヤリングの下着選びの重要性

寒い季節の釣りには欠かせない防寒対策。アウトドアの世界では早くから機能的なウェアによる重ね着が提唱されてきましたが、最近はカジュアル衣料品にも暖かさをうたう下着が増えています。それらに違いはどれくらいあるのか? 実際に検証してみました。

釣りの実験ラボ(Labo)
とは?

釣りにまつわる旬のテーマや普遍的なノウハウを、実験や観察で検証するコーナーです。
経験豊富で世界を釣り歩くベテランアングラー・丸橋英三さんが見どころを解説します。

  • 解説
  • 丸橋英三(まるはし・えいぞう)

    ジャパンゲームフィッシュ協会(J.G.F.A)
    副会長

    1949年、東京銀座生まれ。家業の鮨屋を手伝いながら、幼少からさまざまな釣りにのめり込む。27歳で都内に釣具店をオープン。イシダイ・イシガキダイをねらう磯釣りに熱心に取り組む一方、海外にも積極的に出かけて先進的なスポーツフィッシングに感銘を受け、フライフィッシングでねらうフロリダの2大ターポンフィッシングトーナメントでは3年連続の同時優勝など快挙を成し遂げる。明るい人柄と歯切れのよい語り口にファンも多く、〝世界のEIZO〟のニックネームでNPO法人ジャパンゲームフィッシュ協会(J.G.F.A)副会長も務める。

Theme _

今回のテーマ

カジュアル衣料品でも大丈夫?

高機能ウェアとの差はどれだけあるのか?
丸橋さん、やっぱりこの時期、釣り場はどこも冷えますね。
先日、知人がヘラブナ釣りに行ってきたんだけれど、写真を見せてもらったら全員がダウンジャケットとダウンパンツの組み合わせだったよ(笑)。ただ、私は磯釣りに出かけることが多いからね。
磯釣りは荷物を背負って移動したり、動きも多くなります。

寒い季節でも汗をかく釣りは意外に多いものだ。こまめに着替えられるならいいけれど、実際は汗をかいたまま釣り続けることも少なくない。そういう時が問題なんだよね。

丸橋さんはどんなウェアを着ているんですか?
まずはアウトドア用の下着を着て、その上に中間着と上着を重ねている。いわゆるレイヤリングだね。ただ、最近は「暖かさで人気のカジュアルウェアを着用するのでも充分なのでは?」とお客さんに聞かれることもけっこうあるよ。

専門店で聞いてみたことがあるんですが、カジュアルウェアと専門のアウトドアウェアの一番の違いは、先ほど丸橋さんも触れていた「汗冷え」に対応できるかということでした。

そこなんだ。なかでも下着の影響が大きく、「綿」が使われているものは避けるべきとされているよね。カジュアルウェアの下着は多くが綿の混紡だ。肌触りを重視しているためだけれど、冬のアウトドアで結構な汗をかく状況だとやっぱり冷えてくる。とはいえ、その影響が実際にどれくらいのものなのかは見られたら面白いし、お客さんに説明もしやすいな。

今回、若手の新人Labo部員にも聞いたところ、やはり普段の釣りは暖かそうなカジュアルウェアの下着で重ね着。「それで寒ければ我慢しています!」とのことでした。夜のシーバス釣りでは、時間が経つとかなり冷えるそうです(笑)。

そこで彼のリアルな私物による重ね着と、専門店でおすすめされた本格的なアウトドアウェアによる重ね着の両方で、特別な冷凍庫に入って「どこに違いがあるのか?」を体感してもらいました。

なるほど。どんな結果になったのか、さっそく見せてもらいましょう。

やってきたのはマグロの町、神奈川県三浦市にあるマグロ卸会社「三崎恵水産」。安全に配慮したうえで、特別に業務用の冷凍庫を使用させていただいた

シーバスフィッシングにはまり中の新人Labo部員K。冬の夜も自分なりの重ね着で釣りに出かけている。冷凍庫内はマイナス45℃! 濡れたタオルが凍って立つ

※今回の検証は安全な施設使用法のレクチャーを充分に受け、特別な許可を得て実施しています。凍傷などの重大な事故の恐れがあるので、安易に真似ることは絶対にしないでください。

Experiment _

実験

今回の実験
  • カジュアルウェア2パターン(Kの私物)とアウトドアウェア1パターンの3パターンで寒さを比較。
  • それぞれのウェアで、最初は汗をかいていない状態でマイナス45℃の冷凍庫に5分間入る。その時の体温状態をまずサーモカメラでチェック。
  • 次に汗をかいた状態を再現するため、それぞれの下着に同量の水をスプレーして再びマイナス45℃の冷凍庫に5分間入る。出てきたところで下着の状態になり、肌に接する下着部分がどれくらい冷たい状態かをチェックする。
Labo部員君にはかなり寒そうな実験だけれども、どんな結果になるのか注目しよう。
比較したウェアはこの3つ
  • A:KのカジュアルウェアⅠ
    (下着は綿混紡のTシャツ)

    【重ね着しているもの】
    ●1枚目:綿と化繊混紡のTシャツ
    ●2枚目:裏起毛で厚みがある化繊の長袖下着
    ●3枚目:中厚手のパーカー
    「下着はひとまず綿のTシャツを着てしまうことも多いです」というKが実践している重ね着の1つ。Tシャツの上には厚みのある裏起毛の長袖下着も着用。これで釣りに出かける時は、アウターは中綿入りの全天候型ジャケットを着用している

