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AIを活用した街づくりを目指して──はずれ値スマートシティの実現に向け徹底議論

少し変わっているけれど、ときにミラクルな120点をたたき出す「はずれ値人材」。個性的かつ行動力のある人材は、Hondaが100年に1度の大変革に立ち向かっていくための発想力・原動力として求められています。そんなメンバーが集う「はずれ値人材Meet Up!」。好評を博したVol.1に続く「はずれ値MeetUp! Vol.2」が、2021年11月14日に開催されました。Hondaの知能化領域の社員とゲストが、実在する街をモデルにしながら『AI技術を活用した理想の街づくり』をテーマに活発な議論を重ねました。オーディエンスから寄せられた鋭いコメントを取り上げつつ熱いトークを繰り広げたイベントの様子をレポートします。

三浦 亜美さんAmi Miura

株式会社ima代表取締役CEO、デジタルハリウッド大学特任教授

学生時代に事業を立ち上げ、その後、単身でバックパッカーとして世界を回る。帰国後は株式会社サンブリッジというベンチャーキャピタル(VC)で海外クラウドサービスの日本法人立ち上げや、インキュベーション施設の立ち上げなどを行う。2013年、株式会社imaを創業。日本酒、伝統工芸品、ユニークな技術などに最新のテクノロジーやVCでの知見を持ち込み、事業継承の仕組みをつくる。2016年、一般社団法人awa酒協会を設立。2017年、つくば市まちづくりアドバイザーに就任。2020年、スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム アドバイザーに就任。AIを活用したプロジェクトとして、日本酒の酒造りにおける匠の技をAIでサポートしながら技術継承にも寄与する「AI-sake」やAIによるアートの創造「AI-Mural」の実績を持つ。

岡田 侑貴さんYuki Okada

株式会社データグリッド代表取締役CEO

1993年生まれ。京都大学発のAIベンチャー企業、株式会社データグリッド代表取締役CEO。同社のAIを用いたAIアイドルゲームを展開する株式会社ジーンアイドル取締役を兼務。京都大学にて機械学習分野を専攻。AIの研究領域において急速な発展を遂げていたGAN(Generative Adversarial Network、敵対的生成ネットワーク)に注目し、GANの技術開発および社会実装を行うべく、株式会社データグリッドを創業。その一環で開発された「アイドル自動生成AI(GANを活用したAIにアイドルの顔画像を学習させ、架空のアイドルを自動生成する)」は世間でも広く話題となった。近年ではこうした「クリエイティブAI」を自動運転のセキュリティ領域にも転用するなどして、「AIと共に創造する社会」の実現を目指している。

栗原 聡さんSatoshi Kurihara

慶應義塾大学 理工学部教授

1965年生まれ。慶應義塾大学理工学部教授、電気通信大学 人工知能先端研究センター特任教授、人工知能学会倫理委員会オブザーバ。NTT基礎研究所、大阪大学、電気通信大学を経て、2018年より現職。AIにマンガ家の巨匠の作品を学習させ、新キャラクター・ストーリーを創出し、それを元に人が新作マンガを制作する一大プロジェクトでは、AI技術担当として参画。「人と共生できるAI」をテーマに、先進的研究に励んでいる。

安井 裕司Yuji Yasui

株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 知能化領域

1994年新卒入社。入社後、パワートレイン領域でのクリーンエンジン用システム制御の研究開発を経て、現在、協調人工知能を用いた自動運転・運転支援技術プロジェクトのリーダー、および、次世代モビリティの知能化研究における技術統括業務に従事。

はずれ値スマートシティの熱が高まり、プレワイガヤで街づくり案を議論

前回の「はずれ値Meet Up! Vol.1」開催後から、参加者たちはAIを活用した「はずれ値スマートシティ」を実現できないか議論を重ねてきました。「人とモビリティが一体となりコミュニケーションを通じて人の自由な移動を支えるAI」を目指しているHonda知能化領域のメンバーとゲストは実際に存在するとある県のA市をモデルとして、実際に街づくりを考えることになったのです。

安井

「A市は関東にある実在する街で、東京からのアクセスが良好です。A市長は街の人口を増やして活性化したいと願っているため、ベットタウンや働くときだけ人が集まってくる街ではなく、住みたいと思えるような街にしていきたいと考えています。肥沃で広大な農地がたくさんあるので、農業とAIを組み合わせた事業を展開できないだろうかという案が出ていますね」

