- コンパクトにまとめ上げられたNSXコンセプト。「高効率」が初代NSX、いやHondaの企業ポリシーの根底に流れる哲学であり、
このモデルもその哲学を具現化している。近い将来、NSXの走りを体験するのは我々の熱い「夢」だ
話を今年のデトロイトショー、伊東社長がデビューさせたNSXコンセプトに戻そう。
今度こそ間違いない。もうHondaは“Hondaスポーツコンセプト”とか“アキュラ・アドバンスト・スポーツカーコンセプト”といったネーミングでお茶を濁してはいない。伊東社長はこれこそ次期NSXだと言い切ったのだ。
HondaによるNSXコンセプトの次の解説は、私たちがHondaに寄せる期待感と見事に一致している。
「スーパースポーツといえば大型エンジンによるパワーに走りがちですが、NSXコンセプトのバックボーンは生粋のレーシングフィロソフィーから生まれるきわめて良好なパワーウェイトレシオです」
まさにこれぞNSXであるといえよう。
大いに盛り上がった伊東社長の発表のあと、会場でNSXコンセプトをつぶさに見た印象をお伝えしよう。
先鋭的なデザインのノーズの左右に備わるインレットは、スポイラーを兼ねているようだ。5エレメントのヘッドライトは、ぜひそのまま生産型に移行して欲しいデザインである。クリーンなボディサイドの一番下を走るサイドシルは、後方に行くにしたがって高くなり、リアホイールオープニングに達したところですとんと落ちている。エンジンの冷却風はリアフェンダー手前のインレットから取り入れると思われる。
ウィンドシールドはルーフを経てテールのガラスに到達、そのテールガラスを通してエンジンが見えることになるだろう。左右のテールライトはレッドのハイマウントストップライトで繋がり、そのすぐ上がリアスポイラーだ。リアバンパー下はディフューザーになっているようで、だとすればアンダートレイの気流が良好なダウンフォースを生むはずだ。
ここで『ロード&トラック』のエディター・イン・チーフ、マット・デロレンゾの一文を引用しよう。「…流麗なシェイプはどの部分をとっても、1990年にデビューしたオリジナルと同じくモダンだ」。私も同感。生産化にあたりこのデザインが大きく変わらないようにと願うばかりだ。
NSXコンセプトの寸法は、いかにもHondaらしく頃合いのコンパクトサイズで、全長4,330×全幅1,895×全高1,160mm、ホイールベースは2,575mmである。比較のために記すと、オリジナルのNSXは4,430×1,810×1,170mm、ホイールベースは2,530mm。ちなみにNSXコンセプトのタイヤは、前:255/35R19と後:275/30R20だった。
新型NSXのボディが何でつくられるかは明言されておらず、車重が最終的にどのあたりに落ち着くのかは想像するしかない。1990年に登場したNSXは1,350kgだったが、NSXコンセプトもボディ材料にこだわり、軽量化を突き詰めるに違いない。
NSXコンセプトは次世代V6 VTEC直噴エンジンと1基の電気モーターをミッドマウントする。そのエンジン+モーターによるハイブリッドパワーは、デュアルクラッチ トランスミッションを通じてリアタイヤに伝達される。
しかしこれはパワーストーリーのほんの始まりに過ぎない。Hondaは新型NSXにSport Hybrid SH-AWDR®(スーパーハンドリング オールホイールドライブ)の最新版を装備すると発表しており、ひねり技をひとつ加えるらしい。V6エンジンと1基のモーターがギアボックスを介しリアホイールを駆動する一方、フロントホイールは各輪1基、合計2基のモーターが駆動する。つまりモーターを3基積んだハイブリッドスポーツカーになるのだ。
前輪を駆動するモーター2基は、インボードマウントのシングルハウジングにまとめられ、1基のモーターが片側のフロントホイールを専門にコントロールし、必要に応じてパワーを追加する。これでステアリング特性がオーバーステアなりアンダーステアなりに陥りそうな状況で姿勢を安定させるだけでなく、ヨーモーメントを生み出してスムーズなターンインを可能にするはずだ。
伊東社長は、ハイブリッドシステムによってNSXはもっとパワフルなエンジンを搭載するスポーツカーと肩を並べるパフォーマンスだけでなく、良好な燃費をもたらすと指摘する。
「NSXのドライバーはクルマと一体となり、ダイナミックなドライビング能力を高めることでしょう。つまり人とマシンが邪魔し合うのではなく、高め合うのです」
「初代NSX同様、私たちは効率の高いエンジニアリングを通してハイパフォーマンスを表現していきます。新型でもファントゥドライブなスピリットに焦点を当てていますが、この新たな時代、スーパースポーツといえども環境面で積極的に責任を果たすべきです」
『モータートレンド』のフランク・マーカスは、伊東社長の談話を次のようにまとめている。「…次期NSXもやはりアルミでつくることが大切なのです…3基のモーターとバッテリーによる重量増を相殺するほど軽量なストラクチャーに仕上げる――これは初代NSXのアルミストラクチャーをつくるのと同じくらいチャレンジングな仕事だろう」
また、『オートモービル』のエヴァン・マッコーズランドは次のように書いている。
「いいニュースをもっと聞きたい?あるとも。伊東さんは次期NSXから純然たるレース指向の派生型が生まれるだろうとほのめかしている。実現するよう期待したい。それにHondaのトップが約束したとおり、操縦に夢中になれる楽しいクルマに仕上がって欲しいと思う。新機軸のSport Hybrid SH-AWDR®は革新的なシステムとして興味深いし、エコロジーの観点からも理に適ったスーパーカーをつくるという伊東さんの約束とも一致している。ただしメカニズムをよく知る愛好家を相手に、構造が複雑で嵩張り、コストも高くなるとわかっているドライブトレインを売るのは必ずしも簡単ではない。伊東さんは初代NSXプロジェクトの一員として経験を積んだ人だけに期待していいだろうが、こればかりはどんな結果になるか蓋を開けてみるまでわからない」
一流紙『シカゴ・トリビューン』のマイク・ハンリーは、NSXは“ウィナー”だと言い切り、こう続ける。
「オリジナルNSXは、スポーツカー好きのあいだではカリスマ的存在だ。だがNSXコンセプトには価値ある後継車となるだけのパンチがある」
優れたワインや自動車の生まれた年をヴィンテージイヤーという。
初代がデビューした1990年がそうであったように、2012年もヴィンテージイヤーとなる予感がするのは私だけではないらしい。
このヴィンテージイヤーのスポーツは、3年ほどの時間をかけて熟成される。Hondaによる、新たなスーパースポーツへのチャレンジという「夢」が再び動きはじめたのだ。この事実を前にして、NSXの偉大さを知る私の心が躍らないわけがない。私は今、3年後にNSXの現物を見るのが待ちきれない想いでいる。
