Case 02
2022.08.31

「バトンタッチ型育休」で2人の負担を半分に
同期入社の夫婦が描く理想の育児のかたち

原田歩さん・橋冨加奈さんのHonda従業員同士のご夫婦が選択したのは、2人で順番に育休を取るという「バトンタッチ型」の育休。夫婦それぞれがワンオペで家事を行うためハードルが高いともいわれますが、2人はどのように乗り越えたのでしょうか?
■原田 歩さん(37歳)

(株)ホンダアクセス 情報システム部 アシスタントチーフエンジニア(※以下「ACE」) ※インタビュー当時
栃木にある、四輪の用品開発拠点にて、情報システム部に所属。設計者が使うシステム開発や運用のサポートを担当。
育休から復帰してから1年半後の2020年10月にACEに認定、さらに翌年(21年7月)からグループリーダーに抜擢。

■橋冨 加奈さん(39歳)

(株)ホンダアクセス 開発部 ACE ※インタビュー当時
四輪のインテリア用品の開発設計を担当。夫の歩さんとは同期入社。育休取得後はフルタイムで復職、復帰10ヶ月後の2019年10月、ACEに認定。

家族構成は、子供ふたり(9歳と3歳)

■育休取得タイミング/時期
2人目出産後妻が約7ヶ月/2018年6月~12月、その後、夫が約4ヶ月/2019年1月~4月と、
バトンタッチ型で取得

同期入社だから家事も育児もシンプルに半々のバランスに

育休を取ったのは、2人目のお子さんがお生まれになって、半年以上経ってからですね。

原田さん
はい。2018年の4月に次男が生まれて、最初は妻が7ヶ月間育休を取って、その後に妻の復職と入れ替わるかたちで、4ヶ月間取りました。

6月から12月までが加奈さんで、1月から4月までが歩さんというバトンタッチ型! まったく期間は被っていないですよね?

橋冨さん
被ってないですね。

バトンタッチ型は意外とハードルが高く、夫の家事/育児スキルへの不安から、妻が嫌がるケースが多いのですが、バトンタッチ型で取得した理由を教えて下さい。また、加奈さんに不安はなかったですか?

原田さん
単純に育休にもともと興味がありました。それに育休期間中の育児休業給付金が、育休開始から半年間は給料の67%が支給されますが、それ以降は50%になることから、収入のバランスも考えて、夫婦で入れ替わる形を取りました。もともと妻が休んでいる間も、仕事を優先して家事・育児をしないつもりはなかったので、お互いが仕事だけとか育児だけにしない、という意味でバトンタッチ型にしました。

橋冨さん
家事はもともと、私よりやってくれていたので楽でした。ただ、1人目のときは、育児の授乳や離乳食を作るのはほぼ私だったのですが、夫は器用なので、不安がないというよりは「教えればいい、やれないことはない」という考えで、2人目はやってもらいました

原田さん
家事育児の分担では、1人目が生まれた後からバランスを意識しはじめました。単純に同じ会社で入社も一緒なので、そういう意味で夫婦の間に差はない、という考えで、シンプルに半々、お互いの仕事もプライベートも、それぞれバランスを同じにしていくことは意識していました。仕事を優先し、家事・育児はしないつもりはなく、仕事が終わってから育児や家事のフォローはしていました。

どうやって、夫婦どちらも家事ができるようになっていったんですか?

橋冨さん
家事はもう、特に教えるも何も……って感じですかね。夫は1人暮らしをしていたので、もともとできていました。逆に私は実家暮らしだったので、2人とも同じくらいの感じでしたね。育児については、2人ともゼロからのスタ-トでした。

なるほど。家事スキルはもともと同じだったのと、育児部分は2人でゼロからいっしょに始めたから、経験値の差があまり開かなかったんですね。

橋冨さん
そこはほぼなかったですね。1人目の時は、1年以上育休を取り、日中の育児・家事を全般的にやっていました。夫は帰宅後と土日に。早く帰ってきてくれていて、極端に残業で遅くなるっていうのも少なかったです。そこはミッション的な感じで帰ってきてくれてましたね

意識的に残業しなかった? もともと残業がなかった?

原田さん
自分の父親が、こどもをお風呂に入れる時間までに帰ってきていたイメージがあったので、同じようにしたいという気持ちは持っていました。

互いのペースを把握し、家事と育児をバランス良く調整

1人目の育休からの復職もフルタイムですね。

橋冨さん
はい。朝は少し早めに出勤して、5時半には上がるという感じです。5時半に上がれば、ぎりぎりお迎えに滑り込めるっていう感じで。

そこは加奈さんがお迎えに?

橋冨さん
基本はそうでしたが、「この日は難しいからチェンジ」したり、例えば「火曜日と木曜日だけ交代する」などのやりくりをその都度していて、それは今も変わりません。まわりにも、なるべく夕方以降の会議は入れたくないので「6時までが限界だよ」、「5時半までしかいられないよ」と伝えています。でも、どうしてもはずせない会議が私も入ってきてしまうので、そのときは「何時から何時に打ち合わせが入るけどいい?」というやり取りをその都度夫婦でしています。

連携体制と連携プレーができる状態に、1人目の時からなっていたんですね。お互いの仕事を理解しながら調整できるのは、同じくらい真剣にお互いのキャリアに向き合っているからだし、職場の育休に対する見方を変えていく指針になりますよね。育休取得しやすい雰囲気は醸成された感触はありますか?