そして第2回となる今回のイベント、「はずれ値MeetUp! Vol.2」開催前に、スピーカーたちはプレワイガヤを行いました。そこで、AIを活用した街づくりに関する意見が多数出たのです。

安井

「まず、AIとロボティクスを活用した農業を展開していきたいと考えています。Hondaには、人の意図や行動を理解し、コミュニケーションをしながら協調行動を行える、協調人工知能CI(Cooperative Intellgence)の技術があります。この自動運転技術を用いて、パソコンを通して人に作業状態を監視してもらえば、多くの農作業は自動化も可能です。在宅農業なんてことも夢ではありません」

そして、多くの方に住みたいと思われる街にするため、ライフステージによって住む場所を柔軟に変えられる仕組みを整備するという案も出ました。

安井

「A市のとなりの市はたくさんの高収入な研究者がいて、彼らの多くは海外留学、海外駐在の経験がある。

そこでHondaの社員が考えたのは、AIを活用して海外渡航経験のある人たちが“わざわざ足を運んででも飲みたい”と思うような海外を感じられるマニアックな本格ローカルビール、つまり、ブランドプロダクトを作ることです。実現するためには、ビールの原料の栽培からビールづくりの工程まで、AIを使って徹底的に研究しなければなりません」

三浦

「AIは匠の技をすべてこなせるわけではなく、できることが限られています。そのため、AIを活用してビールを作るなら、どの工程にAIを使えるかを確認する作業が必要です。AIだけでなく、酵母の研究などのバイオテクノロジーも加えてもいいかもしれません。

もしA市に該当する専門家がいなければ、外からプロジェクトに関わりたい方を呼んでもいいんじゃないでしょうか。専門的であればあるほど、“この領域は自分だからこそできる”と、使命感を持って進めていただけるのではないかと考えています。若い人たちを引き付ける魅力的な仕事になると思いいますね」

安井

「ハイテク技術を使って、農業系の新しい産業を興す。最初は空いている農地を使ったパイロット研究からはじめても良さそうですね」

三浦

「そのような農業が日本中に広がっていったとき、A市のプロジェクトに携わっていた方が各地にAIを教えにいくことに発展するかもしれません。ドメインを知っているからこそ新しい仕事も増えると思うので、先に舵取りしておくのは良い案だと思います」

岡田

「ビールを作るのにAIが必須というわけではないので、どちらかというとブランディングとして一貫したメッセージを発信していきたいですね。“A市はビールづくりに最先端のテクノロジーを活用します”と打ち出すことで、都市としての特徴をわかりやすく表現できると思います」

「A市に行けばおもしろいことができる」と思ってもらえる街にする

AIを活用した街づくりと言うからには、オンラインに特化した事業を行うべきだという考えもあります。しかし、実際にはオンラインとオフラインの融合を考えていくことが大切です。

栗原

「私たちはコロナ禍の影響もあって、バーチャルの利便性を学んだ一方、まだバーチャル空間をリアル空間と同じレベルで使いこなせていません。新しいものを生み出すためには、まだリアルが必要です。

日本は東京に人口が集中しすぎていますが、東京から適度な距離にあって自由にデザインできる余地のあるA市は、ベンチャー企業などがちょっとしたブレインストーミングをするための拠点として活用できると思います。東京の企業が自然体験などをしながら何かをつくるモチベーションを起こす場所として、A市が受け入れ体制を整えるのはいいですね」

オンラインでは遠方の人とつながれるものの、オフラインのような偶発性はありません。イノベーションは自分だけでは起こせないため、いろいろな人と話す必要があります。バーチャルとリアルを使い分けることで、魅力ある街づくりにつながる可能性は大いにあるでしょう。

また、魅力的な街にするためには、A市がどのような強みを持っていてどのような人たちに来てほしいのか発信し、それに応えて行きたくなる場所にする必要があります。

栗原

「今強みがなくても、これからできていけばいいのです。ビジョンはとても重要ですが、どんどん進化するテクノロジーに対して10年20年先が明確にわかる人はいません。そのため、常に取り組みをアップデートし続ける姿勢を見せることが大切です。

おもしろい取り組みを追い求める人が常にいる状態にできれば、同じような方に興味を持ってもらいやすい。なので、先進的な取り組みを続けるための拠点がA市にあるといいんじゃないかと思いますね」

