対談記事

日常を見つめるということ N-BOX インテリアデザイナー 藤原名美 歌人 岡本真帆

Nシリーズがデザインする日本の暮らしについて、
歌人・岡本真帆とN-BOXのインテリアデザイナー・藤原名美が語り合います。

人の暮らしや情景を言葉だけで描く歌人と、暮らしを想像してクルマを描くデザイナー。
2人から見たHondaのデザインとは?

01短歌やクルマのデザインを
はじめたきっかけ

岡本さんが短歌をはじめたきっかけは?

岡本社会人3年目の時に、当時広告のコピーライターをやっていたんですが、その中で仕事じゃない所でも言葉の表現をしてみたいなと思って。それで色んな方の歌集を読むようになって、作り始めたのがはじまりです。

藤原どうして、短歌だったんですか?

岡本書店でデザインが素敵な本を見かけて、手に取ってみたらそれが歌集だったんです。『えーえんとくちから』という、笹井宏之さんの歌集でした。平易な言葉で書かれているのに、一首の歌から立ち上がる世界が奥深くて驚きました。元々短歌には興味があったので、見様見真似で少しずつ作るようになって。それからWEBや雑誌、新聞などいろんなところに投稿を始めました。短歌は31音とすごく短いものなのに、1本の映画を見たような満足感を得られたり、忘れていた些細なことを思い出したりする。今いる場所じゃないどこかに行ける装置みたいなところもある。壮大なことも些細なことも、31音で表現できるところに惹かれてます。小説や音楽などもそうですが、作る人によって広がる世界が異なること、表現に幅があるところも魅力だと思います。

藤原さんがNシリーズのデザインを担当する事になったきっかけは?

藤原私は入社当時からデザイン室配属で、クルマのインテリアを担当してきました。でも、ずっとずっと、この N シリーズをやりたいってやりたいって言い続けて、それで2人目の子供の育休復帰後に今回のN-BOXに抜擢されました。

岡本今回というと、いつからなんでしょうか?

藤原新しいN-BOXの開発はかれこれ数年前スタートしました。ちょうど下の子の育休復帰後に始まって、やる!きた!っていう感じでした。2代目の時は入れなかったんで、念願でした。

Nシリーズに思い入れがあった理由とは?

藤原N-BOXって日本で一番売れているんです。だから見ない日はないくらいどの地域に行ってもいるみたいな。みんなが使ってくれてる姿を日々見れるのがめちゃくちゃ嬉しいのでNシリーズをやりたかった。新しいN-BOXは最近発売されたばかりなので、見られるのはこれからですけどね。

岡本街で見かけたら嬉しくなりそうですよね。

藤原実は先日、新しいN-BOXを一台見たんですよ!

今回はそのNシリーズとの人々の暮らしを短歌で表現するという企画でした。
藤原さんはこれまでに短歌に触れる機会はありましたか?

藤原本音を言っちゃうと、短歌に触れる機会は、まずなかったですね。
だから、最初短歌ってなんだっけ?それとNでどうなるの?みたいな感じでした。

02短歌作品を見た感想

岡本さんの短歌『Nのいる風景』を読んでの感想を聞かせてください。

藤原情景がすごい浮かんでくるというか、人も、人の生活も感じられると思いました。
私たちも開発する時、このクルマのユーザーさんがどういった暮らしになってくれたらいいかなってめちゃくちゃ考えるんです。実際に暮らしを見に行ったりとか、いろんな人の生活について考えて、そのイメージを作るんですよ。こんな人が乗ってて、家族構成はこうで、こんなところに住んでてとか。日曜日はこう。平日はこうでみたいなところまで考え抜くんです。
それとすごく近いというか、ワンシーンを切り取った短歌でも、そこに収まってる言葉の裏にも生活全体が見えてくるなって思いました。

開発時に考えていた生活のイメージと重なるものはありましたか?

藤原N-BOXの開発で描いたコアユーザーはこの短歌の主人公と同じでまさにママなんです。ママって日常の生活の中で一番多くのタスクを抱えていて、それをうまく裁いている人たちだと思うんです。そんな人たちにすっと馴染むクルマはどんな人でも使いやすいんじゃないか?というのがこのデザインの発端でした。
ママにとって子供の成長ってとっても早いので、その一瞬一瞬が楽しい思い出として生活の中に刻まれたらいいな、という思いでこのクルマを作っていました。なので、N-BOXの最後の一首「初めての世界で君が見たものを君のことばで教えて欲しい」は本当にそうだと思いました。デザインに入れ込んだその想いをまさに映し出してくれていて嬉しいです。