  • B:KのカジュアルウェアⅡ
    (下着は綿混紡の機能性長袖)

    【重ね着しているもの】
    ●1枚目:綿混紡の機能性長袖下着
    ●2枚目:化繊の長袖フリースジャケット
    ●3枚目:薄手の長袖ダウンジャケット
    「軽さ重視で見た目にもおしゃれで暖かいものがいいと思う時のパターンです」とKがいうリアルな重ね着の別バージョン。これで釣りに行く時のアウターは、中綿なしの釣り用の透湿防水ジャケットを着用している

  • C:専用アウトドアウェア
    (下着はメッシュ構造の高機能化繊)

    【重ね着しているもの】
    ●1枚目:メッシュ構造の高機能化繊
    ●2枚目:1枚目と組み合わせて着る化繊とウール混紡の長袖
    ●3枚目:化繊の中綿入り中間着
    アウトドアウェア専門店でおすすめしてもらった最新の重ね着パターン。冬山登山にも対応する暖かく動きやすいもので、特に汗を素早く排出して肌面をドライに保つ性能が考えられている。「着たそばから暖かい!」とK。アウターは透湿防水ジャケットを着用

アウトドアでの「汗冷え」状態を再現し、極寒の冷凍庫へ。

いざ、観察を開始!

カジュアルウェアと本格アウトドアウェア、それぞれのレイヤリングで冷凍庫に入り寒さを体感

乾いた状態と濡れた状態で、それぞれのウェアで感じる冷え具合の違いをチェック!(3:28)

  • 乾いた状態

  • カジュアルウェアⅠ

  • カジュアルウェアⅡ

  • 専用アウトドアウェア

3種類の下着をベースに重ね着をして冷凍庫に入り、続けて下着を濡らしてから同じように冷凍庫に入ったところ、肌面に接する下着の温度(冷え感に影響)に大きな差が出た。

乾いた状態ならカジュアルウェアでもかなり暖かくても、汗で濡れた状態を再現するとはっきりした差が出てくるね。
Result _

結果

結果発表!

※それぞれのウェアで、「汗をかいていない乾いた状態」「汗をかいて下着が濡れた状態」の2パターンでマイナス45℃の冷凍庫に入り、その影響をサーモカメラで測定した。

A:KのカジュアルウェアⅠ(下着は綿混紡のTシャツ)
  • ①乾いた状態(31.6℃)

  • ②濡れた下着(15.7℃)

冷え込み度合い(①-②)

-15.9℃

B:KのカジュアルウェアⅡ(下着は綿混紡の機能性長袖)
  • ①乾いた状態(29.9℃)

  • ②濡れた下着(14.5℃)

冷え込み度合い(①-②)

-15.4℃

C:専用アウトドアウェア(下着はメッシュ構造の高機能化繊)
  • ①乾いた状態(33.0℃)

  • ②濡れた下着(21.9℃)

冷え込み度合い(①-②)

-11.1℃

カジュアル系のウェアと専用アウトドアウェアでは、汗をかいたあとの肌面に接する下着の濡れ感が大きく違い、冷え込み度合い(乾いている状態の肌面との差)も4.3~4.8℃の差が付いた(マイナス45℃の冷凍庫に5分間入っていた場合)。

結果はこのようになりました! 汗をかかず乾いた状態であれば、カジュアルウェア系の重ね着でも充分に暖かく、マイナス45℃の冷凍庫にも一定時間入っていられました。

しかし、汗冷えを再現したとたんに、被験者の体感も含めてかなりはっきりとした差が出てきましたね。

寒さが非常に厳しい状態で、下着による冷え込み感に4~5℃の差があったら、見た目の数値以上に大きな違いが感じられるはずだよ。やっぱり綿は濡れがかなり残るんだね。
実際のところ、被験者の部員Kも「濡れている所がとにかく冷たかったです」と。今回は安全面も考慮して5分間の比較でそれだけの差が出ましたが、仮にもっと時間をのばした場合、綿がベースのものと乾きがよいものとの差はさらに開いたはずです。
そうだろうね。綿は吸水性があり肌触りがよいからこそ、昔から下着に使われる定番素材なわけだけれども、一方で水を吸ったあとは乾きにくいという性質がある。日常生活の範囲ならそれが肌触りのよさになっても、シビアな条件下だとマイナス面が出てくるわけだ。
もちろん、化繊の下着であっても、必要以上に厚みがあって水分が蒸散しにくいものであれば、綿と同じように冷えの原因になってしまうはずです。綿でなければなんでもいいというわけではありませんが、まずは素材をよく見ることはだいじですね。
真冬に凍った湖の上で楽しむワカサギ釣りだって、氷に穴を開ける作業は汗だくになるしね。船釣りのように一見すると動きが少ない釣りでも、寒い季節のウェアの中は意外に汗をかくものだ。

冬の釣りは思っている以上に汗をかく。まずはその点を押さえたい

本格的なアウトドアウェアをいくら重ねたとしても、下着に綿のTシャツを1枚着てしまったら、台無しになってしまう可能性が高いということもいえそうです。
そういうことだ。まずは下着の素材や汗の排出のしやすさにしっかり注目して、自分なりのレイヤリングを考えれば、いろいろなウェアを自分で組み合わせるヒントにもなるはず。快適な防寒への一歩はまずそこから始めたいね。

※このコンテンツは、2022年1月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。