IDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦

カイルール・イダム・パウィ

中上貴晶 ラタパーク・ウィライロー 尾野弘樹

開幕戦 17歳ライダーのMoto3挑戦がスタート

マレーシア出身の17歳、カイルール・イダム・パウィとIDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦がいよいよ始まりました。開幕戦の舞台であるロサイル・インターナショナル・サーキットでは、レースウイークに先立ち、3日間のプレシーズンテストが行われました。このテストで、パウィはコースへの習熟を深め、来たるべきシーズンに向けて着々と準備を進めていきました。

カイルール・イダム・パウィ

開幕戦カタールGP  会場:ロサイル・インターナショナル・サーキット
予選:17番手  決勝:22位

開幕戦のカタールGPは通常のレースウイークと異なり、ナイトセッションで行われるため、走行スケジュールも通常より1日早い、木曜日から走り始めます。日没となった午後6時にコースインしたMoto3クラスのライダーたちは、数日前のテストの成果を発揮して着々とタイムをアップしていきます。そんな経験豊かな選手たちを相手に、初日21番手だったパウィはセッションごとに前との差を詰め、土曜日の予選では17番手につけました。

日曜日の決勝では、集団のバトルにしっかりと最後までついていき、長丁場のレースをしっかりと完走して22位でチェッカーフラッグを受けました。

「今日のレースでは18周を走りきって、とても勉強になりました。厳しいレースでしたが、今後に向けてとてもいい経験になりました。レースではスタートをうまく決められなかったので、前の方の集団についていけませんでした。この課題を今後は改善していきたいです」

この言葉にもある通り、フル参戦デビュー戦を果たした17歳の若者にとって、ナイトレースの開幕戦は多くのことを学んだ充実の一戦となりました。

第2戦 歴史的な快挙をなしたアルゼンチンGP

舞台を南米アルゼンチンのアウトドルモ・テルマス・デ・リオ・オンドに移した第2戦は、Honda Team Asiaとパウィ、そしてアジア全域のロードレースの歴史にとって記念すべきものになりました。

カイルール・イダム・パウィ

第2戦アルゼンチンGP  会場:アウトドルモ・テルマス・デ・リオ・オンド
予選:4番手  決勝:優勝

土曜日までの好天から一転。ウエットコンディションとなった日曜日の決勝レースで、パウィはうまくスタートを決めると、周回ごとに後続を引き離し続け、最後は2位の選手に26秒もの差をつけて優勝を果たしました。

カイルール・イダム・パウィ

レースを終えたパウィは「微妙なコンディションのレースでしたが、チームがすばらしいマシンに仕上げてくれたので、レースは全然難しく感じませんでした」と、落ち着いた口調で喜びを表しました。

「序盤からいいラップタイムを維持し、後続を引き離すことに集中しました。僕をいつも支えてくれるすべての人たちと、今日の喜びを分かち合いたいです。なんだかまだ、優勝したことが信じられません」

この勝利により、パウィは東南アジア出身の選手として初の、ロードレース世界選手権のウイナーとなりました。忘れてはいけないのは、ウエットコンディションの決勝レースで速かったことはもちろん、ドライコンディションで行われた土曜日の予選でも、経験の豊かなライバルたちと互角以上の走りを披露し、4番手タイムを叩き出していたという事実です。この持ち前のスピードとファイティングスピリットを、パウィは以後のレースで証明していくことになります。

第3戦 天候に翻ろうされるも、持ち前の速さを披露

第2戦から2週連続開催となった第3戦アメリカズGPは、アルゼンチンから北上し、米国テキサス州オースティン郊外のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで開催されました。

カイルール・イダム・パウィ

第3戦アメリカズGP  会場:サーキット・オブ・ジ・アメリカズ
予選:32番手  決勝:20位

土曜日の予選は、午前遅くに降った雨の影響により、最初はウエットタイヤでの走行となりましたが、路面が十分に乾いていると判断したチームとパウィは、ピットで即座にスリックタイヤへ交換し、再びコースイン。しかし、その矢先に再び雨が降り始めたため、結局、十分な走行ができないままセッションが終了してしまいました。そのあおりを受けた格好で、パウィは32番手スタートになりました。

