IDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦

カイルール・イダム・パウィ

中上貴晶 ラタパーク・ウィライロー 尾野弘樹

転倒リタイアでも、確かに示した才能の片鱗

激戦のMoto3クラスで、毎戦新人らしからぬ走りを披露し、大きな注目を集めているHonda Team Asiaのカイルール・イダム・パウィは、第7戦カタルニアGPでもその非凡な才能を大きくアピールしました。今回の決勝はレース終盤の転倒という残念な結果に終わってしまいましたが、そこまででみせた優勝争いに絡む力強いライディングは、器の大きさと将来性を、改めて感じさせました。

カイルール・イダム・パウィ

第7戦カタルニアGP  会場:カタルニア・サーキット
予選:6番手  決勝:リタイア

世界選手権を初めて戦う新人ライダーにとって、ほとんどのコースは初体験となるため、レースウイークの走行では、まずコースへの順応から始めることになります。しかし、今大会の舞台であるバルセロナのカタルニア・サーキットは、パウィにとって、昨年のFIM CEVレプソルインターナショナル選手権時代に走行経験のあるコースです。しかも、2レースが行われるそのCEVで、パウィは第1レースを2位、第2レースを3位と、連続で表彰台を獲得しています。今回のMoto3クラスでも、当時の走りを再現するべく、初日のセッションから全力で挑みました。

金曜日の午前の段階で、すでに上位陣に食い込む健闘をみせ、FP1は9番手。午後のFP2では、さらにタイムを詰めて8番手となりました。この日のトップタイムを記録した選手から0.780秒差でまずまずの内容でしたが、パウィ自身はフロントの安定感のなさに納得できない様子でした。「今はセッティングを模索している段階で、少しずつよくなっているのですが、まだ完ぺきと言える状態ではありません。フロントのフィーリングがいま一つで、思い通りのラインをトレースできていません」。歯がゆそうに語るパウィですが、その様子からは、セットアップさえ決まれば上位を走る自信が十分にあることを感じさせました。

「チームがとてもがんばってくれているので、明日はセットアップを完ぺきに持っていきたいです。昨年はダブル表彰台を獲得しているので、このコースと相性はいいと思っています。だから、しっかりマシンを決めて、決勝レースでは表彰台を狙う走りをするつもりです」

カイルール・イダム・パウィ

土曜日の走行で、パウィとチームは着実にセットアップを積み上げ、予選でも経験豊かなライバルたちに負けないラップタイムで走行を続けました。セッション中は終始タイムシートの上位につけ、セッション終了間際にクリアラップを狙ってタイムアタックを実施。こうして自己ベストタイムを更新する走りは、とても新人選手とは思えない巧みな戦略でした。それが功を奏し、グリッドポジションは2列目6番手に。パウィ自身も納得の表情で、この日の走りを振り返りました。

「いいセットアップを見つけ、いいペースで走れていたので、予選の最後では単独走行を狙えるタイミングを計ってピットアウトしました。それがうまくいき、だれにも後ろにつかれずに、いいラップタイムを刻めました。今日から、後半のコースレイアウトが変更されて、最初は少し戸惑いましたが、岡田(忠之)監督からアドバイスをもらい、うまく乗れるようになりました。明日の決勝レースは暑くなると思うので、序盤はペースを抑えてミスをしないように心がけ、終盤で勝負を仕掛けて表彰台争いをしたいです」

カイルール・イダム・パウィ

日曜日の決勝レースは、まさにパウィが狙っていた通りの展開になりました。2列目6番グリッドからスタートしたパウィは、スタートを決めてトップグループにつけると、激しく先頭争いをする選手たちの後ろで状況を見極めながら、クレバーに周回数を重ねました。そして全22周のレースが終盤を迎えたころで勝負に出ました。8台のトップグループで後方から7番手、6番手、と少しずつポジションを上げていきます。

ところが、20周目の10コーナーの進入で、フロントが切れ込んで転倒を喫してしまいました。「残念な結果になってしまいました。チームがせっかくいいマシンに仕上げてくれたのに、本当に申し訳ない思いでいっぱいです」。ピットボックスへ戻ってきたパウィの表情には、悔しさと不甲斐ない自分への思いが混在した、言葉では表しきれない複雑な感情がありありと浮かんでいました。

「レース序盤はいいフィーリングだったのですが、6周目を過ぎたころからリアが滑り始めたので、ポジションをキープしながら前についていくことに徹しました。無理をせずに丁寧なスロットルワークを心がけ、うまくコントロールできていたと思います。レース終盤になって、勝負を仕掛けました。表彰台に上がれる自信があっただけに、転倒してしまったのは本当に残念です。次のレースも全力で臨み、この悔しさを晴らしたいです」