岡本ありがとうございます。私はN-BOXを見た時にまず内装がいいなと思ったんです。自分の部屋とはまた別の居場所みたいな、すごく居心地のいい空間だなと感じて。N-BOXの連作の主人公をお母さんにしようと決めた時に、母親でありながらも母親という役割を超えて、その人自身が今の時間を楽しんでいるようにしたいなと。日常の中のきらめきを忍ばせられたらいいな、とイメージしながら作りました。

連作「一瞬のこと」より

藤原他には、N-ONEの短歌は高齢な夫婦のような設定だと思うんですけど。N-ONEってN for LOVEという肩書きを持っていて、まさに「愛車」だと思って貰いたいという開発の想いがあったんです。なのでこの子が最後の愛車になり得るんだろうなって。特に最後の一首の「やがて目の一部に眼鏡がなるようにきみとの日々は私になった」っていうのはすごくグッときました。

岡本そうですね。N-ONEの前身であるN-360に昔憧れていた方が、今N-ONEに乗っているというユーザーボイスを見つけて、その辺りからもインスピレーションをいただきました。憧れていたクルマに歳をとってから気持ちよく乗っているというのは、本当に素敵なことだなあと思って。
子供たちが巣立っていって、奥さんと二人暮らしになっている。その夫婦の日々を描くのか、それともその方自身のクルマへの気持ちを描くのかで、最後まで悩んだのですが、最終的には後者にしました。他の車種と比べると、愛しさや寂しさが感じられるようなテイストになっているかと思います。

連作「最後の愛車」より

今回岡本さんには、短歌を詠んで頂く前にNシリーズの4台を見て頂きました。
実際ご覧になった感想も教えていただけますか?

岡本N-VANは秘密基地みたいな感じがすごくワクワクしました。棚が自分でつけられるとか、サーフボードも入れられるじゃないですか?クルマでそんなことができるなんて、どれだけ遊び心を追求してるんだろう!欲しい!って。

藤原N-VANは本当に秘密基地って呼ばれているんですよ。

岡本え、本当に呼ばれているんですか。

藤原そういう思いを込めて作ってるんです。N-VANはN for Workという肩書きを持っていて、働く人を助けるみたいなところがスタートなんですけど、それを追求していった結果、あれ?これ自分も欲しい!みたいになったっていう。

岡本いいですよね。ユーザーボイスも楽しそうな投稿が多いですよね。カスタムして楽器を乗せていたり、キャンプに行ったり。「テントで寝るよりもクルマの中で寝る方が気持ちいい」という声があるのも面白くてよかった(笑)。それぞれの遊び方が楽しそうでいいですね。

連作「遊ぶ夏」より

岡本N-WGNはヘッドライトがすごい可愛くて一番好きな顔でした。そういう感想も「つぶらなライト」という表現で短歌に反映しています。N-WGNとの暮らしは、クルマで走ることの楽しさを出したいなと思って描きました。

藤原やっぱりN-WGNは、時間がゆっくり流れててゆとりがある感じを表現してくれてるなっていうのがまさにそうで。例えば「会いたさが会いにいくよに変わるとき愛車の青はきらめく、深く」みたいなところがならではの表現ですよね。N-WGNは自分のテリトリーを広げてあげるような立場なんだなっていうのがすごくよく分かります。

今回、Nシリーズとの暮らしを短歌で描くのにあたって、岡本さんが意識された事は?

岡本私は最近よく『拾った石を磨いて、人に見せている』といった説明をするんですけど。日常の中でいいなと思ったものを作品にして、残していくのが私の短歌との関わり方だと思っています。いいことだけではなくて悲しいとか切ないとか、そういういろんな気持ちを書けたらと思ってます。

普段は自分の体験や感覚から作っているので、今回の企画は少し特殊でした。ですが、ユーザーボイスを沢山読ませていただいたり、友人に話を聞いてみたりして。自分も実感を持って想像できるところまで落とし込んでから、制作に臨みました。自分自身がリアリティをもって想像できることを一番大事にしていますね。

03普段の制作方法や考え方について

具体的には、普段どうやって短歌をつくっているんですか?

岡本短歌を日常的に作っていると、だんだん「これは短歌にできそう」という感覚が研ぎ澄まされてきて。
歌にできそうなものを見つけたら一旦 iPhoneのメモ帳に書き留めるようにしています。それを後で5・7・5・7・7の形にして。そして、推敲する。たとえばその短歌の景色を撮っているカメラがあるとしたら、そのカメラの位置を変えてみることもあります。俯瞰にしたり、ものすごく寄ってみたり。物を主人公にして、カメラを持たせる対象を変えたりもしますね。調整をして、これしかないと思えるところまで推敲するのが私の作り方です。ちょっと寝かせて、数日経ってからさらに調整することもあったり。その推敲がすごく楽しくて、遊ぶようにずっとやっています。

クルマのデザインを考える藤原さんも、普段からメモを取ったりしますか?

