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1000分の1秒でも速く!レースバイク開発がHondaにもたらす価値とは

株式会社ホンダ・レーシングの開発室で働く石本 善彦は、システム制御領域のプロジェクトリーダーとして、レースの勝利につなげるため日々奮闘しています。入社10年が経過した今、自身を成長させてくれた経験を振り返るとともに仕事に対する想いや原動力を語ります。

石本 善彦Yoshihiko Ishimoto

株式会社ホンダ・レーシング レース開発室 第2開発ブロック

2011年に新卒入社後、株式会社ホンダ・レーシング(HRC)に配属され、一貫してMotoGP(ロードレース世界選手権)に参戦するバイクの開発に関わる。2017年にはレースチームに帯同し、1年間海外でライダーと共に過ごしながらレースのサポートを行う。2021年現在は、MotoGPのシステム制御領域のプロジェクトリーダーとして開発を担う。

形あるモノを作りたい。乗り物の中心であるエンジンを大事にするHondaへ

国際モーターサイクリズム連盟(FIM)が主催する二輪レースの最高峰カテゴリーである「ロードレース世界選手権(MotoGP)」。Hondaは1959年に初参戦してから勝利を積み重ね、2020年には前人未踏の通算800勝を達成しました。

株式会社ホンダ・レーシング(HRC)開発室第2開発ブロックに所属する石本は、入社してから2021年現在まで一貫してMotoGPに参戦するバイクの開発に携わっています。

石本 「MotoGPのバイクの制御に関する領域を担当しています。エンジンをコントロールしているソフトウェアのセッティングなどが主な仕事です。コロナ禍以前は1年の約半分の期間は海外で過ごし、実際にサーキットでレースに出場しているライダーと行動を共にしていました。

私は開発担当として、新たなセッティングやアイデアをライダーにテストしてもらい、データとライダーからのフィードバックを照らし合わせながら、どこが遅くなる原因か、どうすれば速く走れるようになるのかを考え、再度検討するということを日々繰り返しています」

石本は、もともとバイクやエンジンに興味はあったものの、大学では人工知能を専門に学んでいました。

石本 「私が中学生か高校生くらいのときにはパソコンが一般家庭に普及していました。ゲームも作れるしプログラミングをすればモノを作らなくてもいろいろな創作活動ができるという点で、コンピュータに興味が湧いたんです。そこから人工知能に裾野が広がっていって、もう少し専門的に勉強したいと思い、大学院に進むことにしました」

学生時代にコンピュータのおもしろさを味わいながらも専門分野での就職を選ばなかったのは、形のあるモノに惹かれたからでした。

石本 「私が研究していた人工知能は自然言語処理*というもので、今でいうスマートスピーカーなどにつながる研究です。最終的には外で人やモノとつながるという部分に発展していく研究だったので、やはり形のあるモノに触れていきたいと考えるようになりました。

これまで勉強してきたソフトウェアの知識を活かして世の中のモノを作る仕事がしたいと考えたとき、もともと好きだったクルマは、コンピュータで制御しているため、自分が学んできたことを活かせるのではないかと思い、自動車業界に就職しようと決めたんです」

*人間が日常的に使用している言葉をコンピュータに理解させ、人間の言葉である自然言語を機械で処理すること

自動車業界の中でもHondaを選んだのは、エンジンに力を注いでいると感じたからです。

石本 「就職活動をはじめた当時は、ハイブリッドカーや電気自動車が登場した頃でした。Hondaはそのような新しい領域を手掛けながらも、乗り物の中心であるエンジンをとても大事にしている会社だと思い、Hondaへの入社を決めました」

失敗が転機に。大きな成果をあげるための仕事のやり方

石本は2011年にHondaへ入社しましたが、東日本大震災の影響で実習期間が延びてしまい、配属先が決まったのは1年後でした。

石本 「入社時点ではどちらかというと四輪に興味があって、クルマのエンジンの開発や制御に携わりたいと思っていました。自分が作ったものに乗りたいという気持ちがあったんです。レース自体は好きでしたが、自分自身が開発に携わりたいという想いはそこまで強くありませんでした。そのため配属先がHRCと聞いて、びっくりしましたね」

HRCで仕事をする際、実習期間の経験が役に立ちました。

石本 「販売店で営業の現場を学び、その後は鈴鹿製作所の生産ラインに入ってN-BOXなどの量産に携わりました。当時はちょうどN-BOXが販売開始になるタイミングで、最初に生産をはじめる手順の確認から参加できたんです」

