2020年現在、Hondaの次世代サービス領域におけるプラットフォーム戦略のリーダーとしてMaaSサービスの推進を担う小関 真冬。彼女の頭の中を覗いてみると、その思考の原点は幼少期まで遡りました。現在に至るまでの彼女が考え続けていること、そして行動を紐解いてみましょう。

小関 真冬Mafuyu Koseki
2009年大学院を修了後、法人向けのシステム開発を行うNEC通信システムにエンジニアとして入社。2014年Hondaに中途採用で入社。2020年現在、コネクテッドプラットフォーム開発部でプラットフォーム戦略のリーダーとしてMaaSサービスの推進を担う。
宇宙を見つめる、幼稚園児!?

時間とは何か──。
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物質が何もない真空状態では、時間という概念はないのだろうか?
宇宙が「無」の状態から始まったのだとすると、そこには時間は存在しないだろうけど、もしその状態を外界から俯瞰できたとすると、「無」への持続時間があるのか?
俯瞰できるような特異な機構が存在するはずもなく、宇宙の定義なんて分からないけども、宇宙というものが無数にあるとしたら、それぞれを俯瞰すると時間というものは定義ができるの?
このような状態を仮定するなら、時空という4次元は空間と時間って同等?
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小関 真冬は幼い頃から一人、頭の中でぐるぐると思考を巡らせていました。
小関「物心がついた頃からブラックホールや宇宙、時間など、そういうモノに興味を持っていました。人見知りだったので友達と話している時間よりも一人でいる時間の方が多くて、時間ってなんだろう?宇宙の終わりや始まりは……?と考えちゃう子どもだったんです……。変わってますよね(笑)」
そんな幼少期を過ごした小関は、時を経て大学で物理学を専攻することになります。
小関「高校時代は化学の先生がステキで、化学系の学部に一度は進んだのですが、今度は大学で出会った物理の教授がステキで、物理に変更しました(笑)
今思えば子どもの恋愛かもしれませんが、その気持ちがあったからこそ目の前の研究も頑張れたんだと思います」
大学院まで進学した小関は自由電子レーザの研究を行い、電子を光の速さに限りなく近くまで加速させることで普段と異なった性質が見えてくることを応用した研究を修士論文にまとめ、学内で表彰されることも経験します。
幼少期から小関が考え続ける「時間」の概念。
今もまだ分からない領域は多いが、分かっているのは「時間は止まらない」ということ。
自身のキャリアを考え、就職活動を経た小関は、企業向けのシステム開発を手がけるNEC通信システムに就職したのでした。
免許はなかったけど、夢はあった。だからHondaを選んだ

NEC通信システムに就職した小関でしたが、これからのキャリアを考える道程は、決して平坦なものではありませんでした。
小関「本当は化粧水や乳液などの基礎化粧品が大好きで、自分で化粧品を作ったり、化学実験をしたりするのが好きなタイプなのですが、大学で物理学を専攻してしまったので、化粧品メーカーには就職できなかったんです。
研究室に残って、幼い頃から考え続けている宇宙の事を探究し続けるという選択肢もありましたが、宇宙や時間のことを知りたいという思いは”研究をしたい”ということではなく、誰かが研究した結果を知ることができればいいと思ったんです」
NEC通信システムへの入社後、小関が携わったのは「モノとモノを繋ぐプラットフォームの開発」でした。しかし、法人向けのシステム開発が中心で開発を進めても、その行末が見えないことや、仕事への楽しみを見つけられない葛藤に苛まれることになります。
そんななかでもプラットフォーム開発の領域で自動車産業がトレンドであることを知り、車に興味を持つようになります。
車のような目に見えるサービスを作ってみたい──。
小関の心が揺れ動いた瞬間でもありました。
小関「なぜ自動車メーカーなのかを振り返ると、トレンドだったこともありますが、実は両親も私も自動車の免許を持っておらず、タクシーくらいしか乗ったことがなかったんです。仕事に対して楽しみが見出せそうというより、まったくモビリティ(二輪、四輪、機械全般の運転やしくみ)の体験や経験がなかったので、何があるのか、どういう世界なのか知りたいと思ったんです」
最終的にHondaに入社後には自動車免許を取得した小関。彼女のベクトルは一直線にモビリティの領域に向かっていったのでした。
小関「自動車メーカーの中でもHondaは夢を追う姿勢や創業者の知名度もあり、イメージがよかったですね。外からみて社風や雰囲気がのびのびしていそうな印象があり、自分自身にもあっているんじゃないかなと思う部分もありました」
物理学から何か仕事しなければいけない中で進んだシステム開発の道。そしてそこで出会ったモビリティの領域。そこに楽しさを見つられそうな環境として小関がたどり着いた先がHondaだったのでした。
やりたいことは自分で提案する。それがHondaのスタイル

