HRCチーム代表 リビオ・スッポ 現場レポート
vol.98

天候に翻ろうされたアッセンでマルケスが2位表彰台

 第7戦オランダGPの舞台は、伝統のTTサーキット・アッセン。グランプリの歴史よりも古い歴史を持ち、1949年から現在に至るまで連綿と開催されている唯一の会場です。また、当地は「ダッチウェザー」と呼ばれる、変わりやすい天候に悩まされることも大きな特徴です。今回のレースウイークも、温度条件は総じて低く、路面もドライからウエットへ、ウエットからドライへと変化する難しい状況でした。伝統的に土曜日に行われる決勝レースで、Repsol Honda Teamのマルク・マルケスは、ルーキーにもかかわらずすばらしい走りで2位表彰台。ここまでの7戦中6戦で表彰台に立っています。チームメートのダニ・ペドロサは4位でフィニッシュ。惜しくも表彰台を逃したものの、ポイントランキング首位を維持してレースを終えました。移り変わりの激しい天候と路面コンディションに、選手と全スタッフが一丸となって立ち向かった今回のレースウイークを、チーム代表のリビオ・スッポが振り返ります。

−TTサーキット・アッセンは、一種独特の雰囲気を持つ伝統のグランプリです。今回のレースウイークでは、マルクとダニ、そしてホルヘ・ロレンソ選手(ヤマハ)がプラクティスで大きな転倒を喫してしまいました。理由はどこにあったのでしょうか?

「アッセンの天候は、いつも変化が激しく、予測が難しいことで有名です。ダニの転倒はドライコンディションの予選終盤に発生した出来事ですが、ロレンソ選手とマルクについては、難しいコース状況に足元をすくわれた格好の転倒でした。ほかのクラスでも転倒車が多数発生しましたが、いずれもコースそのものの問題ではなく、天候が原因だったと言っていいと思います。幸い、土曜日の決勝は好天になり、すばらしいレースが繰り広げられました。ライバル陣営ながら、約3年を経て再び優勝を達成したバレンティーノ・ロッシ選手(ヤマハ)を祝福したいと思います」

−ペドロサ選手は、レース序盤にはトップを走っていましたが、最後まで優勝争いを演じることができませんでした。なにが原因だったのでしょうか?

「ダニは2列目5番グリッドでしたが、スタートを成功させ、1コーナーにトップで飛び込んでいきました。序盤周回でタイヤのグリップが良好なうちはペースもよく、レースを引っ張ることができました。しかし、タイヤのグリップが落ちてくると、前戦と同様に、いいリズムで走ることができなくなってしまいました。今後はマシンセットアップを見直し、二度と同じ現象が起こらないようにしなければなりません」

−フリープラクティスで鎖骨を骨折したロレンソ選手が手術翌日に現場へ戻り、レースに参戦したことは、今回のレースウイークの大きな話題になりました。もし、Repsol Honda Teamの選手が同じような事態に見舞われたとしたら、ロレンソ選手と同様のことをするように勧めますか?

「まずはロレンソ選手に対して、敬意を表したいと思います。本当にすばらしい走りでした。リスクはありましたが、ダニとのポイント差は2点広がっただけなので、十分に報いられたというべきでしょう。さて、この質問については、私からは答えにくいですね。というのも、体調を把握し、レースに参戦したいかを決めることができるのは、当のライダー自身のみだからです。もしも本人が走りたいと言うならば、もちろん私は全力で支える覚悟です。しかし、それはあくまでもライダー本人が意志決定をすることなのです」

−マルケス選手は金曜午後のフリープラクティスで転倒し、右手小指に亀裂骨折、右足親指にも同様の骨折を負いました。決勝レースは痛み止めなしで臨んだようですが、この状態で2位表彰台を獲得するのは期待以上と言っていいのではないでしょうか?

「マルクはすばらしい仕事をしてくれました。骨折もそうですが、全身至るところに痛みを抱えている状態だったのです。マルクが決勝前に痛み止めを使用しなかったのは、右手指先の微妙な感覚までなくなってしまい、ブレーキ操作に支障が生じることを避けたかったからなのです。レース終盤はとても苦しかったでしょうし、そのような状態で2位表彰台を獲得してくれたのは本当にすばらしい結果です」

−チャンピオンシップポイントは、リードするペドロサ選手に対してヤマハのロレンソ選手が9点差、ランキング3位のマルケス選手はペドロサ選手に23点差という状態です。サマーブレーク前の2連戦、ドイツGPとアメリカGPの戦い方が非常に重要になりそうです。

「当然のことながら、私たちは毎戦、勝利を目指して全力で戦っています。Hondaとヤマハの実力は非常に均衡しており、サーキットの特性などでごくわずかな得意不得意はあるかもしれませんが、いずれにせよ、緊迫したレベルで戦っているのが現実です。その意味では今後も厳しいレースが続きますが、我々は乗り越えていけると思います。ダニは、ここまで2勝を挙げてチャンピオンシップをリードしています。彼は昨年後半に破竹の快進撃をみせてくれましたが、その口火を切ったのはドイツGPだったのです。マルクについても、イタリアGPでは2番手走行中に転倒リタイアを喫してしまいましたが、それ以外では全戦で表彰台を獲得してくれています。ルーキーとは思えないほどの活躍です。このように、我々Repsol Honda Teamは強力な2選手のライダーを中心に、今後のレースでも全戦で勝利を獲得する意気込みで戦っていきます。当然、次の2連戦も連勝を狙います。皆さまの引き続きの応援を心よりお願いいたします」