最終話これからの時代も操る喜びを
Photo: プレリュード/ムーンリットホワイト・パール
自動車専門誌掲載広告の再掲載です。
「車内の静けさや振動の少なさを追求する過程で、いつしかクルマの運転に必要な情報も不足するようになるのではないかという懸念を常々抱いていました」
Hondaの四輪開発本部で主にドライビングダイナミクス領域を担当する森 達也は、胸中にある思いをそう打ち明けた。
キャビンに伝わる音や振動は、ときに快適性を損なう要因となりうるが、そのいっぽうで、ドライバーはそうした音や振動を手がかりとしてクルマの状態や路面との接地性を把握し、運転に反映しているという側面がある。つまり、音や振動は不快な要素であると同時に、安全なドライビングに欠かせない情報でもあるのだ。
そうした貴重な情報が、クルマの進化という旗印のもとに失われつつあるとしたら、好ましいこととは言い切れない。しかも、近年は自動車の電動化によってパワートレーンからのノイズがさらに低減。これとバランスをとるため、ロードノイズに代表される音をこれまで以上に抑え込もうとする傾向が強まっている。
「Hondaのダイナミクスにおいては、ドライバーの操作に対してクルマを正確に反応させると同時に、それをドライバーにフィードバックすることにも重点を置いています。こうした価値もしくは性能は、N-BOXからNSXにいたるまで、Hondaのすべての四輪車に盛り込まれています」
そのいっぽうで、スロットルコントロールやブレーキングに呼応してエンジン回転数がすばやく上昇したり下降したりする様子を、エンジンから伝わる振動やサウンド、さらにはタコメーターの動きから感じ取ることは「ドライビングに必要な情報」という価値を超えて、ドライバーを高揚させ、感動をもたらす役割も果たす。つまり、ノイズやバイブレーションはドライビングに必要な情報となるいっぽうで、その使い方次第では官能性に寄与することにもなるのだ。
Honda S+ Shiftの価値は、まさしく、この点にあるといっていいだろう。

Photo:プレリュード/ムーンリットホワイト・パール
「Hondaのラインアップにあって、プレリュードは特にキャラクターが際立った機種です。そんなプレリュードの世界観を拡大するためにHonda S+ Shiftを役立てたい。私たちが強い意思を持って開発し、その初搭載モデルとしてプレリュードを選んだのは、このような背景からです」
たしかにHonda S+ Shiftの搭載によりプレリュードの官能性は高まった。ただし、それは荒々しいものでもなければ猛々しいものでもない。
森が解説する。「プレリュードのグランドコンセプトはUNLIMITED GLIDE。そこで、グライダーのようにどこまでも滑らかに飛び続けるイメージをその走りにも反映しようとしました。したがって軽やかさや伸び感のような印象を大切にするとともに、スポーツマインドも適度に表現したかった。プレリュードのHonda S+ Shiftでこだわったのは、このふたつの価値を両立しようとした点にあります」
つまり、プレリュードのエンジン音を高音主体の軽やかなものとし、敢えて音量を抑え気味にしたのは、UNLIMITED GLIDEというグランドコンセプトを実現するためだったのである。
もっとも、Honda S+ Shiftはプレリュード専用の技術ではなく、今後はHondaのハイブリッド技術「e:HEV」を搭載したモデルに幅広く展開していく計画だ。
「ただし、Honda S+ Shiftのセッティングは、搭載するモデルのコンセプトにあわせて調整していきます。そうすることで、様々な商品の個性をさらに強調する。今後はHonda S+ Shiftという技術を、そのような目的のために活用していきます」
とはいえ、プレリュードのHonda S+ Shiftを開発するために費やした膨大な労力を、ほかの機種開発でも同じように投じていくことは現実的ではなかろう。
「すでにHonda S+ Shiftに関しては一定の知見がありますので、プレリュードのときほどの開発工数にはならないはずです。ただし、うちのメンバーはこだわり始めたら止まらないエンジニアばかりなので、いったい、どうなることやら……。まあ、その辺はうまく折り合いをつけていくつもりです」
クルマを操る喜びを提供することは、Hondaが掲げる「人中心」「技術は人のために」という理念に基づいている。Honda S+ Shiftは、電動化されたHonda車にもそうした喜びをもたらすだけでなく、ドライバーの感動や官能性をより増幅するために生まれたテクノロジーであるといって間違いないだろう。