2014年に中途入社した小関が最初に携わったプロジェクトは、車が故障したことをドライバーに伝える「警告灯サポート」の開発でした。そのプロジェクトを進める最中、社内外で声高にささやかれるようになっていたのが「コネクテッド」の領域でした。
小関「Hondaでもちょうど2016年くらいから“コネクテッド”という言葉が盛んに謳われるようになり、サーバーも一体になって開発しなければならないということで、今保有する車両データを集めて整理し、サービスに生かしていくための機能開発リーダーになりました」
ここから小関はコネクテッド事業に参画し、2020年現在もコネクテッドプラットフォーム開発部でMaaSとエネルギーサービスをつないで支えるプラットフォーム戦略のリーダーとして事業推進を担っています。
小関「コネクテッドの領域の中でも『ホンダeMaaS』のプラットフォーム戦略プロジェクトはまさに今、自分の成長を実感しているプロジェクトですね。
技術者であることを買われて、プロジェクトで管理職のサポートをするポジションについたのですが、社内のミーティングでも意見を言えず、実績も残せずと悔しい思いをしたことがあります。戦略を考えるプロジェクトは向いていないのかも、と思い機能開発ばかりしていた時期もありましたが、今回またプラットフォーム戦略を任せてもらうことになりました」
一度は悔しい思いをした小関でしたが、現在あらためて戦略を担えていることで、日々の成長を感じています。
小関「仕事をしていると分からないことが湧き出てくるのは当然。それをベンダー任せにするのではなく、まず自分で作りたいストーリーを自分発信で提案できるようになることが一番の近道であると考えました。
自分の意見があると、一緒に仕事をするパートナーたちとも自由闊達な意見ができるんだと成果を実感しています」
『eMaaS』のプラットフォームを構築する上ではさまざまな事業者との連携が不可欠になります。Hondaはどういう価値を作るべきなのかを深堀し、その価値を実現するための機能や連携体制をとる必要があるのです。
小関「そのために、現在は連携することによって提供できる新たな価値についてアイデアを出し合っています。例えば、二輪と四輪のデータは別々に管理されているんですが、これらのデータが連携していないと本当のお客様の興味がわからず、マーケティング施策において正しくお客様にアプローチをすることができません。
例えばHondaはシェアリングサービスを提供していますが、このシェアリングサービスのユーザーに対してどういう施策を打てば、販売促進に繋がるのかを事業部門と検討しています。
こうした営業担当や販売店への価値提供をしながらも、データ自体を販売するビジネスもあるので、どういうデータが販売できるのかという部分も事業側と一緒に考えながら取り組んでいるのです。
小関「まもなくプラットフォーム戦略のドラフトが完成するので、2021年3月ごろまでには事業戦略とプラットフォーム構想の整合性を確認し、事業に落とし込むところまで進める予定です。そして来期以降で実際の開発を進めていきます。
現段階で私が判断基準にしているのは、推進の方向性やプロセス、こういう風に進めたいと言った時の周りの反応です。仕事を進める上でテレワークで表情が見れないこともありますが、好意的な反応をしてもらえていると思いますね」
小関が参画するプラットフォーム構想はまだ始まったばかり。
これから始まる開発に向け、着実にプロジェクトを進めているのです。
やって後悔した方が、きっと楽しい!

一度は挫折した道でも、その道が絶たれた訳ではない。
反省点は何か?いま足りていないのは何か?何か別の切り口はないのか?
そうした思考の反復が小関自身を少しずつ強く、大きくしているのも事実です。
小関「昔から周囲の人たちに恵まれてきました。なにかを一生懸命頑張っていると、必ず誰かが見ていてくれたり、助けてくれたりするんです。
そういう環境の中で、自分も「一生懸命頑張るから助けてくれてるんだ!だから頑張らないと!」と奮い立たせることで頑張れる人になれたんだと思います」
しかし、小関は最終的には「誰かのためではなく、なによりも自分のため」と目を輝かせながら付け加えます。
小関「何か頑張れる人って、いつまでも若くて魅力的なんですよね。私もそういう人に自分もなりたいんです。よく社内の人たちからは『変わっているよね』と言われるんですが、常に新しいモノに興味を持って、そこに向かって走っていきたいじゃないですか。
コンビニでも同じ商品を買うのではなくて、変わった味を試してみたり、ずっとピアノをやっているからといってバイオリンを始めちゃいけない訳ではないはず。
「絶対にこれじゃないとダメ」と固執するのではなくて、変化を楽しむ過程で、きっと何かの発見や変化があるはずなんです」
やらずに後悔より、やって後悔──
小関「きっと5年後10年後も新しいモノのインプットは辞めないでしょうね。変化したくないとか安定したいという葛藤もあるのですが、やはり新しいことに興味を持つ自分がいるんです」
こうした探究心の先に「未来のモビリティサービスの構築」があるのでしょう。
では今、あなたは何に興味がありますか?