橋冨さん
夫が4ヶ月育休を取ったことを、周囲はもう忘れてる感じですね。4ヶ月って長い方だと思うんですけど、もう覚えていない人もいっぱいいて。「育休取ったっけ?」みたいになっています。

原田さん
良い意味なのか悪い意味なのかわからないですけど、取ったことは忘れられてますね。逆に仕事上困らないという証明でもあると思います。ただ、自分の中ではそこそこ覚悟を決めて、率先して育休を取ったので、忘れてる人もいるぐらいなんだなっていうのは思いました(笑)

橋冨さん
そうですね。良い意味で4ヶ月取っても問題なかったということだと思ってます。

原田さん
男性育休も、今は取っている人が少ないですが、誰かが取らないと変わって行かないという意識もありました。取る人が増えていけば、何年後かには当たり前になるだろうなって気はします。そのためのファーストペンギンになろうという話を、夫婦でもしていました。

歩さんは4ヶ月間、仕事から完全に離れていたわけですよね。その間は、離れていることに対する不安感はありませんでした?

原田さん
やっぱり多少はありました。(コロナ以前に)飲み会に呼ばれて、仕事のメンバーからいろいろ大変だって話を聞くと、人数が少ない部署だったので、負担を背負ってもらってる人には申し訳ないなっていう気持ちはありました。戻った際には、いなかった部分を埋めるなり、ちゃんと自分が取り返す気持ちで復帰しましたね。

男性が4ヶ月育休を取って、キャリアに大きな影響はないですか?

原田さん
研究開発領域ではACEの認定がひとつの節目です。妻は2回育休を取っていますが、夫婦ともに認定を受けているので、影響は受けてない印象です(妻は育休復職10ヶ月後、夫は復職1年半後に、それぞれ認定)

橋冨さん
キャリアへの悪い影響は双方特にないと思っています。むしろ評価してもらえているぐらい。

育休をふたりでバトンタッチ型で取って、歩さんは4ヶ月取得して、資格認定を受けることへのマイナスの影響は全くなかったということですね。逆にプラスの影響って、どういうところにあったと思いますか?

原田さん
今は後輩も増え、グループリーダーになり、立場上いろいろな人を見るのですが、育児に比べれば、会社の若手の方がコミュニケーションは取りやすく楽だなって思います。ちゃんとコミュニケーション取れる人の教育とかマネジメントの方が、ハードルが低く感じます(笑) 育児でマネジメントスキルが醸成されたと思います。

橋冨さん
ひと言でまとめると、そんな感じですね(笑)

取得時期をずらす「バトンタッチ型」には、夫婦にとってどんなメリットが?

夫婦でバトンタッチ型は本当に珍しく、ほとんどは「期間限定型」と言って、妻が育休中の間の一定期間、特に産前産後に夫が取ることが多いんです。バトンタッチ型で取ることで、加奈さんのお仕事に対するモチベーションなどに、何かプラスの影響はありましたか?

橋冨さん
1人目のときに結構長く休んだことで、私は大人との会話が不足してしまってすごくシンドかったんですね、早く復帰して大人と建設的な会話がしたかったので、2人目は夫に「育休取得よろしくね」と言っていました。なので、そのストレスを抱えきる前に仕事復帰できた、大人との会話を早くやれるようになったことはメリットでした。また、1人目のように私だけが育休を取ると、たぶん復帰しはじめってお母さんの負担がちょっと高くなると思うんです。バトンタッチ型は、体力的にしんどいところはありましたけど、いきなりギア5速で、スムーズにバーッと一気に走り始められました。

さらに、復帰するときに家庭のことをほぼ気にしなくていいっていうのは、めっちゃ大きいですよね。

橋冨さん
大きいです。ビックリしました。専業主婦を持つ旦那さんってこんなに幸せなの?って思ってましたね。なんじゃこりゃって(笑) 家に帰ったらご飯できてる、家事終わってる、なにこれ!みたいな。そんな奇跡的なことを4ヶ月間味わえました。

原田さん
何もしなくていいっていう。

橋冨さん
家のことしなくていいって、こういうことか!って思いました。

子育て中の女性に対し、職場の皆さんは理解を示してくれていますか?

橋冨さん
そうですね。私より上の女性の先輩がいらっしゃったのですが、お子さんが生まれて、別の部署に異動されました。こういったことで「子育てしながら開発するって、めちゃくちゃ大変。ある程度理解してあげないと、やっていかれないだろう」みたいな感覚を持っていただいている上司や先輩が多いです。

そうすると、職場の皆さんには、加奈さんが、他の部署へ異動や時短勤務を取得しないで済むようにしようという気持ちがあったということですか?

橋冨さん
「フルで帰って来てくれると嬉しいよ。そのために協力するよ」と言ってくれました。

そういった職場の皆さんの言葉に加え、パートナーの協業体制があるとやっていける自信はありますか?

橋冨さん
やらなきゃなっていう感じはあります。私はインテリアの用品を担当しているのですが、開発の中でも、エクステリアに比べ女性が多い部署です。私が若い後輩の女性たちに、そういう姿を見せていかないとみんな頑張れないので、引っ張っていかなきゃという気持ちです。

どうすれば育休取得者は増えると思いますか。

橋冨さん
私も男性がどんどん育休を取ればいいと思っているので、「妻が妊娠したんです」と言う後輩たちに「育休取らないの?」って絶対聞くようにしているんです。なので上司の人は私と同じように「育休取らないの?」って聞いてほしいなと思いますね。

原田さん
女性だから男性だからに関係なく制度としてあるし、取った方がワークライフバランス的には当然よくなると思うので、みんな当たり前に言っていいことなんだと思います。

橋冨さん
上司の方は「いつ取る?」って、取ることが前提ぐらいな感じで聞いてあげたら、考える機会になるんじゃないかなと思いますね。やっぱり自分が休んじゃうと仕事が止まっちゃうんじゃないかなと思う人はいっぱいいるんですけど、そんなことはなくて。じゃなきゃ女性が休めないので。そこに働きかけてもらえたらいいなって思います。

これまでの記事