IDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦

カイルール・イダム・パウィ

中上貴晶 ラタパーク・ウィライロー 尾野弘樹

実力を発揮する前に終わってしまった無念のレース

第16戦オーストラリアGP  会場:フィリップアイランド・サーキット
予選:17番手  決勝:リタイア

ルーキーライダーにとって、初年度に経験するサーキットはどこも難易度の高いコースばかりです。なかでも第16戦オーストラリアGPの舞台、フィリップアイランド・サーキットは、Honda Team Asiaのカイルール・イダム・パウィにとって、シーズンで最も過酷な試練の場になりました。

カイルール・イダム・パウィ

悪天候に翻ろうされがちなフィリップアイランド・サーキットで、今年は初日の走行から雨になりました。ウエットで2度優勝しているため、路面が濡れるたびに周囲の注目はどうしてもパウィに集まりがちですが、世界選手権は決して容易なものではありません。当コースで初めての走行となった午前のFP1は19番手。午後は順位こそ3番手ですが、雨脚が次第に強くなっていったため、この順位はパウィの雨での強さというよりも、むしろいいタイミングでタイムを出せた幸運によるもの、と言った方が適切でしょう。パウィ自身もそれを十分に理解していました。

「このコースを走るのは初めてなので、午前の走行は特に厳しく感じました。FP2では、まだ初日だし、リスクを取る必要はあまりないと判断して、雨が強くなってきてからはピットで様子を見ることにしました。このサーキットはハイスピードコーナーがたくさんあっておもしろそうですが、ウエットの走行ではセットアップを進めるのが難しかったです。僕はここでドライの走行経験がないので、ドライになるとセットアップ作業でほかの選手に後れを取ってしまうかもしれません。でも、明日もがんばって走り込みたいと思います」

土曜日の午前も雨。午後の予選はドライで始まるかのようにも見えましたが、走行開始とともに一雨あり、その後に路面が乾いていきました。多くの選手がこの状況に翻ろうされる中、パウィはセッションの最後に自己ベストタイムを更新して16番グリッドを獲得しました。

「ドライでこのコースを走ったことがないので、予選は難しいセッションになりました。ドライコンディションではフロントサスペンションのフィーリングを改善しようとトライして、最後にそこそこうまくまとめて走ることができました。明日のウォームアップで、また別の方向も試してみたいと思います。このサーキットは風が強いのですが、僕の祖国のマレーシアではこのような風が吹くことはあまりないので、強風の中でマシンを走らせる方法を理解することがとても難しかったです。ドライコンディションで走れたのは数周ほどだったので、ハイスピードコーナーの攻略もまだ全然できていないのですが、明日は決勝なのでもっとがんばりたいと思います」

カイルール・イダム・パウィ

しかし、その決勝レースはパウィが実力を存分に発揮する前に終わってしまいました。

スタート直後、オープニングラップの2コーナーにおいて、パウィの眼前でライダーが転倒。避けきることができずに横転したマシンに乗り上げる格好で、パウィもクラッシュしてしまいました。わずか数100mも走らないうちに終わってしまったレースに、パウィは悄然とした様子を隠すことができません。

「目の前で1台転倒したので、避けようがありませんでした。たった2つのコーナーでレースが終わってしまうなんて思ってもいなかったので、とても残念です。でも、大きな転倒だったわりにケガがなく、次のレースもいつも通りに戦えるのが、不幸中の幸いです」

連戦となる次のマレーシアGPは、パウィにとってホームレースです。参戦初年度に2勝を果たしたゴールデンルーキーの活躍を見るべく、大勢のファンが訪れるでしょう。

「ホームグランプリだから、もちろん地元で勝利するつもりでがんばります。でも、Moto3クラスは激戦区なので、そう簡単には目標を達成させてくれないことも分かっています。レースには、家族やファンの方々が大勢レースを見に来てくださいます。いつも全力で僕を支えてくれるチームのためにも、自分の力を全部出しきって戦います」