カイルール・イダム・パウィ

日曜日の決勝レースを最後尾からスタートしたパウィは、それ以上失うもののない強みで、果敢に前を目指して攻め続け、どんどんポジションを上げていきました。ポイント圏内に入ることこそかないませんでしたが、12人をごぼう抜きして、最後は20位でチェッカー。前戦の優勝とは対照的なレースでしたが、終始攻め続ける姿勢に変わりはありませんでした。

「最後尾からのスタートだったことを考えると、12もポジションを上げてゴールできたので、いいレースだったと思います。厳しい戦いでしたが、力の限り走りました。次のヘレスでも全力でがんばりたいです」

レースを終えたパウィは、次戦から始まるヨーロッパラウンドに向けて、すでに気持ちを切り替えていました。

第4戦 経験のあるコースでライバルたちと互角のバトルを展開

第4戦の舞台であるヘレスサーキットは、開幕前にプレシーズンテストを行った地です。しかも、前年に参戦していたFIM CEVレプソルインターナショナル選手権での走行経験があるコースなので、パウィにとってはほかのMoto3ライダーたちと互角に戦える、数少ない好条件のコースと言えます。

カイルール・イダム・パウィ

第4戦スペインGP  会場:ヘレスサーキット
予選:24番手  決勝:14位

自信を持ってレースウイークに臨んだパウィは、初日のFP1とFP2を終えて8番手タイムと、まずまずのスタートとなりました。翌日の予選では24番手タイムで、8列目からのスタートとなりましたが、日曜日の決勝レースでは、その不利を存分に跳ね返す元気なライディングで、ライバルたちと息詰まるバトルを繰り広げました。最終ラップまでタイヤを温存する戦略がピタリとはまり、最終セクターでの激しいポジション争いで一歩も引かない戦いを展開。ポイント圏内の14位でチェッカーを受けました。

カイルール・イダム・パウィ

パウィはこの日のレースについて「気持ちのいいバトルができました」と、汗をにじませながら笑顔で振り返りました。

「前戦はノーポイントで終わってしまったので、今大会は2ポイントを獲得できて本当によかったです。終盤までタイヤを温存する作戦がうまくいきました。次のル・マンでのレースが今から本当に楽しみです」

第5戦 苦しい展開の決勝でポイントをつかみとる

パウィにとってフランスGPの舞台となったル・マン・サーキットは、ヘレスサーキットと同じく、走行経験のあるコース。前年のFIM CEVレプソルインターナショナル選手権で2位表彰台を獲得した経験と自信を、ぜひ生かしたいところでした。

カイルール・イダム・パウィ

第5戦フランスGP  会場:ル・マン・サーキット
予選:9番手  決勝:14位

第2戦で歴史に残る劇的な優勝を達成したルーキーは、常にその一挙手一投足に注目が集まります。しかしそれはまた、ライバルチームや選手たちからのチェックが厳しくなるということでもあります。各セッションで単独走行に徹して、セットアップの積み上げとラップタイムの向上を狙うパウィは、初日の走行でトップから0.843秒差の15番手。土曜日の予選では、一気にコース攻略を進めて9番手に浮上し、トップに0.350秒という僅差まで迫りました。

カイルール・イダム・パウィ

自信を深めて臨んだ決勝レースは14位。前戦のスペインGPと同じ位置でのフィニッシュですが、レース後、パウィは「内容的には決して満足できるものではなかったです」と、語りました。

「スタートを成功させて、レース序盤はトップグループについていけたのですが、次第にリアのフィーリングに違和感が生じて、マシンのコントロールが難しくなってきました。そのため、思うようにポジションを上げられなかったのが残念です。ポイントを獲得できたことはよかったと思いますが、次戦のイタリアGPでは、さらに上位の結果を目指したいです」