HRCチーム代表 リビオ・スッポ 現場レポート
vol.100

マルケスが2連勝を飾り、新記録を樹立

 2013年シーズンの折り返し地点、そして前半戦の締めくくりとなるアメリカGP。カリフォルニア州モントレーの内陸部にあるマツダ・レースウェイ・ラグナセカで、今年もドラマチックなレースが繰り広げられました。前戦で優勝して年間ランキング首位に立ったマルク・マルケス(Repsol Honda Team)にとっては、初めて走行するサーキットです。MotoGPクラスへのすばらしい順応をみせてきたマルケスが、難易度の高いこのコースをいったいどのように攻略するのか、レース前から大きな関心を集めました。マルケスは持ち前の学習能力の高さを遺憾なく発揮し、日曜の決勝レースで優勝。またもやすばらしい才能を世界中に大きくアピールする結果になりました。また、前戦は負傷により決勝の走行をやむなく断念したダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)は5位で完走し、貴重なポイントを加算しました。
 一方、最高峰クラス2年目を迎えるステファン・ブラドル(LCR Honda MotoGP)は、フリープラクティスから力強い速さを発揮し、予選は最高峰クラスで自身初となるポールポジションを獲得。決勝レースでも、緊張感のあふれる展開の中、中盤までトップを走行し、2位でチェッカーを受けました。
  それぞれに意義と価値のある戦いとなった今回のレースについて、Repsol Honda Teamのチーム代表リビオ・スッポが振り返り、解説します。

−マルケス選手は、ラグナセカ初体験にもかかわらず優勝を飾り、最高峰クラス連勝の最年少記録を更新しました。まったくもって優れた才能ですね。

「今回もマルクにとって実にすばらしいレースウイークで、ルーキーがラグナセカで優勝するという偉業を達成してくれました。正直言えば、今回のレースに先立って、量産車でマルクにこのサーキットを走ってもらい、コースを覚えてもらうことも検討していたのですが、スケジュールなどの関係で実現できませんでした。もっとも、そんな必要はなかったようですが」

−マルケス選手は今回もレースの主役で、難所で知られる「コークスクリュー」で(バレンティーノ)ロッシ選手(ヤマハ)をオーバーテイクしてファンを大いに魅了しました。2008年にロッシ選手とストーナー選手が繰り広げたバトルが、立場を変えた形で再現されるとは予想できましたか?

「あそこは非常に難しいコーナーです。あの場所で、まさかマルクとロッシ選手の勝負を見ることができるとは思いもしませんでした。08年のバトルがそうであったように、今回の勝負も長く語り継がれることになるでしょう」

−今回の勝利により、マルケス選手はペドロサ選手と16点差、(ホルヘ)ロレンソ選手(ヤマハ)と26点差で、現在年間ランキングの首位に立っています。点差はもちろんですが、前半戦の戦いぶりを見ても、もはやチャンピオン最有力候補と言っていいのではないでしょうか。

「どうでしょうか。それを語るのは、まだ時期尚早だと思います。ダニとロレンソ選手は、共に負傷していたためにこの数戦でポイントを大きく加算することができませんでしたが、サマーブレークを経て第10戦のインディアナポリスGPでは万全の状態で復帰してくるでしょう。シーズンは長いので、まだなにがあるか分かりません。とはいえ、マルクとダニ、ロレンソ選手は、最後まで激しいタイトル争いを繰り広げると思います」

−今回のレースでは、ペドロサ選手も5位でチェッカーを受けて11ポイントを獲得しました。負傷を抱えた身で難しい判断を迫られるレースウイークだったと思います。午前のプラクティスを休んで体力を温存し、午後の走りに集中するといった戦略が、決勝レースでロレンソ選手より先にフィニッシュする結果につながった、といえるのではないでしょうか。

「ダニにとっては厳しいレースウイークだったと思いますが、決勝はすばらしいレースをみせてくれました。肩を痛めていたため、金曜午前のフリープラクティス1回目と土曜午前のフリープラクティス3回目は、走行を見送ってリスクを最小限にとどめ、決勝に備えて体力を温存することにしたのです。そのために、マシンのセットアップを煮詰める時間は少なくなってしまいましたが、チームが全力を尽くしてマシンを仕上げ、ダニ自身もそれに応える走りでロレンソ選手の前でチェッカーを受け、貴重なポイントを獲得してくれました。申し分ない内容のレースウイークだった、と言えるでしょう」

−今回のレースでは、ブラドル選手がポールポジションを獲得し、マルケス選手が2番グリッド、(アルバロ)バウティスタ選手(GO & FUN Honda Gresini)が3番グリッドでHonda勢がフロントローを独占しました。また、アメリカ合衆国のレース、という意味では、今回で7連勝です。アメリカでこれだけ好成績を収めることができるのは、なにか秘訣があるのでしょうか?

「ツイていますね。Hondaのマシンは、アメリカと相性がいいのかもしれません(笑)。冗談はともかく、この好成績を一言で説明するのは難しいですが、アメリカはHondaにとって非常に重要な市場です。そこでのレースで勝ち続けているという事実は、非常に大きな意義があります。アメリカ7連勝、特に今回のラグナセカではステファンが初ポールポジションを獲得し、アルバロも表彰台に迫る4位でフィニッシュしてくれました。その結果、トップ5のうち4台をHonda勢が占める上々のレースになりました。シーズン後半戦もこの調子で戦っていけるように全力を尽くします。皆さまも応援をよろしくお願いします」

−話は変わりますが、昨年限りでMotoGPから引退したケーシー・ストーナーがツインリンクもてぎでRC213Vのテストを行う、という発表がありました。これに関する詳細情報はありますか。また、今後のレースでストーナーがワイルドカード参戦をする可能性はあるのでしょうか?

「これは、ケーシーが引退してからずっと考えていたことです。ケーシーは常々、引退したことを決して悔いてはいないと話しています。その一方で、マシンに乗れないことに一抹の寂しさを感じているのも事実です。ですから、我々はケーシーに対して、開発テストをお願いしたのです。彼のような本当に速いライダーにテストをしてもらえるのは、千載一遇のチャンスですから。ケーシーはプロトタイプマシンに乗ることを楽しんでくれるでしょうし、我々HRCにとっては非常に有意義なテストになります。テスト車両は、プロトタイプのRC213Vと、レーシングチーム向けに来年販売を予定している「MotoGP市販レーサー(仮称)」の双方を予定しています。なお、レース参戦については、ケーシーはどのレースにもワイルドカード参戦の予定はありません。あくまでも、ツインリンクもてぎで行うHRCの開発テストに協力してもらう予定です」