モータースポーツ > MotoGP > アジアの旋風 IDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦 > 第2回 Rd1〜Rd3・グランプリの大海原へ
2013年シーズン開幕。4月上旬のカタールのロサイル・インターナショナル・サーキットから、いよいよIDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦が始まりました。シーズン初戦は毎年恒例のナイトレースで、戦いの舞台となるロサイル・インターナショナル・サーキットは、砂漠の真ん中に建設されていることもあり、特に走行初日は滑りやすさのために苦労を強いられることでも有名なコースです。
2月中旬のプレシーズンテストから本格的な活動を開始したIDEMITSU Honda Team Asiaにとって、このサーキットはもちろん初体験。ベースとなるマシンセットアップの探求を継続しながら、レースを戦っていくウイークになりました。開幕戦はナイトレースのためにタイムスケジュールも変則的で、通常よりも1日早く、木曜日から走行を開始します。Moto2クラスは、初日に2度のフリープラクティスを行い、2回目のセッションで新しいスイングアームを投入。フレームはプレシーズン最終テストを行ったときと同じ仕様ですが、加工を施すことで剛性の変化などを試しています。旋回性や接地感、前後のバランスなどの課題を少しでも改善するために、各プラクティスでも大胆な変更に挑戦し、ライダーの高橋裕紀は最初の走り出しではトップと3秒以上開いていたタイム差も、予選では1.918秒差まで短縮。とはいえ、8列目23番グリッドからのスタートという厳しい位置から決勝レースを迎えることになりました。
日曜日の午後8時20分に始まったレースでは、20周のレースを終えて高橋は23位でチェッカー。初レースでの優勝者とのタイム差は、1分04秒294秒という結果でした。
「このチームでの最初のレースは、スタート直後に他車の転倒に巻き込まれかけて、最後尾からの追い上げになってしまいました」と高橋。「自分たちが抱える問題解決の手がかりを探ることが最大の課題で、決勝に向けてさらに変更を施しました。その結果、よくも悪くも変化が出たので、今後の車体開発の参考になると思います」と、悔しさの中にも、確実な収穫を得た様子でした。
岡田忠之監督は、マシンが抱える課題について「旋回性と、進入時に振られてしまう現象です」と説明をしました。「ブレーキングからマシンを寝かせていくときに、車体全体がもまれるような状態になり、ライダーがなかなか倒し込めない状態が続いています。高橋に大きな苦労を強いているので、そこを少しでも改善できるようにがんばります。時間の制約上、次のレースでも現状の仕様で挑戦することになりますが、着実に前進できるように対応をしていきます」
このレースでは、日本人選手の中上貴晶(Italtrans Racing Team)が3位表彰台を獲得しました。
「勝ちたいレースでしたので、3位で終わったのは悔しいですが、自分にとっての初表彰台でもありますし、開幕戦から表彰台に上れたので気持ちはポジティブです。今回、自分たちに足りなかった部分を詰めきることができれば、優勝も近づいてくると思うので、これを機に、表彰台の常連ライダーになりたいですね」
第2戦はアメリカ・テキサス州で行われたアメリカズGPで、今年がGP初開催の会場です。前戦カタールGP終了後に、IDEMITSU Honda Team Asiaの面々は、いったん日本へ帰国。わずかな時間のすき間を縫って、岡山国際サーキットでテストを実施しました。
この第2戦では車体の大きな変更はありませんが、フレームとサスペンションの接合部であるピボットまわりに強化を加え、マシンの挙動は安定感を増すようになりました。
「フロントの接地感がなくて曲がらないという根本的な問題は解消していませんが、暴れる挙動に関しては大幅に改善しました」と、高橋もその効果に手応えをつかんだ様子です。
第2戦は、すべてのチームと選手が初めて走行するサーキットで、コースの習熟という意味では全員が同一条件といっていいでしょう。IDEMITSU Honda Team Asiaは、チームが一丸となり、セッションごとに少しずつセットアップを進めていき、日曜日の決勝レースは19位で完走。