藤原私たちはよく、写真を撮りますね。子供がこのシーンでこういう事をやったっていうのは残したりとか結構しました。ここが汚れてるな、カチャ、とか。

岡本写真で撮ることが多いんですか。

藤原結構写真で撮って、それをすぐにチームメンバーに伝えるみたいな。ここがすごい汚れてたよ。ここめっちゃ傷ついてるよ、とか。お菓子のカスはここにたまるよ、とか。そういう日常の感じ。

岡本デザイナーさんたちの生活の気付きが活かされているんですね。

藤原そうですね。最初からいきなり絵を描く事はあまりなくて、日常シーンの写真を並べてチームメンバーで話し合う感じです。そして「ここがこうなったらいいよね。」「今のこのシーンこうだったらいいのにな。」を集めて選りすぐるみたいな。

そうやってクルマをデザインする時に意識されているのはどんな事ですか?

藤原デザイン室だとどうしても、良いスタイリングを出すとか、絵を描く事の方がデザイナーとして主にやる事になっちゃいがちなんですけど。でも、その先の使うユーザーがどんな気持ちで使うのか?日常がどうなるのか?っていう所までしっかり考えないといけないと思うんです。まさに今回岡本さんがやってくれたみたいに。今回の短歌もデザイン室のみんなに宣伝してきました。

岡本ありがとうございます。作った甲斐があります。

Nシリーズを通して、ユーザーの方々にはどんな暮らしを送ってほしいですか?

藤原こういう暮らしをして欲しい、っていうのを押し付けたくはないんです。ユーザーの方々の暮らしに溶け込んで、その人たちの普段の暮らしをちょっとステップアップするような存在なのかなと。今回のN-BOXでも、私たちが「優しい気遣い」と呼んでいるママ目線や子供目線での改良ポイントが色々あるんですが、そういう気遣いでユーザーの方々の生活を助けるような役割かなっていうのは思ってます。

岡本クルマのデザインってすごいですよね。N-VANは仕事する人の生活や可能性を広げてくれるデザインじゃないですか?ものを積んだりとか、長くて運ぶのは諦めてた物も自分のクルマで運べるとか。N-BOXも優しい気遣いみたいに、生活がちょっと素敵になるのがわかる。「生活をデザインする」って本当にこういうことなんだなと。とても素敵なお仕事ですね。

04今後の展望

最後に、お二人は今後、どんなものをつくっていきたいですか?

藤原今回のN-BOXの開発では、お客さんの暮らしについて深く考えなきゃいけない立場を経験させてもらいました。デザイナーは素敵なスタイリングを提案するだけじゃなく、クルマの立ち位置とか生活シーンを思い描いてクリエーションしていこうねって事を、もっと広く伝えていきたいです。今からクルマのデザインを始める子にも、そういうことがすごい大事なんだよって。ちゃんと暮らしを思い描いているかとか、ユーザーさんを見てるかとか。それが形に直結していくんだよってことを広めたいなって、今思ってます。

岡本今は、感じたものを何でも短歌にしてみたいです。自分にとって「生活すること = 短歌になっていくものが増えていく」という感覚で、楽しく生きたい。今ここにある瞬間を楽しんで過ごしたいと思っています。
いろんなことを経験する中で、自分の心に残った瞬間やそれによって沸き起こった感情を、少しずつ歌として残せたらなと思っています。

藤原もし、私が次やるクルマのコンセプトが短歌になっていたらおもしろいな(笑)。思い描く世界観のそばに短歌が添えられていて、言葉の力がさらにイメージを強くしてくれるみたいな。クルマを開発する時にはグランドコンセプトっていう一言を作るんですけど、それが短歌になったらより情景が浮かびやすいのかなと思いました。

短歌とクルマのデザイン。
創作の形は違っていても、どちらも「人の想いや人の暮らしに寄り添い、少しでも良いものにしていく」デザインだということがお二人のお話から感じられました。

色々な人の生活や想いを想像すること、そして自分自身の実感や経験を大事にすること。
それが、人の暮らしや気持ちに深く溶け込むクリエイションのヒントになるのかもしれません。

プロフィール

  • 歌人岡本 真帆

    1989年生まれ。高知県、四万十川のほとりで育つ。未来短歌会「陸から海へ」出身。2022年3月、第一歌集『水上バス浅草行き』をナナロク社から刊行。

  • N-BOX インテリアデザイナー藤原名美

    1982年生まれ。和歌山県出身。2児の母。
    入社後、ACURA機種の先行開発と量産機種のインテリアを担当。
    現在はNシリーズ全般を担当。愛車はN-ONE。

この作品の題材になったクルマ

シェア

公式インスタグラムで
最新情報を掲載中!

公式Instagramをフォローする

作品で取り扱ったクルマ