飾り気のない態度と謙虚な物腰、洞察力に富んだ発言、そしてレースに取り組む真剣な姿勢と明るい性格。イギリス出身のカル・クラッチローは、MotoGPパドックの中で最も人を惹きつける魅力にあふれた、ライダーの一人です。クラッチローは2015年にHonda陣営に加わり、今年がHondaマシンでの2年目のシーズンになります。
「自分がなぜHondaを、そしてLCRチームを選んだのかというと、HRCのファクトリーマシンに乗りたかったからです。Hondaのファクトリーマシンは本当にすばらしいマシンだと思います。僕はもともとコーナースピードを上げるライディングスタイルだったのですが、昨年はブレーキを強くする方向へと変えました。学ぶことも多く、楽しくマシンに乗れているので、いい方向に進んでいけたと思っています」
他陣営のマシンからの乗り換えは、ともすれば困難をともなう場合もありますが、クラッチローは昨シーズンを振り返り、うまく適応できたと話します。
「マシンへの順応には、もちろん多少の時間が必要になりますが、僕の場合はHondaやチームの助力もあってライディングスタイルをうまく適応させることができたと思います。Hondaの技術者たちとチームが与えてくれた示唆は本当に役立ちました。いくつものメーカーのマシンに乗ることができて、すごくいい経験ができたと思っています。そして今、こうしてHondaのマシンに乗っているのは本当に名誉なことだと思います」
うまく順応できたと話す通り、今年のクラッチローはファクトリー勢に負けない速さをみせて高いパフォーマンスを発揮しています。しかし決勝のリザルトは、残念ながらその鋭い走りにともなわないレースが続いています。この厳しい状況を打破するためには、ひたむきな努力を続けることだと言います。
「とにかくがんばる、それしかありません。完走できないレースが続いている今は厳しい状況ですが、僕はほかのライダーたちに負けない速さを発揮できていると思っています。でも、やはりレースは完走しなければならないので、ミシュランタイヤにももっと慣れて、次のレースこそいい結果を獲得できるようにしたいですね。
だから目標は常に同じ。勝つことです。もちろん、容易なことではないですよ(笑)。MotoGPをこれまで5年走ってきて今年が6年目、まだ一勝も挙げていませんが、『自分はできる、僕は速いんだ』と信じて走り続けています。だからこそ、毎日一生懸命トレーニングをしていますし、チームやHRCと連携して自分を磨きながらマシンとともに前進を続けています。その努力が本当に重要なことだと思います」




昨年の10月で30歳になったクラッチローは、人間的な円熟味を増した反面、精神面や肉体面は20代の頃の新鮮さを今も保ち続けています。
「勝ちたいと思う気持ちは変わらないし、自分は十分に若いと思っています。相変わらず激しいトレーニングをしていますし、体力面も精神面も、なにも問題はありません。万事順調なので、この調子でいけば、自分のピークはこれからだと思います。頂点はまだ先ですよ」
マン島で暮らすクラッチローが自転車ロードレースを趣味にしていることは有名です。同じマン島に住むプロサイクリストであるマーク・カヴェンディッシュと仲がよく、時間のあるときには一緒にトレーニングをするほど、クラッチローは自転車アスリートとしても高いレベルを備えています。
「僕の方が彼より速いんですよ!! なんていう冗談はともかく、今でも一緒に練習をするし、マン島ではほかの友達とも一緒に走ります。今でも、趣味として小さいレースに出場しています。自転車のトレーニングは大好きなので、朝はいつも自転車で走りに出ますね」
ところで、クラッチローがMotoGPでHonda陣営に加わったのは15年からですが、実はそれよりはるか以前に、彼はHondaのマシンに乗っています。2008年の鈴鹿8耐に参戦し、6位でフィニッシュしているのです。
「モリワキから参戦しました。とても楽しいレースでした。もう一度参戦するどうかは分かりませんが、もしかしたら何年後かにまた走る可能性があるかもしれませんね。たくさんのプレゼントをもらって、サインもたくさんしました。日本のファンの人たちが8耐を大好きなことがよく分かって、とてもうれしい気持ちになりましたね」