製作所での実習中には、研究所の設計者と工場で実際に組み立てを行う作業者が協力しながらよりよいモノづくりを目指していることを実感しました。

石本 「設計者が作業者と一緒になって組み立て方や作業の流れを確認して、作業手順の変更や使用する道具を改良するなど、作りやすさまで考えながら開発を行う姿が印象的でした。こうした経験があったからこそ、今の職場でも、自分が作ったソフトウェアやセッティングなどが、使い手にとって使いやすいか、データや資料を整理する際も、後で見る人にとって分かりやすいものになっているか、といったことを心がけることができていると思います」

HRCに配属されてから、石本は幅広い仕事に携わりました。そのなかでも自身が変わるきっかけとなったのは、大きなミスをしてしまったある出来事です。

石本 「2016年頃、新しいエンジンを開発してテストする機会がありました。私が新しいエンジン用の設定を準備していたんですが、設定を間違えてあるテストエンジンを壊してしまったんです。

非常に大きなミスだったのでもちろん怒られたのですが、壊してしまったエンジンを積んだバイクに乗る予定だったライダーの方から『まだ若いんだし、失敗を糧に経験を積んでもっと良いモノを作っていけばいいんだよ』と声をかけてもらいました。
また、先輩や上司の方々からもミスを繰り返さないためのコツや工夫についてアドバイスをもらったり、気軽に声をかけてくれて、困り事を相談しやすい雰囲気を作ってくれたりしました。

当時は入社してから3〜4年経ってある程度仕事にも慣れていたので、自分ができるようになってきたと考え油断していた部分もあったと思います。この出来事は、気持ちを引き締め直して頑張ろうと思うターニングポイントになりました」

失敗してしまったことで、石本は仕事のやり方を見つめ直しました。

石本 「当時は自分一人で頑張ろう、自分でもっといろいろなことをやっていこうと考えていました。しかしこの経験を通じて、成功につなげるためには一人で仕事をしてはいけないとわかったんです。

一人でやるのではなく、いろいろな人と協力し、助けたり助けてもらったりすることで大きな成果をあげることがHondaでの仕事の仕方なんだと気付きました」

レースに帯同した経験から学んだ、ライダーに寄り添うことの大切さ

▲レース前にシステムの最終調整を行ってる風景

2017年から1年間、石本はレースチームに帯同していました。開発より運営に近い形で、セッティングを行っていたのです。チームの一員として1年間過ごした経験は、石本にとって大きな財産となりました。

石本 「私たち開発担当は、基本的にテストなどのタイミングでしか現地に行かないので、ライダーも私たちを『日本から開発のために来た人』と認識しており、当初は一歩引いたような接し方でした。私たちも普段のライダーの様子や接し方を掴みきれず、コミュニケーションがスムーズに取れない部分があったんです。

しかし、チームで仕事をしていくためには、ライダーやチームメンバーとのコミュニケーションがとても大切です。そこでライダーと一緒に歩いてコースを確認し、『ここは滑りやすい』『ここは危ないコーナーだ』という話をしたり、チームメンバーで食事を共にしたりしながら、お互いの理解を深めていきました。

最終的には、仲の良いチームメンバーとして迎えてもらうことができました。当時一緒に過ごしたライダーは別チームへ移籍しましたが、今でも交流があります」

1年間共に仕事をしたことで、石本はライダーとのコミュニケーションが適切な開発につながると実感しました。

石本 「日本からテストのデータや結果だけを見ているだけでは気付けないことも多くあります。たとえば、データを見て『ここの部分は制御の作動量を減らせば速くなるんじゃないか』『ここはもっと制御の介入を早くはじめた方がいいんじゃないか』と思うことがあります。もちろん、そうした方が良い場合もありますが、現場でライダーと話をしてみると、『これ以上制御の作動量を減らすと安心して走ることができなくなる』『そこは制御がもっと少ない方がむしろスムーズに走ることができる』という風に、データだけでは知ることが難しい理由があったりします。

また、ライダーと話をすることで『実はここで苦労をしている』といった、私たちが気付けていなかった部分を指摘してもらえたりします。ライダーとコミュニケーションを取っていくということは、開発をするうえで本当に大切です」