三浦

「本イベントでは、誰に頼まれたわけでもないのに皆が集まり、私たちが住んでいない都市について議論しています。そんなふうに未来を見続けようとしている人たちがワイガヤで集まれる場所を提供していくと、寛容な街づくりにつながると思うんです。議論しやすい状態を作り続けられると、すごい勢いで変化し続ける場所だと体現できるのではないでしょうか」

安井

「オーディエンスの方からのコメントでもありますが、『ここに行くとおもしろい何かができる』と思ってもらえることが重要なポイントだと思います。オープンラボのようなものがあるといいですが、1回で終わってしまうと継続的に街が繁栄していかないので、広大な農地や農作物などA市のリアル空間のメリットを活かしながらオープンフィールドのようにできればいいですね」

住民がデータ提供によってメリットを得られる仕組みは必要

AIは先進的な技術である一方で、あまりなじみのない人にとっては抵抗感を抱きやすい傾向があります。しかし、より良いサービスを提供するための機会学習には、データが必要です。そのため、データの提供がプライバシーの侵害にならないかどうかは、きちんと議論しなければなりません。

栗原

「プライバシーの問題があるからデータを集める際にはブレーキをかけましょうという気持ちもわかりますが、1歩踏み出せるならトライしてみないとダメだと思うんです。A市がAIを上手く取り入れられるのであれば、起爆剤になる可能性は大いにあるでしょう」

安井

「たとえばパーソナライズされた街を作るために、各人のライフスタイルなどに関するデータが必要になったとします。その際、データを渡してもいいよという人を呼ぶのではなく、今A市にいる人がデータを渡してもいいと思えるような環境を作ることができれば、街を大きくできるのではないかと思いますね」

ただし、AIの学習のためにデータを収集する場合は、利用者にメリットがなければいけません。データを提供して還元を受けられるのであれば、理解も得られるはずです」

三浦

「地図でたとえると、みなさんGoogleマップをよく利用するのではないでしょうか。Googleマップに行き先や写真などの情報を取得されても、それ以上のメリットがあるからこそ受け入れているんですよね。

データを提供することの抵抗感を上回る利便性を得られる仕組みを作ることができれば、A市もAIを活用した街づくりを進められると思います」

安井

「データを取得されてばかりで自分がもらえるものがなかったら、やはり不満に思ってしまいますよね。住民が同意のもとにデータを提供することで便利になるというのを、きちんと見えるようにすることが大切だと感じます」

住民の理解を得たAIのデータ活用で街を育てる

高齢化が進む日本では、高齢者が幸せに暮らせる街づくりへのニーズが高まっています。しかし、高齢者の多くはAIに馴染みがなく、抵抗感を持っている方も多いでしょう。そこで、高齢者も含めたA市の住民にAIについて知ってもらう機会を作ることが大切です。

安井

「今いる住民の方々に、まずAIを活用して何ができるか、何が得意で何が苦手かというのを知ってもらうことが大事ですね。そうすれば、AIを育てていくうえでデータがどのように使われるかわかり、ぼんやりとでもAIについて理解してもらえると思います。AIはデータが命なので、データが足りないと立ち止まってしまいます。

“A市の中だけ”と決めてデータを共有し、オープンラボというより、オープンシティのように皆がアイデアを出すようにすれば、必ずしも最前線で携わらなくても、AIによって街が成長していくのを実感できる楽しみを得られるのではないかと思います。

たとえば、高齢者も含めた住民の皆さんに街中の道路の画像をアノテーション*してもらって、走路を認識するAIに学習させる。すると、住民の皆さんが頑張ってアノテーションすればするほど、自動運転車が走れるルートが増えていって、いつの間にか街中隅々まで走れるようになる。このように住民の皆さんがAIの進化に関わり、貢献できる街というのはおもしろいですよね」

*テキストや画像、音声などあらゆる形態のデータにAIの学習状態の良し悪しを判断するための情報を付加する作業のこと

ネガティブな見せ方をしてしまうと、住民のAIに対する抵抗感は強まってしまいます。A市でAIを活用した街づくりを行うためには、AIの見せ方や取り入れ方を工夫する必要もあるでしょう。

栗原

「“このサービスにはAIを使っています”と大々的に伝えるより、“実は裏でAIが人のサポートをしていました”と控えめに伝えるほうが安心できるかもしれませんね。縁の下の力持ち的な役割を果たしているというところから徐々に入っていくと、現実的には広く受け入れられると思います」

