モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > Honda MotoGP 2013シーズン分析 > vol.2
シルバーストーンでは予選で転倒したコーナー……つまり、マルケスがウイークポイントとするコーナー……を狙ってロレンソにオーバーテイクをされたこともあった。
アラゴンにおけるペドロサとマルケスの接触は、接近戦の中でもう少しマージンを多く取ることができていれば、また違った結果になったかもしれない。
そういった、経験不足に由来するようにも見えるいくつかのシーンはあったとはいえ、マルケスの強さと速さが揺らぐことはない。このアラゴンでは、珍しく後方を明確に意識したロレンソとの心理戦も制した。
こうした流れの中、ライバルたちの発言も変化してきた。ペドロサ、ロレンソとも、マシンのパフォーマンスへの言及がなりを潜め、「自らのパフォーマンスをより一層高めなければ」といった旨のものへと変わってきたように思えるのだ。
世界最高峰のロードレースのレベルを、より一層高いところへと引き上げんとするルーキーの出現は、より一層MotoGPをエキサイティングなものへと進化させていると言えるかもしれない。
宮城:シルバーストーンでは、敵ながらあっぱれというか、ロレンソの底力を見た気がしますね。
中本:彼は、渋いよね……。
宮城:渋いですね。
中本:レースファンをうならせる戦いぶりをすると思う。いいライダーだ。
宮城:そのロレンソも、ペドロサも、マルケスに影響されてか、あまりマシンへのコンプレインを口にしなくなってきた気がします。ロレンソはいつだったか、「渾身のアタックをしたつもりだったけど、ちょっと足りなかったかもしれない」なんて言っていたこともありました。ペドロサも、より一層ひたむきにライディングと向き合っていて、外から見ると頼もしく見えます。それだけに、マルケスとの接触でトラクションコントロールのケーブルが断線し、ペドロサが転倒してしまったというアラゴンの件は残念でしたね……。
中本:本来は、リアホイールから検出している車速の信号が途絶えると、エンジン回転数からそれに近い値を割り出して、システムを走らせ続けるというバックアップのシステムがあるので、ああいうことにはならなかったはずなんです。けれど今回は、ECUが断線を検知してバックアップに切り替えさせる前に次のコーナーが来てしまった。もう1アクション、間に挟まっていれば状況も違ったのだろうけど。なにもなければダニが勝てていたレースだったと思う。レースに「たら、れば」はないけれど、非常に残念ですね。
宮城:ちょっと予想もできないトラブルだったと思います。とはいえ、ちゃんと対策はしないといけませんね。
中本:ライダーの安全にも関わる部分だし、ケーブルが切れないような対策をすぐに施すとともに、システムのアルゴリズムも変えさせました。あの配線レイアウトは20年ほど基本的に変わっていなかったのだけど、時代が変わってきたということですね。
すばらしいライディングパフォーマンスで我々を驚かせ、楽しませてきてくれたケーシー・ストーナーが引退を決めた昨シーズン終了時、果たしてグランプリはどのような新展開を見せるのか、いろいろと考えを巡らせたものだ。
ふたを開けてみれば、シーズン序盤からマルク・マルケスは最高峰クラスで驚くべき順応性を見せ、そこにベテラン勢が持てる技を尽くして挑んでいくという、非常に心躍るシーズンが待っていた。グランプリというのは、常に歩みを止めず、見る人々をひきつけてやまない新たな展開を用意しているものだ。私も、この魅力的なスポーツを伝えるという役目を担えていることを誇りに思う。
今回、中本さんと語り合う中で、勝ったレースも、惜しくも敗れたレースも、そのいずれにも「納得」をしている様子が印象的であった。Hondaとして非常に完成度の高いマシンを用意できていること(中本さんが言葉を濁した「ブレーキングスタビリティを向上させる隠し球」については、今後も根気強くアタックを掛けていこうと思っている)、すばらしきライバルたちとレースができていることに、心からの喜びを感じているようでもあった。やはり、Hondaは「戦う集団」なのだと再確認できて、とてもうれしかった。
さて、いよいよ日本GPが迫ってきた。
若武者、マルク・マルケスのパフォーマンスに興奮するもよし、ダニ・ペドロサ、ホルヘ・ロレンソらベテラン勢の「熟練の走り」にうなるもよし。もちろん、日本人ライダーの青山博一、ワイルドカード参戦する中須賀克行らに声援を送るもよし。とにかく、このエキサイティングなシーズンの天王山を、一度目にしてほしいと思う。
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