高島晴恵氏(埼玉県浦和市在住オーナー)
専門は声楽。大学を出られてから演奏活動を続けられていたが、結婚後はご自宅でピアノレッスンを。クルマと無縁の生活だったが、お子様の送り迎えの必要性から免許を取得。その後、徐々に走ることに歓びを感じるようになり、NSXとの衝撃的な出会いを果たした。それからというもの、NSXは高島さんの生活の一部となり、人生に潤いを与えるひとつのファクターとなっている。

 
確固たる実行力、そして高い運転適性!?
「遅い時間に塾から帰る娘を迎えに行くには、どうしてもクルマが必要」。ご主人も含め、クルマとは無縁の生活を送ってきた高島さん。買い物などはすべて自転車。それで何の不便も感じなかったが、わが子のために発奮。「反対されないように」と、家族に黙って教習所へ入所した。まったくと言っていいほどスポーツの経験がなく、しかも方向感覚も強くはない。それを知る家族は、予想通りの反対。しかし、家族の反対は高島さんの予定に入っていた。「もうお金もすべて払った」と、既成事実で押し通してしまったのだ。 ところが、教習所の適正検査で「5A」をもらう。これは、100人に1人出るか否かという優秀な成績。高島さんは「まぐれか偶然です」と謙遜したが、それはまさに謙遜だった。

NSXのホンダと知り合う。
教習所では教官からブレーキを踏まれることもしばしば。それでもほぼ毎日通い、およそ2カ月半で免許を取得。さっそくクルマの購入を検討されたが門からご自宅の前庭にクルマを入れるのは結構難しい。坂があるしアプローチがかなり狭いのだ。そこで、小型車を買うことを検討。様々な販売店に足繁く通ったが、これと思うものになかなか巡り会わなかった。ある日、新聞にチラシの入っていたベルノ店へ行ってみた。そこで出会った営業マンは、車庫のサイズを聞きビガーが入ると判断。試乗車で高島さんのご自宅に向かい、それを実証して見せた。そのときの対応の親切さに高島さんは即決。この時のホンダとの出会いが、やがてNSX購入へと通じていく。
その後、高島家の高知県への帰郷の時期に、例の親切営業マンが「クルマで行かれたらどうですか?」と提案。高速道路未体験の高島さんにすぐさま自分のクルマで高速教習してくれたという。1台目のビガーを、購入直後に門にぶつけてしまった高島さんだが、飲み込みが早く、運転をどんどん楽しまれるようになった。そして走る歓びを満喫しはじめた高島さんに、決定的な出会いの瞬間がやってくる。

NSXのブレーキに惚れた。
それは大宮のモーターショー。デビューしたときから「いいなあ」と思っていたNSXがそこにあった。しかし、当初は、「自分とは関係のないクルマ」としてしか見ていなかった。
そして、ビガーを点検に出すとき、「NSXはうちの駐車場には入らないですよね」と新しい営業マンに聞くと「たぶん無理でしょう」という答え。しかし、もやもやが胸に残っていた高島さんは、他の営業所に移動になっていた例の営業マンに相談。すると「お貸ししますよ」のひと言。少しだけ高速道路を走ってみると、この上ない快感を得られたという。がっちりと路面に吸い付くような安定性。ハンドルを握るドライバーの意志に忠実に、安定して曲がっていく操舵感。そして、ちょっとのつもりがかなりの遠出になった帰り道に、そのハプニングは起こった。
気持ちよく高速道路を行く高島さんの目前で、突然トラックがウインカーを出さずに車線変更。たまらず急ブレーキ。高島さんはトラックの下にNSXごと潜り込むシーンを想像された。ところが、である。ABSをフル稼働させたNSXは、まったく姿勢を乱さず余裕を持って減速したのだ。高島さんは、早鐘のように打つ鼓動を胸に聞きながら、NSXのブレーキに惚れ込んでしまった。そしてもちろん、手に入れる決意も固めたのだ。

NSX、それは至上のオーケストラ。
その試乗車を高島さんは早速自宅へ持ち帰った。問題は、駐車スペース。ところが恐る恐る試してみたところ、入ってしまったのだ。これで高島家はセイバーとNSXの2台を所有することになった。
遠出や買い物はセイバー。走る歓びを堪能したいときはNSX。ほとんど週に2日、金曜と日曜が“NSXの散歩の日”となる。クラブのツーリングや走行会にも時々飛び入り参加する。
自分のタクトひとつで意のままに走り、心地よい緊張感を与えてくれるNSXを駆る歓びは、洗練されたオーケストラをライブで聴いたときの感動、臨場感に通ずるという。NSXとの散歩中は、背後から聞こえてくるVTECサウンドをBGMに、タクトを振るう。そしてスポーツカーと一体となる歓びを堪能されるのだ。免許を所得されてから短い月日の間に、クルマに乗ることの楽しさを知った高島さん。今ではNSXが生活の一部となってすっかり定着している。
先日栃木で行われたタイプSの試乗会にも参加され、再びあの“もやもや”に見舞われてしまったとのことだ。


NSX Pressの目次へNSX Press Vol.20の目次へ

NSX Press vol.20は1997年9月発行です。