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Honda Face Top > Case54:「Power Exporter 9000」 開発プロジェクト EPISODE-1

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「Power Exporter 9000」 開発プロジェクト
東京モーターショーで「CLARITY FUEL CELL」と「Power Exporter 9000」を報道陣に紹介する八郷隆弘代表取締役社長

東京モーターショーで「CLARITY FUEL CELL」と「Power Exporter 9000」を報道陣に紹介する八郷隆弘代表取締役社長

「Power Exporter 9000」を介すことで、電動車両から電気を取り出し、さまざまな電化製品を動かすことが可能

「Power Exporter 9000」を介すことで、電動車両から電気を取り出し、さまざまな電化製品を動かすことが可能

Hondaは「つくる・つかう・つながる」でCO2排出ゼロの水素社会の実現を目指す

Hondaは「つくる・つかう・つながる」でCO2排出ゼロの水素社会の実現を目指す

東京モーターショーでもお披露目された、外部給電器「Power Exporter 9000」。

 国内外の主要メーカーがこぞって出展するモビリティの祭典、「東京モーターショー2015」において、Hondaは燃料電池自動車(FCV)の市販予定車、「CLARITY FUEL CELL」を全世界に初披露。発売時期を2016年3月と発表しました。
 そして、このFCVと共にまばゆいライトの下に展示されたのが外部給電器「Power Exporter 9000」です。

 外部給電器。その耳慣れないカテゴリー名の製品はFCVや電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)といった電動車両とつなぐことで、クルマが蓄えている、あるいはつくり出す電力を外部へと供給することができるというもの。 「Power Exporter 9000」があれば、クルマを「走る電源」として、電源のない場所であってもさまざまな電化製品などを動かすことができるのです。
 しかもその使用方法は、クルマと「Power Exporter 9000」を一本のケーブルで接続し、電源を入れるだけというシンプルさ。あとは「Power Exporter 9000」のコンセントに電化製品をつなぐだけで普段通りに使えます。キャンプなどで気軽に温かい料理をつくったり、音楽をかけたりと楽しみを広げるだけでなく、万が一の場合には、クルマを非常用の電源にできるため災害への備えにもなるのです。
 また、「Power Exporter 9000」は外部給電器として初めて「電動自動車用充放電システムガイドライン V2L DC版」※1に適合しました。このガイドラインは、電気安全および車両と接続機器の互換性を確保するために作成された規格。つまりHondaはもちろんのこと、他メーカーのFCV、EV、PHEVとつながり電力を供給することが可能なのです※2

 「東京モーターショー」の一般公開に先駆けたプレスカンファレンスで、Hondaの八郷隆弘代表取締役社長は「Power Exporter 9000」を「CLARITY FUEL CELL」との同時発売を予定していることを発表。そしてこの新型FCVとつなぐことで一般家庭が使う約7日分※3の電力供給ができると紹介した上で、次のように宣言しました。
「『CLARITY FUEL CELL』やスマート水素ステーション、外部給電器を組み合わせることで、水素エネルギーを『つくる・つかう・つながる』社会をつくっていきたい」
 再生可能エネルギーをつかって水素をつくり、その水素を燃料にクルマを走らせる。さらにクルマから電気を取り出して活用する。Hondaは、そうしたCO2排出ゼロの水素社会の実現を目指しています。

  • ※1.
    電動自動車用充放電システムガイドライン V2L DC版:一般社団法人電動車両用電力供給システム協議会によって、電気自動車等の蓄電・発電能力を活用して電気機器に直接給電を行うVehicle to Load(V2L)について、電気安全および車両と接続機器の互換性を確保するために作成されたもの
  • ※2.
    供給できる出力・容量は接続する車種によって異なります
  • ※3.
    一般家庭における一日の平均消費電力量(電気事業連合会調べ)から換算した場合

東日本大震災が外部給電器の必要性を浮き彫りにしました。

 「Power Exporter 9000」は、Hondaで初めての外部給電器ではありません。もともと、Hondaでは2010年頃からクルマの価値を高めることを目的に、電動車両を蓄電池のように活用して家庭や屋外で電気を使おうという動きが始まっていました。走る時間よりも実は駐車している時間の方が長いクルマに、新しい価値を与えようとしていたのです。