「相変わらずきついレースになりましたが、その中でメカニックさんたちが一生懸命やってくれて、この週末では一番いいセッティングになりました。タイム的にはまだ決して速くないですが、自分たちにできるギリギリのところで周回できたと思います」
レースを終えた高橋は、悔しさを堪えて冷静に自分たちの現状を振り返りました。
「前進あるのみ。前進するしかないでしょう!!」
岡田監督も、そう自分たちを鼓舞します。このレースのあとも、チームは岡山国際でテストを実施する予定だと、監督は明らかにしました。
「次の第3戦で投入する大きなパーツを確認する予定です。カウルは、ポテンシャル向上がデータ上も明らかになっています。車体も大きく変わりますので、ほとんど新車といっていいでしょうね。レースウイークの限られた時間で、どこまでセットアップを詰めきれるかが課題になりますが、今以上によくなることは確実です」
しかし、続く第3戦スペインGPでは、予想外の展開が待ち受けていました。今回のレースから投入する予定のニューフレームが、通関に手間取ってしまい、マドリーで引き取れなくなっていたのです。その一報を受けたチームは、急きょ、各方面と連絡を取って対応を図りました。しかし、その間にもレースは始まってしまい、金曜日のフリー走行は、第2戦とほぼ同様の仕様で挑まざるをえないことになりました。
新しいフレームは土曜日午前のフリープラクティス3回目になんとか間に合い、このセッションから新しい仕様で走行を開始。しかし、レース現場での初走行を済ませた次のセッションが予選、翌日にはもう決勝レースという厳しい状況です。さらに、第3戦のレースウイークは、アンダルシア地方特有の強い日差しが降り注ぐ晴天に恵まれたのはよかったものの、その影響で路面温度が午後になって大幅に上昇し、路面コンディションが劇的に変化してしまうことも、苦戦を強いられる一因になりました。
決勝の結果は23位。トップとのタイム差も、1分03秒376という厳しいものでした。
「午前と午後でコンディションが大きく変わる難しい状況の中、チームとミーティングを重ね、路面温度の上昇に対し、これまでと異なるアプローチでセッティングをやり直して、レースに挑みました。しかし、グリップが得られずペースを上げることができず、またもや厳しいレースになってしまいました……」
レース結果について、そのように話す高橋は、一方で、ニューフレームを投入した効果については、このように説明します。
「今までずっと問題になっていたフロントからの旋回力不足は、この新しいフレームになって間違いなくよくなっています。このフロントの旋回力が上がったからこそ、今度はリアの旋回力不足が際立つようになりました。次のレースに向けて、このニューフレームに合わせたリアのグリップを得られるようにチーム全員で努力したいと思います」
また、岡田監督は、「気温が低い状況では今まで以上のポテンシャルを発揮できるようになりましたが、温度が上がると(マシンの)キャラクターが変わってしまうようです。マシン開発はスピードが命。まだ結果に結びつけられていないという意味では、我々のやるべきことはまだまだたくさんあります」と真剣な表情を崩さず、今後へ向けた計画を語りました。
「この第3戦のあと、さっそくアルメリアへ移動し、火曜日と水曜日の2日間、ほかのチームと合同のプライベートテストを行います。現状で我々が抱える大きな問題点を少しでも改善できるよう、充実したテストに取り組みたいと思います。一刻も早くマシンの最適なバランスを見いだし、高橋が苦労しなくても能力を存分に発揮して戦えるマシンに仕上げたいと思います」
今年から活動を開始したばかりのIDEMITSU Honda Team Asiaにとって、百戦錬磨のMoto2のチームや選手たちを相手に戦っていくことは容易ではなく、課題は山積みです。しかし、目標に向かって少しずつ前進を遂げているのも事実です。小さな変化の積み重ねが、やがて大きな飛躍につながります。着々と、しかし一刻も早くトップ争いという目標に近づくべく、高橋裕紀とIDEMITSU Honda Team Asiaのひたむきな挑戦は続きます。