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僕のNSXの開発は、鈴鹿を比較テスト車として持ち込んだポルシェで7回スピンした時から始まったんです。 続いてNSXに乗ろうとしたら、「7回もスピンした奴は乗らなくていい。クルマを壊されたらテストにならない」と言われました。でもテストのために来たのですから乗りましたよ。 その方向性とは、“人と一対一で対話できるスーパースポーツ”です。 当時のポルシェは反応が敏感だったんですね。アクセルの開け方閉め方ひとつでクルマの挙動がすごく敏感に変化する。正直、自分でもあれほどスピンするとは思っていなかった。予想外のことでした。クルマの方が雑に扱うことを決して許してくれなかったんです。それもひとつの味付けですが、多少雑に扱っても懐の深いクルマにすることで新しい価値が生まれるはずだと感じました。要は、既存のスーパースポーツに乗ってスピンして、人とクルマの対話をもっと進化させたいと思ったんです。 |
そもそも僕が人とクルマの関係に目を向けたのは、携わってきた研究テーマに関わりがあります。僕は研究所に入社して以来、開発中のクルマを評価して走り味を決めていく「技術・研究畑」を歩いてきました。NSXの開発に携わっているときは、担当車種を持たずにいろいろな開発中のクルマに乗って、そのクルマの走り味を決めていくような立場にいたんです。 クルマの運動性能の研究をずっとやっていきながら、僕はひとつの疑問に捕われていました。その疑問とは、『クルマって本当に優れた製品なのか』ということです。工業製品としては、特賞がスペースシャトルで、1等賞が飛行機かな。それは、ほとんど誤差が許されない高い精度を要求されるからです。それに比べ、クルマには飛行機ほど高い精度は求められていない。 |
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その結論に達したときに、どうするかとすごく悩みましたね。人の心に訴えるクルマをつくるには、ハードを越えた何かが必要なんです。しかし、ただ「こうやりたい」と言っているだけではだめで、ハードもわかっていないといけない。ですから、ハードも勉強して、いろいろなクルマに乗せてもらって、NSXの開発にも携わり、それが世界的に評価されて、自分なりに「こうあるべきかな」というものが徐々に固まってきた。 |
NSXでル・マンに挑戦してGT2でクラス優勝したあと、1996年ぐらいでしたかね。川本さんにそう言われて、はじめ「そりゃいいや」と思ったんですが、2〜3ヵ月たったら「何をすればいいのかな?」って(笑)。困るもんですよ、仕事をしないで遊んでいろと言われても。それでとにかく1日中クルマに乗りました。僕ができることと言えばクルマに乗ることぐらいですから。ヨーロッパに行ってはクルマに乗り、アメリカに行ってはクルマに乗り…という毎日を過ごしましたね。 |
一年間、世界のいろいろなところでクルマを走らせてわかったのは、「道は生きている」ということです。面白いんですよ。はじめに行ったときと1年後に行ったときでは、道が全然違っちゃうんです。この道が良いと思って、またクルマの走行テストに使おうと思って次に行くと、全然違っているんですよ。「道は生きているなあ」とつくづく感じました。 |
それからしばらくして、世界の道を走った経験と長年クルマを評価し続けた経験をもとに、僕は北海道の鷹栖プルービング・センターに「EU郊外コース」をつくることを提案し、2003年に実現しました。 |
NSXの開発を経験したことにより、Hondaのクルマづくりが変わっていった。「人と道でクルマを鍛える」という思考が生まれた。これは、NSXをつくることでHondaが得た大きな財産だと思います。 ニュルに行ったら、普通のサーキットで「いい」と感じていたNSXのボディが、本当に柔らかく感じた。それくらいアップダウンや路面のアンジュレーションやコースレイアウトが激しい道でした。それまでのNSXのボディでは歯が立たなかった。 |
人が感じ取る「ボディの剛性感」って、本当にデータでは出てこないんですよ。感覚でしかわからない。ニュルでNSXのボディ剛性を鍛え、そういうこともわかってきましたね。 ![]() |
クルマには、エンジンがあって、トランスミッションがあって、サスペンションとタイヤがあって、ボディがある。たくさんのコンポーネントでできています。そのコンポーネントで構成するクルマ全体のバランスがすごく重要で、全体のバランスから生まれる走り味をNSXは非常に大切にしました。 |
もう一つは加速感というか、スポーツカーとして「深み」みたいな部分が欲しかった。NSXは、アクセルをバーンと開けると、世界一いいサウンドだと言われるんです。日本人とアメリカ人とヨーロッパ人では音に対する感覚が違うようですが、NSXは世界中どこに行ってもいい音だと。加速の仕方も気持ちいいと。クルマの動きだけじゃなくて、そういう「引出し」をいっぱい持ってるということはスポーツカーとして大事ですよね。 |
NSXを世に出すとき、『誰にでも乗れる』と言ったことで誤解されたこともありましたが、NSXは、本当に誰が乗ってもすごく乗りやすくて、気持ちがいい。だけど運動性能は世界第一級だと。そんなスーパースポーツカーはこれまでになかったわけですよ。NSXが示した新しい価値に触発され、世界のライバル達も変わっていった。これは、動かしがたい事実だと言えるでしょう。 NSXがデビューしたときのコミュニケーションワードは「Our dreams come true」でした。それは「夢のようなクルマができた」という、ハードとしての夢の実現としてとらえられがちですが、本当に言いたかったのはそういうことではありません。
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「人とクルマ」という意味での「our dreams」がかなったということ。つまり、対話を楽しむ「人」と「クルマ」双方の夢がかなったということなんです。 ![]() |
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