NSXを選ぶ理由

黒澤元治
Motoharu Kurosawa

 私は、今回のNSXの進化を単なるスペック進化と捉えて欲しくないと思っている。

’97NSX、タイプSで走り込んだ正直な感想は、大げさに言えば別のクルマに仕上がっているほどのものだからだ。排気量が倍になったわけでもなく、今まで2速で回っていたコーナーを3速で回れるようになったわけでもないのに、言い過ぎと思われるかも知れない。しかし、乗っていただければわかる。今回の進化で、一挙に3段階ぐらい走らせる歓びが高まっているから、ドライビングを仕事にされていない方にもすぐにわかっていただけると思う。

では何が…それほど高まったのか。それは、スポーツカーに乗る歓びである。言葉にすると、ありきたりの表現になってしまうが、新たなNSXは、まさに乗る人の琴線にふれる。これまでNSXが持ち続けてきた質感を保ちながら、より一層感動的なスポーツ性を身につけたのだ。

たとえわずかな荷重変動を起こしたとしても、安定して素直に曲がっていくコーナリング性能。これまでの倍ぐらい幅の広がった限界付近のコントロール性能。コーナー立ち上がりのトルクフルな加速。6,000回転以上まで押し出し感のあるエンジンの伸び。トルクアップによるアクセルコントロールのレスポンスのよさ。

さらに、ステンレスエキパイによって高まった心地よい排気音を高域に保ったまま、小気味よくつないでいける6速トランスミッションの感触。さらにタイプSでは、レカロシート、MOMO製ステアリング、チタンシフトノブなど、ドライバーが触れるものの上質感…。それらが渾然一体となり、操る者にかつてないほどの歓びをもたらしてくれる。至上のスポーツドライビングとはこういうものではないかという思いで、全身が熱くなるのである。

そして、こうしたドライブフィールは、決して今回の技術進化だけで獲得できたものではない。NSXは絶え間なく進化しているのだ。’97NSXの大幅な運動性能の向上は、トルクアップや6速ミッション、サスペンションチューニングに加え、'95年のタイプT登場と同時にボディ剛性を高めたことが大きくプラスに働いている。

また、同じく'95年にMTモデルに採用されたトルクリアクションのLSDが、エンジントルクの向上で一層生きている。さらに、スロットルの緻密な制御とアクセルフィーリングを高めたDBWもあり、'94年にインチアップしたホイール&タイヤの効果も効いているだろう。そして何より、NSXは元来、高いドライビングの歓びを追求した世界屈指のスポーツカーであることも忘れてはならない。

また、もうひとつ忘れてはならないものがある。NSXは、オーナーが参加できるミーティングが鈴鹿サーキットを中心に盛んに行われていることだ。こうした取り組みも日本ではNSX独自のものである。もしみなさんが、独自に年に一度でも国際クラスのサーキットを走ろうとすると、費用はもちろんコースを手配する手間も大変だろう。NSXは、オーナーとなった瞬間から単独で走る場合と比べられない手軽さで、鈴鹿はもちろん、今度オープンする「ツインリンクもてぎ」さえ走ることができるのだ。これはNSXを選ぶ大きな理由となると思う。NSXは、床の間に飾って置くスポーツカーではない。安心して思いっきり走ることのできる点でも、世界まれにみる第一級のスポーツカーなのだ。



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