今年からMoto3世界選手権への参戦を開始した16歳の佐々木歩夢は、今シーズン最も注目されているルーキーの一人です。佐々木は2014年にアジア・タレント・カップの一期生として参加し、翌15年に年間総合優勝を達成しました。16年は、RedBull MotoGPルーキーズカップで日本人初のチャンピオンを獲得し、大きな話題になりました。そして、その約1カ月後のマレーシアGPでは、17年にSIC Racing TeamからMoto3クラスへ参戦することが発表されました。
このマレーシアGPでは負傷欠場のエネア・バスティアニーニに代わり、Gresini Racing Moto3から急きょ代役参戦。初めて経験する世界選手権の予選で21番グリッドを獲得しましたが、決勝レースでは、スタート直後の3コーナーで転倒に巻き込まれてしまい、あえなくリタイアとなります。
しかし、この経験は佐々木にとって、大きな糧になったようです。
「言い訳をするつもりは全くありませんし、悔いのないレースでした。参戦したことで、現状の自分のレベルはこのあたりなんだな、グランプリのレベルというものはこういうものなんだな、ということが分かったのはよかったと思います。『うわあ、これはすごいレベルだな』とも思わなくて、むしろ、レースのあとの方が安心感がありました」
佐々木が参戦してきたアジア・タレント・カップや FIM CEVレプソルインターナショナル選手権、RedBull MotoGPルーキーズカップなどのカテゴリーは、Moto3世界選手権に参戦するための重要な準備期間でした。その際にアジアやヨーロッパで戦いながら身につけたことは3つあると、佐々木は話します。
「年々、走るごとに速さを身につけてきましたが、レースの本場であるヨーロッパの雰囲気や、そこで戦う彼らのアグレッシブさ、彼らと勝負するために頭を使ってレースをすることの重要性。その3つが、この2、3年で自分が学んだ特に重要なことだと思います」



また、欧州の選手たちの自らを律する厳しさも、佐々木には大きな刺激になりました。
「気持ちも違うし、やる気も違うし、彼らはレースだけに集中して決して遊んだりせず、人生を賭けていることがよく分かりました。自分もその雰囲気になじむことで、こうやってここまで来ることができました」
自らを厳しく律しているため、今の自分にあこがれの選手はいないとも佐々木は話します。
「子ども時代にポケバイで走っている頃は、MotoGPライダーは全員速くてかっこいいなと思っていました。もちろん、今でもMotoGPの選手は全員尊敬しています。でも、あこがれの選手なんて考えていたら、例えその選手のレベルまで近づけたとしても、それ以上にはなれないと思います。僕はその選手たちも超えたいので、あこがれの選手はいませんね」
シーズンが開幕し、第1戦のカタールGPは11位で終えました。第2戦アルゼンチンGPは全く未経験のコースで、20位というリザルト。シーズン屈指の難易度を誇る第3戦の会場サーキット・オブ・ジ・アメリカズも初体験ですが、このレースでは18位のチェッカーフラッグを受けました。
「この2戦は初めてのコースが続きましたが、初日の走行でみんなから遅れると、周りが速くなっていく中で自分はさらにその倍も速くならなければ、タイム的に追いつけないので、そこがやはり難しいところだと思いました。次のヘレスは知っているコースで、プレシーズンテストもいい内容だったので、最低でもカタールくらいのレースはしたいです。ここから先は焦らずに、まずは10位以内、そして5位以内と上げていき、シーズン最後には表彰台や優勝して締めくくるようにしたいと思います」
その第4戦スペインGPでは、ポイント圏内の15位でフィニッシュ。ここから始まる欧州ラウンドで、Moto3ルーキー佐々木の戦いがいよいよ本格的にスタートします。