 そんな中、Hondaが外部給電器の開発を加速するきっかけとなる出来事が2011年に起こります。東日本大震災です。日本中で電気が不足し、被災地では電気やガソリンといったエネルギーが行き届かない日々が続きました。エネルギーがなければ照明も暖房機器も使えず、食事の準備もままなりません。情報を集めるためのテレビやラジオ、PC、連絡を取り合うための携帯電話も動きません。災害時に電力がないこと。それは生命の存続に直結します。
 Hondaは、停まっている電動車両の活用方法について、災害時の非常用電源として使えるようにすることが最優先であり、それを実現する外部給電器の必要性を痛感しました。しかも電動車両を非常用電源にできれば、今後、電動車両の普及が進んだとき、日ごろ使っているクルマが災害時にそのまま非常用電源としての役割を果たすことになります。それがこれからの社会につくっていくべき安心・安全であるという判断から、外部給電器の開発を本格的にスタートしたのです。

 「私たちには発電機のノウハウがありますから、外部給電器の開発に戸惑うことはありませんでした」
そう話すのは初代の外部給電器から開発に携わった(株)本田技術研究所 汎用R&Dセンターの江口博之主任研究員です。
「Hondaは1965年にポータブル発電機を発売以来、電気の品質向上に取り組んできた50年以上の歴史があります。私たちは、どんな電気製品でも使える、つないだ機器を壊さない、自身が壊れない発電機を追求してきました。その中でユーザーの声に真摯に応えながら、何があってもどんな場面でも高品質な電気を安定して供給する技術を培ってきたのです。たとえば発電機を使って炊飯器でご飯がおいしく炊けないというご意見もありました。無茶な要望にも聞こえますが、これは一定の出力を安定して供給できれば解決できる問題です。こうした改善の積み重ねの上に今の電気の品質がある。そんな会社は他にない、災害時に本当に役立つ外部給電器をつくることができるのはHondaしかいないという自負がありました」(江口)

 また、9kVAという大容量出力も非常時を意識したものだと江口は続けます。
「震災の経験を踏まえると避難所で使用することを考えなければなりません。数十人、数百人が集まる避難所を支えるには最大出力は大きければ大きいほどいい。しかし、法規制により10kVA以上の出力を持つものは発電所とみなされ、資格などの関係から一般の方が容易に扱えるものではなくなってしまう。だから法規制の範囲内で最大の出力を持つ製品としたのです。それでもほとんどクルマに積める発電所をつくるようなものでした」(江口)
 そして2012年、HondaのFCVの旧モデル、「FCXクラリティ」に「走る電源」としての価値を与える外部給電器の初代機が完成したのです。

(株)本田技術研究所 汎用R&Dセンター 江口 博之 主任研究員

(株)本田技術研究所 汎用R&Dセンター
江口 博之 主任研究員

■外部給電器(9kVA) 歴代モデル

2012年に開発されたHonda初の外部給電器

2012年に開発されたHonda初の外部給電器

2013年に開発された2代目のモデルでは新たに200Vのコンセントを搭載

2013年に開発された2代目のモデルでは新たに200Vのコンセントを搭載

出力を一定に整える正弦波インバーターを初めて搭載した発電機 「EX500」

出力を一定に整える正弦波インバーターを初めて搭載した発電機 「EX500」

Hondaの外部給電器は電力会社が家庭に供給する電力と同等以上の品質を実現。出力が一定でない質の悪い電気を使うと蛍光灯がチラついたり、PCなどの精密機器が誤作動を起こしたり壊れてしまう場合も

Hondaの外部給電器は電力会社が家庭に供給する電力と同等以上の品質を実現。出力が一定でない質の悪い電気を使うと蛍光灯がチラついたり、PCなどの精密機器が誤作動を起こしたり壊れてしまう場合も

