湿原の川で、グラバーが放した鱒の末裔と遊ぶ。
「日光を見ずして結構というなかれ」
そんな格言があるほど、景勝地の多い栃木県・日光。
もちろん世界遺産の東照宮も素晴らしいに違いないが、
私たち釣り人、ことにフライフィッシャーにとって、「日光」は特別な意味を持つ。
というのもこの土地は、フライフィッシング発祥の地のひとつなのである。
いろは坂を走り抜けると、まず目に飛び込んでくるのは中禅寺湖。
初夏、湖面に落ちるセミや、あるいはワカサギなどを模したフライに、
大型のブラウントラウトやニジマスが襲い掛かるシーンが見られるこの湖も、
やはりフライフィッシャーにとっては人気が高い。
ロープウェイで明智平に行くと、そんな中禅寺湖と、そこから流れ出す華厳の滝が一望できる。
まさに絶景が釣り人を迎えてくれる。
中禅寺湖畔を走ると、やがて湯川に到着。
ラムサール条約の登録湿地である戦場ヶ原を流れるこの川は、
かつてトーマス・グラバーが放したブルックトラウトの末裔が悠々と泳ぐ。
日光国立公園の湿地内にある湯川は、フライフィッシングを楽しむこともできるのだ。
広大な湿原と森を縫う流れでの釣りは、
ここが日本であることを忘れさせてくれる。
遠足に来た子どもたちが
「こんにちは!」、「釣れましたか?」と声をかけてくる。
笑顔で答えながら、ゆったりとした流れにフライを投じる。
魚は賢いようで、倒木の際ギリギリとか、
岸のエグレなどをていねいに流さないと、なかなか反応してくれない。
上手く流れたフライを吸い込むようにくわえてくれたのは、
25cmほどのブルックトラウト。
カワマスとも呼ばれるこの魚は、日本のヤマメやイワナより、
いくぶん派手な斑紋の魚体が印象的。
しばらく抵抗した魚は、やがて水の中でゆれる水草の間から浮上した。
釣りをしながら、湯川沿いの木道を歩く。
戦場ヶ原は、もともと男体山の噴火で湯川が堰き止められてできた湖だったという。
土砂などが積もり、枯れた水生植物が堆積して湿原になったのだ。
湖がこの風景になるまで、いったいどれだけの時が流れたのか……。
霧がかかった戦場ヶ原を眺めていると、不思議な思いにとらわれてしまう。
日が傾いてきて、湯川の魚たちともお別れ。
中禅寺湖に戻り、そろそろ帰路につかねばならない。
が、夕暮れの中禅寺湖は刻々と色合いを変え、
それを眺めていると、ついつい時間が経つのを忘れてしまう。
お……水面に波紋が広がった。
たぶんあれは、ブラウントラウトではないか?
今度この地を訪れたら、
中禅寺湖で60cmを超す大型をねらってみようか――。
※このコンテンツは、2017年8月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。
※掲載されている写真は事前に許可を得た場所で撮影を行ったものです。