どんなことも調べてみよう!釣りの実験ラボ

  • 第3回
  • 水中のルアー。色の違いはどれだけある?

近年、ジャンルを問わず人気が高いルアーフィッシング。ルアーにはさまざまな種類や形がありますが、もうひとつ、大きな要素になっているのが「色(カラー)」です。「同じルアーでも、よく釣れる色とそうでない色に差が出る」というのは、多くの釣り人の意見。なぜそうなるのか? ヒントを探ります。

釣りの実験ラボ(Labo)
とは?

釣りにまつわる旬のテーマや普遍的なノウハウを、実験や観察で検証するコーナーです。
経験豊富で世界を釣り歩くベテランアングラー・丸橋英三さんが見どころを解説します。

  • 解説
  • 丸橋英三(まるはし・えいぞう)

    ジャパンゲームフィッシュ協会(J.G.F.A)
    副会長

    1949年、東京銀座生まれ。家業の鮨屋を手伝いながら、幼少からさまざまな釣りにのめり込む。27歳で都内に釣具店をオープン。イシダイ・イシガキダイをねらう磯釣りに熱心に取り組む一方、海外にも積極的に出かけて先進的なスポーツフィッシングに感銘を受け、フライフィッシングでねらうフロリダの2大ターポンフィッシングトーナメントでは3年連続の同時優勝など快挙を成し遂げる。明るい人柄と歯切れのよい語り口にファンも多く、〝世界のEIZO〟のニックネームでNPO法人ジャパンゲームフィッシュ協会(J.G.F.A)副会長も務める。

Theme _

今回のテーマ

赤、黄、緑、青、黒、白、金、グロー(夜光)

水中のルアー。色の違いはどれだけある?
丸橋さん、今回の検証テーマは「ルアーの色」です。
ほほう。確かに気になるところだね。どんなふうに検証するのかな。
シンプルですが、同じルアーで色だけが異なるものを複数個用意し、1枚のアクリルボードに配置したものを水中に沈めて行きます。周囲の明るさなどはその日しだいになりますが、それらの見え方がどう変わるのかを実際にモニターしてみたいなと。

なるほど。そもそも昔は、魚には色の違いが分からないとも言われていたね。しかし、その後の複数の実験などから、今では魚も色がある程度は識別できることが分かってきた。私の好きなイシダイが、水族館で色の違う輪をくぐる曲芸をするのも、何らかの形で色の違いを認識しているからだろう。

磯釣りで人気のイシダイ。近年の研究では魚も色を識別していることが分かってきている

多くの釣り人の実感としても、それまで無反応だったのに、ルアーのカラーを変えたらアタリが得られた……ということは確かにあります。
アオリイカなどは、「色彩」を区別する能力はないというよね。その代わりに「明暗(コントラスト)」を識別する能力は人とは比較にならないほど高いそうだ。ルアーの色が違うことで、魚の反応が変わることがあるというのは、そうした要素も鍵になっているんじゃないかな。

エギングなどで人気のアオリイカは、ルアー(エギ)の明暗を識別しているらしい

生きものの視覚には色彩を判別する「錐体(すいたい)」と、明暗を識別する「桿体(かんたい)」の2種類の細胞が関係しているそうです。魚は人に比べて桿体の感度がより高いことから、明暗の差に敏感なのではないかと言われています。

つまり、人としては色の違いで選んだルアーが、明暗の差になることで、魚にも結果的に「色の差」が出ているということかもしれません。

色の違うルアーを水中で見た時に、どれくらい「色の差」が出るのか、あるいは「明暗の差」が現われてくるのか、といった点は興味があるね。さっそく検証してみよう。

色違いのルアーを水中に沈めて変化を観察してみる

撮影には水深100mまで潜航できる専用の水中ドローンを使用

Experiment _

実験

今回の実験
  • 2タイプのルアー(スプーンとプラグ)で同モデルの色違いを用意。
  • 場所は最大水深70m・平均透明度8mの湖(山梨県西湖)。
  • それぞれのルアーを1枚のアクリル板に並べ、沖に出たボートの上から徐々に沈める。
  • 表層(水深0m)から深層(50m)まで、ルアーを並べたアクリル板を徐々に沈め、各色のルアーの見え方がどのように変化するかを観察する。
色違いのルアーは水中でも同じように「違う色」に見えるのか? どんな色が目立つ(or目立たない)のか? そんなところに注目だな。
観察したルアーはこの2タイプ
  • A:スプーン

    金属片タイプのシンプルなルアー。種類に応じて淡水の釣り場でも海水の釣り場でも使用される。深い場所を探るジグも同じ金属片タイプのルアーなので、スプーンの色の変化はジグの色の見え方の参考にもなるはず。

  • B:プラグ

    小魚を模したタイプのルアー。素材はバルサ材やプラスチック。種類に応じて淡水の釣り場でも海水の釣り場でも使用される。今回用意したのは昔から人気があるバルサ製のシンキング(沈む)タイプ。

ルアーの見え方はどのように変化する?

いざ、観察を開始!

