HRCチーム代表 リビオ・スッポ 現場レポート
vol.96

貴重なポイント加算と、貴重な学習を重ねた第5戦

 シーズン中で最も盛り上がりをみせるレースの一つが、ムジェロ・サーキットで行われるイタリアGPです。レース好きのイタリアのファンが多数押し寄せるこのレースで、Repsol Honda Teamのダニ・ペドロサは2位表彰台を獲得。20ポイントを加算し、チャンピオンシップ首位の足元をさらに固めました。一方、チームメートでルーキーのマルク・マルケスにとって、今回のレースは試練のウイークとなりました。フリープラクティスなどで何度か転倒をしながらコース攻略を進め、決勝レースではペドロサの背後を走行。5戦連続表彰台を確実なものとしたかにみえましたが、ペドロサをオーバーテイクした終盤に転倒、残念ながらノーポイントのレースとなりました。同じチームで明暗が分かれた両選手と今回のレースウイークについて、HRCチーム代表のリビオ・スッポが語ります。

−第5戦はRepsol Honda Teamにとって明暗が分かれる結果になりました。ペドロサ選手は2位表彰台でランキングトップの足固めをした一方、マルケス選手は転倒リタイアでポイントを獲得できませんでした。まずは、今回の総評をお願いします。

「今回は、なかなか一筋縄ではいかない難しいレースウイークでした。その中で、ダニが今回も表彰台を獲得してくれたのはすばらしいことですし、マルクもあの激しい転倒にもかかわらず深刻な負傷に至らなかったことにホッと胸をなでおろしています。決勝レースでの(ホルヘ)ロレンソ選手(ヤマハ)はとても力強い走りでしたが、それでも我々のマシンとダニ、マルク両選手が高い戦闘力を備えていることはしっかり披露できたと思います」

−マルケス選手が金曜日午後のフリープラクティス2回目で転倒した際、大ケガに至らなかったのは幸運でした。日曜日の決勝レースを走れるかどうかについて、不安はありましたか?

「モニターで転倒を見たときは、思わず息をのみました。ほんのわずかの亀裂骨折で済んだのは、本当に幸運だったといえるでしょう。レーシングスーツに内臓されたエアバッグが効果を発揮してくれたおかげです。マルクは、土曜日午前の3回目のフリープラクティスでもいつものように走り出すことができましたし、予選でも元気いっぱいの走りをみせてくれました。だから、彼が決勝レースを走れないかもしれないという不安など、一度として抱いたことがありませんでした。とはいえ、ムジェロ・サーキットは難易度の高いコースで攻略が難しく、また肉体的にも過酷なのでマルク自身にとっては厳しいレースだったかもしれません」

−土曜日の予選で、ペドロサ選手は会心のタイムアタックでポールポジションを獲得。にもかかわらず、決勝レースでは苦戦を強いられました。なにが問題だったのでしょうか?

「タイヤのグリップが落ちていくと、ダニはロレンソ選手のペースについていくことが難しくなりました。金曜日と土曜日のフリープラクティスのセッションはいずれも、日曜日の決勝時刻より総じて温度条件が低かったため、レースに向けて最適なセットアップを見つけ出すことができませんでした。とはいえ、そんな状態でもダニは2位を獲得してくれました。それを考えれば、なに一つ悲観的になることはないと思いますよ」

−レース序盤からペドロサ選手の直後につけていたマルケス選手は、2番手に浮上したあと、ラスト3周の時点で転倒しました。肉体的、精神的な影響はどうでしょうか?

「転倒までのマルクのレース運びはすばらしかったということを、まずは言っておきたいと思います。正直なことをいえば、あの長丁場でずっとトップ集団につける走りをしてくれるとは予想していませんでした。マルクは肩と脚を痛めており、特に右コーナーが厳しかったのです。その点を考慮すれば、間違いなくすばらしい走りをしました。また、転倒については、レースを学習していく過程の一つといえるでしょう。なにしろ、開幕以来この5戦で初めての転倒なのです。ときには、そういうこともあるでしょう」

−第5戦でトップを走ったのは、いつもと同じ顔ぶれのダニ、マルク、そしてロレンソ選手の3人でした。今シーズンは、そのほかの選手たちが彼らと互角に争うのは難しそうでしょうか?

「確かに現状では、ダニ、マルク、そしてロレンソ選手の3人が抜きん出た走りを披露していますね。ダニとロレンソ選手は当然として、MotoGPルーキーのマルクが彼らと互角の走りをみせ、ファステストラップ記録も更新しているのは本当にすばらしいことです。ただし、今回のレースに関していえば、1周目の不運な転倒がなければ、(バレンティーノ)ロッシ選手(ヤマハ)はきっとカタールGPのときのような強力なパフォーマンスを発揮していたでしょう。(カル)クラッチロー選手(ヤマハ)も、たびたびトップ3に迫る走りをみせていました。今後もきっと、手に汗握る展開が待ち受けていると思いますよ」

−次戦カタルニアGPに向けた展望と抱負を聞かせてください。

「なによりもまず、今年の欧州の天気をなんとかしてほしいですね(笑)。今年は不安定な天候に悩まされがちですから。それはともかくとして、次戦のカタルニアGPは、ダニとマルク双方にとって大切なホームグランプリで、本人たちも闘志に満ちあふれています。カタルニア・サーキットのレースはいつもエキサイティングですが、チームと選手の力を結集し、今年は例年以上に大興奮のレースにしてみせるつもりです。我々は全力で勝利を目指して戦い抜きます。皆さまもぜひとも応援をよろしくお願いいたします」