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全日本GT選手権において、あえて市販車と同じ |
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全日本GT選手権(JGTC)を闘うNSXは「空力マシン」と呼ばれるほど高度なエアロダイナミクスを誇ってきた。JGTCの車両規則では、同一メーカー製ならば形式を問わずエンジンの換装が許されている。しかしHondaは、1997年にNSXでJGTCに参戦する際、市販車をベースに開発したGTカーによるレースというJGTCの理念を守り、敢えて自然吸気エンジンを横置きマウントするという市販モデルと同じ構成を採用した。その結果、ターボ過給エンジンを用いるライバル車に対して中低速トルクでハンディを強いられることとなった。そのハンディを埋めたのが、ミッドシップレイアウトのフットワークと空力性能なのだ。
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だが、FRレイアウトにターボ過給エンジンを組み合わせるライバル車も空力面での改良を進め、NSXに迫ってきた。NSXはそれに応戦して1998年に第二世代、2000年には第三世代へ進化した。 2000年に行われた第三世代への進化は、重量物を車体の重心近くに置いて運動性能を上げるため、エンジンをより前、より下へマウントするという大がかりな改良が軸となっていた。エンジンを低くマウントするには、市販モデル同様エンジンの下を通過していた前側バンクの排気管が邪魔になる。そこで、エンジン周囲のフレームを大改造してエンジン側面に排気管を通す空間を作り出した。そのうえで、高熱を発生する排気管がタイミングベルトや各種センサー類の障害を引き起こさないよう、断熱及び冷却対策を講じた。また、エンジンを前進させるために、新しいギヤボックスも設計製作された。 |
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すでに実績を積んだ車両にこれほど大幅な改良を施すのは非常にリスクが高い。しかしJGTCの技術競争は、守りに入ることを許さなかった。大変身を遂げた00モデルは、空力性能で前年度比20%近い大幅な性能向上を実現した。しかし激戦の続くJGTCでは、レース毎に競技車両が進化する。2000年開幕時点でライバルに対して築いた優位も、2年間のうちに徐々に切り崩された。現行の車両規則は2003年に改定されることが決まっており、2002年は現行規則で最後のシーズンではあったが、Honda陣営は2002年はじめ、競技車両に大幅な改良を加えることを決めた。 | ![]() |
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実は、Honda陣営には奥の手があった。大幅にダウンフォースを引き上げるアイデアがすでに温められていたのだ。00モデルの時点では、時期尚早と見送られていたそのアイデアを実戦投入するときが来たのである。 そのアイデアとは、車体下面形状に関わるものだった。現代のレーシングカーは、車体下面と路面の隙間を流れる空気を利用して、車体を路面に押しつける力、いわゆるダウンフォースを生み出す。 |
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ダウンフォースの効率は車体下面形状によって決まるが、Honda陣営は飛躍的にダウンフォースを向上させるための下面形状を見つけ出していたのだ。車体下面を流れる空気の速度は一様ではなく、中心線から外側へ向けて段階的に遅くなる。車体下面形状を工夫することによって流速の異なる空気の流れを区切り、別々に制御するとダウンフォースの効率が上がるというアイデアである。風洞実験で確かめると、計測器が壊れたのではないかと思うほど劇的な性能向上が見られたという。 |
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だが、いざその奥の手を繰り出そうとしたとき、ひとつの問題が生じた。もし理想的なデザインをするためには、車体後半のフレームを大幅に設計変更する必要がある。いくら空力性能が良くなってもフレームに不安が生じてはレースを闘えない。エンジンマウントを下げるための大改造を加えた00モデルで、「奥の手」が時期尚早として見送られた理由がここにある。しかしJGTCの技術競争は躊躇を許さなかった。Honda陣営は02モデルのフレームに手を入れて車体下面形状を理想的なものへとつくり替えた。 | |||
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車体下面形状の改良に加えてボディ上面の空力デザインも全面的に見直された。一見すると02モデルは01モデルと同じに見えるが、ボディのうち旧型を流用しているのはBピラーのカバーだけだ。02モデルの外見上、最も大きな特徴は、ラジエーターインテークのデザインである。これまでは市販車モデルの延長上にあったが、02モデルでは冷却性能を犠牲にしてでも空力性能を向上させるために単純な形状となっている。 |
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また細かいところでは、01モデルまではオリジナルを流用していたリアビューミラーが、独自の薄型となり若干高い位置に置き換えられている。これにともない後方へ向けて下がっていたフロントフェンダー後端が水平に伸ばされたうえで切り落とされた。これはフェンダーの上面を流れてきた空気を薄型ミラーの下に通し、リアウイングに悪影響を及ぼす空気の渦を消すための工夫である。この結果、リアウイング効率が1%以上向上した。 |
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エンジンフードは、ポリカーボネイト製からカーボンファイバー製となり8kgほど軽くなった。車体の高い位置でなされた8kgの軽量化は、車体全体の運動性能向上に大きく寄与した。ちなみに、これは車両規則の表現方法が変更になった結果実現した改良で、リアウインドウは透明でなければならないが、ミッドシップのNSXの場合は下にエンジンがある以上エンジンフードであって透明である必要がなくなったのである。 |
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ただし車両規則上、オリジナルのリアビューミラーを使わない場合はルームミラーで後方視界を確保しなければならないが、透視できないカーボン製のエンジンフードがあってルームミラーが使えない。そこで車両規則を満たすためルームミラー相当の機能としてリアバンパー部に後方視界確保用の小型ビデオカメラ、ダッシュボードにモニターを設けるという手の込んだ工夫が仕込まれた。 | ![]() |
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シーズン途中、市販モデルのマイナーチェンジを期に採用された吸気インテークは、元々は吸気にラム圧をかけ充填効率を上げてパワーを引き出すための工夫である。意外なことに、エンジンフード上に突き出す形のエアインテークは、それ以前に用いていた低いけれども幅の広い型のエアインテークに比べて空力的にも優れていたという。 | ||
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これら様々なレベルで行われた改良を積み重ねた結果、02モデルの空力性能は01モデルに比べて15%以上向上した。こうした徹底的な改良は、JGTC版NSXの開発を担当しているレーシングカーコンストラクター、童夢の風洞実験設備、風流舎で、国内では異例の40%のスケールモデルを用いて研究を行った成果である。(このモデルが、最終戦の鈴鹿で開かれたNSX fiestaのパーティ会場にひっそりと飾られていたと聞いている)。従来の開発で用いた25%のスケールモデルではデータの変化がでなかった細かい形状の違いが、40%モデルでは明確な差となって現れるのだ。リアビューミラー周囲の改良などは40%モデルあっての作業であった。 | ||
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JGTCでは2003年、新しい車両規則が導入され、競技車両は大幅にその姿を変えることになる。NSXは引き続き来季のGT500クラスに参戦する予定で、すでに03モデルの開発が進み、12月には試走が始まる。新しい車両規則の下、NSXはこれまで以上に大幅な進化を遂げる。NSXが秘めた可能性が、2003年、サーキットの上でさらに引き出されようとしているのだ。 |
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