スプーンとプラグの2タイプのルアーをそれぞれ水中に沈め、よく見える色や見え方の変化をチェック!

A:スプーンの見え方の変化を観察(2:45)

B:プラグの見え方の変化を観察(2:40)

全体的に、思っている以上に深い場所まで「色の違い」が確認できたね。そのうえでスプーンはある深さを超えたところで、見える色と消える色の差が出始めたね。
Result _

結果

結果発表!

※観察をしたフィールドは平均透明度8mほどの比較的クリアな湖。
※当日の天候は曇り。時間は日中。光量は少なめ(晴天の日の朝夕にも近い状況)。

スプーンの見え方の変化

※上段:黒、白、金、暗緑+ピンク、銀+ピンク
 下段:ピンク、オレンジ、茶、明黄、明緑、明青、ベージュ、グロー

  • 0m

  • 10m

  • 20m

  • 30m

  • 40m

  • 50m

スプーンの色の見え方

※◎よく見える / 〇見えるが色褪せる / △見えにくい / ×ほぼ見えない

  暗緑・
ピンク
銀・
ピンク
ピンク オレンジ 明黄 明緑 明青 ベージュ グロー
(夜光)
10m
20m
30m × × ×
40m × × × × × × × × ×
50m × × × × × × × × × × × ×
プラグの見え方の変化

※ニジマス、蛍光オレンジ、青+白、タイガー(パーチカラー。緑黒橙)、金黒、白、銀黒、白赤(レッドヘッド)

  • 0m

  • 10m

  • 20m

  • 30m

  • 40m

  • 50m

プラグの色の見え方

※◎よく見える / 〇見えるが色褪せる / △見えにくい / ×ほぼ見えない

  ニジマス 蛍光
オレンジ
青白 タイガー
(パーチカラー)
金黒 銀黒 白赤
(レッドヘッド)
10m
20m
30m
40m
50m × × × × × × × ×
結果はこのようになりました! 意外だったのはプラグのほうで、どのルアーも同じような加減で変化した印象です。つまり色による差が少ないような……。

少なくとも今回の条件では、複雑なカラーバリエーションがあるわりに、水中での見え方には差が感じられなかったね。どの色も同じような加減で色褪せていった印象だ。

ちなみに私も若い頃はルアーをよくやっていて、今回のプラグの中にもある「パーチカラー(ファイヤータイガー)」がお気に入り。「よく釣れる色」と思っていたのだけれどね(笑)

それに比べると、スプーンのほうは水深が変わるにしたがって、色による微妙な見え方の違いが出てきましたね。特にグロー(夜光)は名前のとおり光っているからでしょうが、他の色が見えない深さになってもかなり長く存在感を放ち続けていて驚きです。
実際の釣りでスプーンをここまで深く沈める機会は少ないかもしれないけれど、同じ金属製のルアーであるジグや、最近人気のタチウオ釣りで使用されるテンヤの色にも似たような傾向があるとすると、深場の釣りでアピールしたい時にはグローが非常に効くだろうという印象を受けるね。
そうですね。水深50m以上の深場を釣る東京湾のテンヤタチウオ船の船長も「ゼブラグロー(グローと他色のミックス)はよく釣れます」と言っていました。

深場をねらう東京湾のテンヤタチウオ釣りでは、薄暗い時間帯のゼブラグローが人気色の1つ。その理由がうかがえた

あとはスプーンに関しては、水深20mくらいまではそれぞれのルアーが元の色の感じで見えるけれども、30mあたりから色ごとに差が出てきて、暗い緑、茶色、明るい青あたりがいち早く見えなくなった。

偶然かもしれませんが、先日、トラウトの管理釣り場に行く機会があって、その時によく釣れた色はむしろ、それらのいち早く見えなくなった色だったんですよ。

トラウトの釣りの場合、よく「飽きずに見切られにくいカラー」といった言われ方がしますが、目立たないことが必ずしも悪いことではないはずです。そうした観点から今回の結果を見れば、また違ったヒントも得られそうですね。

管理釣り場のトラウトルアーフィッシングでは茶系などのナチュラルカラーが定番。色によっては「目立ちにくい」という効能もありそうだ

そうだね。まずは「見えやすい色」と逆に「目立ちにくい色」の大きく2つでルアーの色を捉えてみて、それぞれの釣り場で「今の状況ならどちらが合うだろうか?」「これでダメなら反対の系統の色にしてみたらいいのでは?」といったように、ルアーのカラー選択を考えてみると面白いんじゃないだろうか。相手は生きもの。やっぱり、自分自身でもあれこれ試してみることがとても大切だよ。

今回の検証結果も、釣り場の水がもっと濁っていたり、天候が違っていれば、当然変わってくる部分があると思います。タイラバのネクタイのような、樹脂製のパーツでは色がどう見えるのかといった部分も気になりますし、まだまだ面白い結果が得られそうです。

そこが「実験」の面白いところ。皆さんの釣りのヒントになるような試みをドンドン続けて行きましょう。

※このコンテンツは、2021年12月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。