三浦

「AIが担っているのは、相棒的な役割がほとんどだと思うんです。だからこそまずは人の力で住民の方の困っている部分に切り込んでいき、その解決のために最先端のテクノロジーを活用していくのがいいと思います。

テクノロジーが進化したところに対し、人間はこのように寄り添っていけばいいと学術的にまとめてもらうことができれば、人間がAIと一緒に進んでいると示せるはずです」

岡田

「AIを活用した事業は極めてセンシティブなので、正しい表現をしていかなければ拒否反応が出てしまいます。A市でAIを活用した街づくりを進めるとしても、完全にデジタルが強化された街にするというのではなく、あくまでも人が中心となってコンピューターの力で上手くサポートしていくという形で発表するのがいいでしょうね」

同じ目線に立つことができれば、民間と行政の連携は上手くいく

街づくりを進める際には、民間と行政の連携が必須です。行政の方にも積極的に関わってもらうためには、住民だけでなく行政の方のAIの理解度も上げる必要があります。

栗原

「まずはA市の市長を含め意思決定する人たちと私たちが、同じ目線で何を見られるかが重要だと思います。

さまざまなテクノロジーの良い面と悪い面を理解したうえで、機動力を持って動ける仕組みを作ってしまえば、あとはボトムアップに任せることも可能です。そのパイロットをA市の新しい実験施設から見るようにすればいいと思いますね。行政の壁がかなり厚いことが予想されますが、そこさえ乗り越えてしまえば問題ないはずです」

三浦

「“どうなりたいのか”という認識を同じ言葉で合わせていき、コミットする人たちができる限りチャレンジするというのが街づくりのファーストステップですね」

安井

「一方的に上層部で受けてインターネットで配信したりチラシを配ったりするだけでなく、街の方々に参加してもらうエキスポを開催するなど、一緒に対話しながら体現することが大切ですよね。Hondaは、99の失敗で1度の成功を求めていく文化なので、行政と一緒に頑張りたいと思います」

さらに、AIを活用した街づくりを成功させるには、イノベーションを止めず取り組みを続ける必要があります。

三浦

「はじめて出てきたものに関して、不安はありつつもきちんと議論をして使ってみて、間違っていたことがわかったら謝罪をして、次はどうしようと議論をして……というのを繰り返し続けられるかどうかが成功の鍵を握ると思います。話し合いながら、イノベーションを止めない。思考停止せず取り組みを続けることが大事ですね」

岡田

「本イベントではさまざまなアイデアが出てどれもおもしろいと思っていますが、結局そのような認知を世の中で取れるかどうかが大切だと思います。“A市に行けばおもしろい発見がある”、“最先端の街づくりの一端を担える”などのメッセージが伝わるブランディングは大事ですね。

アイデアを実現するためのお金が最初から潤沢にあるわけではないので、何からはじめて最終的にどういうものを目指していくのかというのは考えるべきだと思います。最初が一番難しく、最初で転んでしまうとなかなか後にも続かないと思うので、方向性を考えたうえで実行していく必要がありますね」

AIは手段。大切なのは“うれしい”と思ってもらえる街づくりをすること

オーディエンスの方からのコメントに、「街中に“うれしい”を作る」というものがありました。こちらはA市に提出する街づくりの提案資料に、キーコンセプトとして早速盛り込まれています。

安井

「A市の方が皆うれしい・楽しい・安心と思ってくれるような街づくりをすることが、1番やらなければならないことですね。そのための手段としてAIを使って人を呼び、五感で感じることができるリアルワールドと連携した産業を作っていく。

ただし、テクノロジーばかりを進めていくと寂しいところもあるので、人に寄り添った優しいAIが提供できればいいですね。もしかしたら人に寄り添ったAIを作ることも、産業にリンクしているかもしれません。そのために行政や企業が一押しして、クリエイティブな方々と共に進めていけるといいですね」

本イベントではゲストだけでなく、オーディエンスからもさまざまなアイデアが出ました。

枠にとらわれない挑戦の今後に期待いただくとともに、Hondaらしいプロジェクトにジョインしてくれる面白い仲間を待っています。Hondaの知能化領域には、人とモビリティの新たな関係を構築するというクリエイティブでチャレンジングな取り組みに一緒に挑む魅力的なメンバーと、先進技術を活かすことができる環境が揃っています。

個性的かつ行動力のある人材が仲間になってくれることを楽しみにしています!

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