第一話唯一無二の喜びをめざして
Photo: プレリュード/ムーンリットホワイト・パール
自動車専門誌掲載広告の再掲載です。
「これで理想のハイブリッドシステムが完成した」
2013年にSPORT HYBRID i-MMD(インテリジェント・マルチ・モーター・ドライブ)搭載の9代目アコードをリリースしたとき、Hondaの技術陣はそんな思いに胸をなで下ろした。
Hondaのハイブリッドの歴史は1999年発売の初代インサイトに始まる。コンパクトな1モーター式ハイブリッドシステム“IMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)”で3気筒1.0リッターエンジンをアシスト。アルミ製ボディーは車重を800kg台に抑えるとともにCd値:0.25の優れた空力特性を実現し、量産されるガソリンエンジン搭載車としては世界最高記録の35km/ℓ(10・15モード 5速MT車)を打ち立てた。「CO2排出量削減により地球環境の保護に貢献する」というHondaの願いは、ここに一定の成果を挙げたのである。
しかし、技術者たちはこれで使命を果たしきったとは思っていなかった。
1997年、ライバルメーカーから世界初の量産ハイブリッドカーが発表される。Hondaの技術者にとっては「世界初」のタイトルを逃したことも悔しかったが、状況によってはモーターだけでも走行できるライバルメーカーの製品が「ストロングハイブリッド」との評価を確立したのに対して、燃費性能を最優先してコンパクトに仕立てたIMAはモーター走行ができないがゆえに「ウィーク(弱い)ハイブリッド」と指摘されたことが受け入れがたかったのだ。
やがて「世界最高の燃費とEV走行(モーターの力だけで走行できる能力を意味する)を両立させたハイブリッドシステムの開発」が、Honda社内でひとつの合い言葉となっていく。こうした背景から誕生したのが前述のi-MMDだった。
Hondaの四輪開発戦略部でチーフエンジニアを務める榎本智行が解説する。「伝達効率だけを考えればメカニカルなパラレル式ハイブリッドシステムが有利ですが、エンジンを自由に効率よく使うにはシリーズ式ハイブリッドのほうが都合がいい。i-MMDは、このふたつの長所をあわせ持つハイブリッドシステムです」

Photo:プレリュード/ムーンリットホワイト・パール、アコード ハイブリッドEX(2016年モデル)/プレミアムスパークルブラック・パール
シリーズ式ハイブリッドは、エンジンが生み出したパワーで発電機を駆動。ここで生み出された電気エネルギーをモーターに供給して走行するハイブリッドシステムのこと。エンジンと駆動輪がメカニカルに連結されていないため、車速や駆動力負荷とは無関係にエンジンの運転状況を決められるので、熱効率を最優先にしたエンジン制御がしやすい点にそのメリットはある。
しかも、シリーズ式ハイブリッドは基本的にモーターの力で走行するため、EV並みの滑らかな走りが実現できるだけでなく「ウィークハイブリッド」との評価を返上するにも役立つ。一石二鳥だ。
ただし、単純なシリーズ式ハイブリッドはエンジンのパワーを一度電気エネルギーに置き換え、これを再び機械的な駆動力に置き換えることからエネルギー損失が生じる。つまり、駆動系としての伝達効率は劣ることになる。
もっとも、市街地走行ではこの伝達効率の弱点をエンジンの高い熱効率で補えるが、駆動力負荷が一定となる高速巡航ではこの不利をカバーしきれない。そこでHondaは高速巡航時にエンジンと駆動輪をメカニカルに連結。高いエンジンの熱効率と伝達効率の改善を図ったi-MMDを完成させたのである。Hondaの技術陣にとっては、まさに理想のハイブリッドシステムとなるはずだった。
i-MMDを搭載したアコードは優れた燃費性能で高い評価を受ける。ライバルメーカーの技術者からは「ここまでやるとは思わなかった」と賞賛の言葉も得た。メディアの論調もおおむね良好だったが、弱点の指摘もあった。
「高速道路の流入路や長い登坂などで強負荷の加速を続けたとき、車速の伸びとエンジン回転数の上昇が連動せず、不自然に感じられる」
これはあらかじめ予想された事態で、Hondaとしても技術的な対策は施していた。それでも、極端な運転状況でそうした現象が起きるのは事実。Hondaの技術陣は、またも新たな課題を突きつけられたのである。
この難題を解決すべく、Hondaは革新的なエンジンを生み出した。いままでのエンジンでは考えられないほど幅広い負荷領域で高い燃費効率を実現する直噴ガソリンエンジンである。その幅広い高燃費領域でエンジン回転を上下させ、ハイブリッドでありながら速度の上昇とともにシフトアップしていくような、痛快な加速フィールを実現したのだ。こうして誕生した現行ハイブリッド“e:HEV”は、アコードやシビックに搭載されて好評を博した。この過程で、燃費性能や動力性能を改善しながらドライバーの五感にも訴えかける新たな道筋を見い出した。
それが「五感に響くハイブリッド次世代技術」、Honda S+ Shiftの萌芽となる発想だった。