 
(株)本田技術研究所 汎用R&Dセンター 津野 康一 研究員

(株)本田技術研究所 汎用R&Dセンター
津野 康一 研究員

(株)本田技術研究所 四輪R&Dセンター貞野計 主任研究員

(株)本田技術研究所 四輪R&Dセンター
貞野計 主任研究員

市販にあたり小型軽量化も追求。後ろの赤い発電機の出力は3kVA。同等の大きさで3倍の出力を確保

市販にあたり小型軽量化も追求。後ろの赤い発電機の出力は3kVA。同等の大きさで3倍の出力を確保

本体後部にはタイヤがついており、一人でも動かすことが可能

本体後部にはタイヤがついており、一人でも動かすことが可能

「Power Exporter 9000」透過図。クルマと接続するための給電コネクタを含め、各種部品がみっちりと詰め込まれている

「Power Exporter 9000」透過図。クルマと接続するための給電コネクタを含め、各種部品がみっちりと詰め込まれている

軽量化のために、内部を樹脂で埋めなくても耐久性を確保できる構造を実現した「Power Exporter 9000」のパーツ

軽量化のために、内部を樹脂で埋めなくても耐久性を確保できる構造を実現した「Power Exporter 9000」のパーツ

あらゆるシーンで使いやすく、他メーカーのクルマともつながる外部給電器を。

 初代機の誕生から2年。初の市販モデルである「Power Exporter 9000」の開発には多くの困難が付いて回りました。初代機から9kVAの大出力やクルマと接続し外部給電する機能を実現しており、一見課題は少なかったように思われるかもしれませんが、従来機と大きく変わった点が2つあります。それは他メーカーのクルマともつながる汎用性を備えたこと、そして市販するということそのものです。
「これまで開発してきた外部給電器は『FCXクラリティ』のみとしか接続できないものでした。ですが、災害時に役立つ商品となるには、このクルマとはつながらないなどと言っていられません。どの電動車両も『走る電源』として活用できるようにするため、汎用性の確保は必須でした」(江口)

 (株)本田技術研究所 汎用R&Dセンターの津野康一研究員は、汎用性の証明となる「電動自動車用充放電システムガイドライン V2L DC版」への適合に最も苦労したと振り返ります。
「汎用性のある外部給電器をつくっているのは、世界中で我々だけ。『Power Exporter 9000』が初めてガイドラインに適合する製品であるため、適合の前例がありません。ガイドラインを規定した団体に適合性を逐一確認しながら外部給電器の仕様をつくりあげる必要がありました。これはもはやガイドラインそのものをつくるのと同じかそれ以上の労力が求められます。しかしすべては災害時に安心してつなげる外部給電器をつくるため。こうした工程が必要なことからも世界初のものをつくっているということを実感しましたね」

 また、外部給電機能は「Power Exporter 9000」だけでは成り立ちません。クルマとの接続確認や、クルマと外部給電器それぞれの動作の仕様決めなど、同時発売を目指して開発真っ最中の新型FCVの開発チームと共同で行わなければならない作業が山のようにありました。

 「CLARITY FUEL CELL」の外部給電機能のプロジェクトリーダーを務めた、(株)本田技術研究所 四輪R&Dセンターの貞野計主任研究員は、外部給電器を市販化することで機能を一から再検討することが必要だったと話します。
「これまでの外部給電器は実証実験用や法人向けなど、使うお客様やその使い方が限られていました。しかし、市販するとなった瞬間に、幅広いお客様が多彩なシーンでさまざまな使い方をすることを考慮しなければなりません。どんな使われ方があり、それぞれの場合にどんな風に動作すれば使いやすいのか。とことん検討し、あらゆるシーンを想定して機能をつくり込むことが必要でした」(貞野)
「たとえば最大出力を越えた時、クルマはどんなアラートを出すのか、外部給電器はどう動作するのか。そうしたことを一つひとつ考え、クルマの仕様を変更してもらったり、逆に『Power Exporter 9000』の仕様を変えたりという作業を繰り返しました」(津野)

 さらに外部給電器を市販することは外部給電機能だけでなく、クルマ全体の開発チームに影響を与えました。従来、クルマのパワートレインの耐久性とは主に走行時を見据えて算出されるものです。ところが、外部給電機能はクルマが止まっている時に使用する機能。市販化するということは実証実験などでの限定的な使用から、実用的な使用に耐えられるようにしなければなりません。走行に加えて外部給電機能を使う時間も加味し、耐久性を含めた総合的な性能をクルマ全体のパーツについて見直す必要がありました。
「開発チーム全体、さまざまな領域の人たちに、外部給電機能の価値を理解してもらい、協力してもらうことが大変でした。しかし『つながる』は、将来的にクルマの『走る・曲がる・止まる』と同列になっていくべき機能です。私たちは、それだけの意思を持って開発を進めていきました」(貞野)