日本でデータだけを見て改善点を列挙することは簡単です。しかし、ライダーやチームメンバーも精一杯頑張っていて、それでも解決することが難しいのです。石本は1年間チームの中で仕事をしたことで、現場の様子を想像しながらデータを見て、改善方法やテストの準備を考えるようになったのです。

現場での経験を活かせるようになると、仕事にも変化がありました。

石本 「ここ数年は日本人が現場に長く留まって仕事をする機会が減っているので、経験者として後輩に現場の様子を伝えたり、経験を活かすことのできる大きな仕事を任されたりするようになってきました。また、最近は、今までよりも日本での開発の比重が増えてきましたね。

プロジェクトリーダーという役割に就いて、制御領域だけでなく全体を俯瞰的に見て、周りと調整するなど、バイク全体がより良くなるように動いています」

役割が変わった石本は、レース帯同中に実感したコミュニケーションの大切さを再び感じています。

石本 「海外で1年間国籍をこえてコミュニケーションを密にとって仕事を進めていましたが、やはり日本人同士でもコミュニケーションはしっかり取らなければいけません。

今は他部署の人から協力を得ることや、仕事を分担して同じグループのメンバーに手伝ってもらう場面が多いので、これまで培ってきたコミュニケーションスキルを活かしながらいろいろな人と仕事をしています」

「走る実験室」から裾野を広げて、より多くのユーザーへ

MotoGPの開発の醍醐味は、結果がすぐに出て喜びを共有し合えることだと石本は考えています。

石本 「何かを開発したら、次の日や翌週のレースですぐに結果が出ることが多々あります。もちろん上手くいかないこともありますが、成功したときはライダーも喜んでくれますし、私が開発に携わったことでレースに勝てたと実感できて嬉しくなります。

市販の製品は作りはじめてからお届けできるまでに時間がかかりますし、ユーザーも多いので一人ひとりの声を聞くのは難しい部分もあります。しかし、レースの仕事はユーザーが限られている代わりに要望を叶えられるととても喜んでもらえて、ユーザーから直接フィードバックをもらえます。それがやりがいにつながっていますね」

一方レースの仕事においては、精緻で、非常に高いレベルの改善が求められます。

石本 「たとえば次のレースではなく1時間後の走行までに問題を解決しなければいけないケースや、エンジンの制御精度を0.5%単位で調整しなければならないシーンもあります。ライダーがより速く走るためには、本当に細かい部分まで高性能を実現することが必要なのです。

難易度が高いことばかりですが、MotoGPで決められているルールの範囲でできることはたくさんあるので、それを発見してより良い開発につなげたいと考えています」

入社以来、一貫してHRCでレース用バイクの開発に携わっている石本。今後は市販製品の役に立つような仕事をしていきたいと考えています。

石本 「Hondaでは、“レースは走る実験室”と言われています。レースのために開発したものを市販車にフィードバックして、一般の方が乗るときの楽しさや安全につなげるという意味です。そのため私はHRCでたくさん経験を重ね、レースで開発した技術を一般ユーザーの楽しさや安全につなげたいと考えています」

日々奮闘する石本の原動力となっているのは、自身の子どもの存在です。

石本 「子どもが生まれてから、子どもに誇れるような仕事がしたいと思いはじめました。職場のメンバーはよくご家族を連れてサーキットに来てくれるんですが、ご家族にメンバーが『すごいね』と言われて尊敬される光景を見てきました。

私も人に喜んでもらえるような仕事をしていると胸を張って言えるように働きたいと、子どもが生まれてから強く思うようになりましたね」

入社してから10年が経った2021年現在、石本はHondaが年齢に関係なくいろいろな挑戦をさせてくれる会社だと感じています。

石本 「入社4〜5年目で現場に1年間行かせてもらったり、入社から10年未満で世界最高峰のレースであるMotoGPのためのバイク開発でプロジェクトリーダーを任せてもらえたりと、やりたいと思って努力し挑戦する人を受け入れて応援してくれる会社だと感じています。

私の周りにも、『レースに関わりたい』と自ら手をあげて四輪やライフクリエーションの開発領域や、生産領域から異動してきた方々がいます。本人がチャレンジしようと努力していれば、しっかりと背中を押してくれる会社だと思いますね」

ライダーがレースで結果を出せるよう後押しするために、将来的に市販車の開発に役立ててもらうために、目の前のレース用バイクの開発に尽力する石本。これまでの仕事で培ってきたスキルを活かしながら、今日も自らの仕事に対する誇りを胸にチャレンジし続けます。

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