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Honda Face Top > CASE18:(株)本田技術研究所 二輪R&Dセンター ニューミッドコンセプトシリーズ開発プロジェクト EPISODE-3

(株)本田技術研究所 二輪R&Dセンター ニューミッドコンセプトシリーズ開発プロジェクト Face Top

(株)本田技術研究所 二輪R&Dセンター 内田聡也研究員

(株)本田技術研究所 二輪R&Dセンター 内田聡也研究員

どんなバイクにも似ていない、魅力的な味と雰囲気が出ていました。

 ピークパワーを低い回転域に持ってきた新発想のエンジンは、四輪の低燃費技術を吸収したこともあって、試作の段階から予想以上の燃費性能を発揮しました。「このままいけば燃費No.1は夢じゃない」という手応えを感じながら、プロジェクトメンバーにはまだ不安がありました。
 大須賀が当時の気持ちを振り返ります。
 「四輪車を参考にした技術の導入、しかも大型FUNバイクとしては前例のない高回転、高出力との決別。そんなエンジンで楽しいバイクが成立するのか、という不安です。いくら燃費が良くても、乗って楽しいバイクじゃなければ意味がありませんから」
 しかし、試作車を初めて走らせたプロジェクトのテストライダー内田聡也研究員は、それが杞憂だったことを知ります。
 「それまで味わったことのないライディングフィールでした。楽しくないどころか、クルマの低燃費エンジンの諸元(基本設計)を加味することで、他のどんなバイクにも似ていない味と雰囲気が出ていたんです」
 もちろん、FUNバイクのエンジンとしては未完成で、改善すべき点は多々ありました。しかし、これを煮詰めていけばきっとモノになるという、素性の良さがしっかり感じ取れたと言います。
 「設計者は自分の設計したエンジンをどうしてもプラス評価したくなりますが、数々のエンジンを評価してきたテストライダーの内田さんが『いける』って言ったのが、結構衝撃的でした」(大須賀)
 「でもエンジン屋としてはドキドキだったんですよ。実際に乗ってもらったら、『ありえないよ』って言われるんじゃないかって(笑)」(根来)
 しかし、開発陣にとってそれからが本当の勝負でした。FUNバイクとしての魅力を完成させるために、エンジンはまるで別物に変わっていったと言います。
 「四輪車では、快適性を向上させるため極力振動を小さくすることを考えます。しかしバイクには+αの乗り味が求められます」(根来)
 そこで四輪では各シリンダーが等間隔で燃焼する方式をとっているのに対し、2つのシリンダーが不等間隔で燃焼する方式を採用。さらに通常同じにするそれぞれのシリンダーのバルブタイミングを微妙にずらすことによって、味わい深く、力強さを感じさせる鼓動感を生み出しました。
 「バイクを操る楽しみの中でも最も大切な要素の一つがスロットルグリップの操作に対するエンジンのリニアな反応です」(大須賀)
 このためエンジン本体はもちろん吸排気系も含めた徹底的な追求が行われました。また、サイズの大きい四輪用エンジンをそのままバイクに搭載することはできません。コンパクトなエンジンとするため、回転方向を逆転させ、シリンダーとクランクの位置関係も見直しました。

「作戦勝ちです」と当時を振り返る青木

「作戦勝ちです」と当時を振り返る青木

乗ってもらわないと伝わらない。じゃあ伊東社長に乗ってもらおう。

 青木は、プロジェクトで定めた方向性が正しいことを、客観的データで裏付けることも行いました。ヨーロッパの複数の地点で一般的なユーザーの日常的な走りを計測・分析したのです。
 すると、全計測の90%が140q/h以下、80%が6000rpm以下での走行であることが分かりました。まさにそれは、開発しているバイクが最も得意とする領域でした。
 それでも、プロジェクトが目指す「燃費No.1の大型FUNバイク」というコンセプトがユーザーに受け入れられるのかどうか、社内には懐疑的な意見も多かったと言います。馬力や回転数や最高速など数字に表れる魅力と違い、今回のバイクの良さは乗ってみないと分からないのでなおさらです。「そんなバイクの開発をこのまま続けさせていいのか?」という社内の心配を一掃するため、青木は思い切ってある作戦を実行しました。
 「伊東孝紳社長に乗ってもらい、お墨付きをもらおうと考えたんです」
 青木は、北海道のテストコースで行われる伊東社長の試乗会に、予定に無かったこのバイクの試作車を組み入れることに成功しました。
 すると試乗を終えた伊東社長は、次のような感想を述べたのです。
 「これは今までにないエンジンフィールだね。今回の試乗車の中で一番印象がいい。研究所が変わろうとしてる意気込みを感じるね」
 伊東社長のコメントが広まると、社内の雰囲気が一変しました。懐疑的な意見は影を潜め、代わりに「試作車を見たい。乗りたい」という声が次々にあがりました。それもそのはず。伊東社長は日頃から自身で大型バイクを乗りまわしているバイクファンです。その伊東社長が良いと言ったのはいったいどんなバイクなんだ、とプロジェクトへの注目度が一気に高まり、応援ムードに変わりました。
 「乗ってもらえば、絶対良いと言ってもらえる自信がありましたから。作戦勝ちです(笑)」(青木)

新型700ccエンジンは、6,250回転という低い回転数で最高出力50psを発揮

新型700ccエンジンは、
6,250回転という低い回転数で最高出力50psを発揮

コストダウンのため技術面をやりきった後、さらに海外調達にまで踏み込みました。

 No.1の燃費性能の追求、バイクとしてのキャラクター熟成などが進む一方、青木は並行してコストダウンの目標に取り組んでいました。30%ものコストダウンを成し遂げるには、小手先の改良では到底間に合いません。レイアウトの見直し、部品の統廃合、材質や表面処理の見直しなど、エンジンの根本的な部分にまで踏み込んで再構築していきました。
 従来であれば流用で済ませてしまうような部品に至るまで徹底的な見直しを行い、技術面でようやく約23%のコストダウンにまでこぎ着けましたが、最後の7%がどうしても削れません。そこで、大型バイクでは前例の無かった「海外からの部品調達」を組み込むことで、ようやくマイナス30%達成のめどを立てました。
 「世界の20カ国以上にHondaの工場があります。その海外工場のサプライヤーから部品を調達するのです」
 世界中のサプライヤーに新しい部品を試作してもらい、それをチェックしテストする。この作業を繰り返し、海外調達部品をひとつずつ増やしていきました。
 「まさに世界中を行脚しましたよ。最終的に、このバイクの部品の部品海外調達率は40%を越えました」(青木)
 こうした紆余曲折を経て完成した「ニューミッド」は、2011年11月のヨーロッパを皮切りに、日本では2012年2月に発売を開始。共に大きな反響を呼び、好調な売れ行きを示しています。
 青木は最後に、今回のニューミッドの開発を振り返り、こんな感想を語ってくれました。
 「Hondaは2020年に向けた方向性を『良いものを早く、安く、低炭素でお客様にお届けする』と定めています。ニューミッドは、まさにこの方向性に沿うものですが、実はコンセプトを定めたのはニューミッドのほうが先なんです。私は周りに、Hondaのほうがニューミッドのコンセプトを取り入れたんだ、と言ってますけど(笑)。それくらい社会のニーズを先取りできたのが成功の要因ですが、これは調査や統計から導いたものではなく、プロジェクトメンバー一人ひとりが考えて感じたものを形にした結果なんです。調査・統計で過去や現在は語れますが、未来を語るのは人間だけの特権です。これからも、未来を作る気構えを持ち、未来を変えていく製品を開発していきたいですね」