モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > Honda MotoGP 2013シーズン分析 > vol.1
さあ、2013年シーズンが幕を開けた。皆さんは、カタールのレースをどうご覧になっただろうか。結果は、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)のポールトゥウイン。完ぺきな勝利だったといえよう。そして、ヤマハに戻ったバレンティーノ・ロッシが2位。対するHonda勢は、今年から参戦したマルク・マルケス(Repsol Honda Team)が3位表彰台を獲得。予選3番手でスタートしたダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)は4位フィニッシュとなった。Honda勢にとって苦しい開幕となったことは否めない。プレシーズンテストからこの開幕戦までを振り返りながら、Honda勢の状況を分析してみよう。
僕はセパンで開催されたテストを2度とも現地で見た。ペドロサは、余裕を持って自分のマシンづくりに徹していた。タイムもいい。2月5〜7日に行われた1回目のテストでマークしたベストラップ2分00秒100は、昨年ロレンソがマレーシアGPで出したポールタイムより約0.2秒速い。新人のマルケスは2分00秒636と4番手につけた。今年もHonda勢か……と思わせる結果だった。
続いて、2月26〜28日に行われた第2回目のセパンテスト。自らのキャラクターを抑え込み、地味で時計のように正確な走りに徹していたロレンソがトップタイムを叩き出したものの、2番手ペドロサ、3番手マルケスとHonda勢も好調。3番手と4番手カル・クラッチロー(ヤマハ)の差も大きかった。
そして、今年初開催となるアメリカズGPの開催地であるオースティンのテストでは、初日から最終日まで新人のマルケスがトップ。これには驚いた。MotoGPのマシンに乗ったばかりともいえる新人がトップタイムをマークするとは……。しかし、開幕前のヘレスでのテストは、ヤマハ勢にトップを譲ることとなる。そして開幕戦、カタールの結果へと続くのだ。ペドロサは、リアタイヤのスライドに悩まされた。この一連の流れが生まれた背景にはなにがあるのか。2013年は、HRCのレース活動全体の統括に専念する中本修平氏に話をうかがい、より深い分析を行ってみたいと思う。
宮城:セパンのプレシーズンテストで、とにかく驚いたのは、マルケスの元気がよかったことですね。さらにペドロサは確実にメニューをこなして、しっかりとマシンを仕上げているという印象がありました。
中本:ええ。
宮城:オースティンのテストは、マルケスが3日間ともトップタイムをマークし好調だったのに対し、ヤマハ勢はトップスピードが伸びていなかった。しかし最後のヘレステストでは、路面コンディションが悪い状況の中で、クラッチローも含めてヤマハ勢がいいタイムを出してきましたね。
中本:そうですね。
宮城:一貫しているのは、ロレンソが自分のキャラクターを押し殺すかのような地味で時計のように正確な走りでチャンピオンを狙おうとしていることです。これはHondaにとって脅威。そういう状態で開幕戦を迎えたと見ていました。
中本:まさにその通りですね(笑)。
宮城:まあ、客観的に見える部分をお話したまでですが…。
中本:なんというか、Hondaとヤマハそれぞれ得手不得手があって、コーナリング性能のヤマハ、加速性能のHondaというキャラクターがある。コーナーのたびに差が縮んだり伸びたりするわけです。だから、どこかのサーキットで速かったからどちらかが有利だと断じることはなかなかできないんです。
宮城:ええ。
中本:オースティンで大きな差があったから、それだけでHondaが優れているとはいえない。非常に分かりにくいわけです。
宮城:2輪は路面コンディションの影響も大きいですし、一概に言うことはできないのは確かですね。
中本:セパンのテストも過去のタイムを上回っていないし、オースティンは別として、ヘレスのテストもコンディションが影響しているのか、過去のタイムを上回っていない。カタールの開幕戦は、予選から決勝までタイムは総じて昨年よりよくない。
宮城:カタールは路面コンディションの変化が大きいですから。ナイトレースで夜になると温度も下がっていきますし。
中本:なおかつ、砂漠の気候なので夜露の影響もあります。実際の路面温度とグリップに相関関係がない……。
宮城:非常に分かりにくいですよね。
中本:ウォームアップの段階ではチャタリングがひどいという状況でした。チャタリングって、グリップ&スリップだからグリップはしていたということ。でも決勝レースでどうなったかというと、ただただ滑るだけでしたから。
宮城:非常にやりにくいですよね、カタールは。
宮城:昨年のカタールのレースタイムが、42分44秒214。ロレンソは約5秒縮めています。一方ペドロサは少し落ちました。
中本:ロレンソは速かった、間違いなく。最後は流していたし。うちはグリップせず、そこに追いつく状態じゃなかった。それにファステストが1分55秒445で初参戦のマルケスでしょ? これは普通の状態じゃないですよ。
宮城:昨年のカタールのファステストは、ケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)の1分55秒541だったので、それより速い。見事なタイムだとは思いますが。
ペドロサは、レースウイークに入ってから、「タイヤが跳ねて滑り出す」と言っていましたが、その辺りはどうだったんでしょうか。セパンのテストを見ていた限りでは、その辺りも含め細かく仕上げていると僕は感じていました。
中本:すべては路面状態。でも反省するところは、路面状態を追いかけすぎたことですかね。具体的に言うと、ウォームアップでチャタリングが出たからセッティングを変えたんだけど、それはしない方がよかったかもしれない。
宮城:ライダーの要求に応えすぎた……。
中本:路面状況が将来どうなるかは明確に読めないので、セッティングの変更はかけなんです。それが外れたということです。
宮城:ピットで見ている方としては歯がゆい限りですね。
中本:ペドロサがレースで1分55秒953しか出していない。ほぼ56秒。これはなにかがおかしいわけですよ。でもヤマハは2人とも日曜の決勝では速かったという結果ですね。
カタールの決勝。予選6番グリッドからオープニングラップで7番手に順位を落としたマルケス。MotoGPの洗礼を受けたといってもいいだろう。3周目には3位に浮上するものの、その後、16周目まで2位のペドロサの後ろを走った。チームメートであり抜きにくかったのかもしれない。しかし、前走車のペースが上がらないと見たらすぐに抜かなければ。もし、早いタイミングで抜いていたら、2位でフィニッシュできただろう。ゆっくりしたペースで走るのに慣れると、いざ前に出たとき、新人は特にペースが上がらないことがある。今回のマルケスの3位は、そういう意味で惜しい結果だと見ている。
同様にテスト時を振り返れば、MotoGPに乗り始めたばかりの新人が、だれも走ったことがないサーキットでトップタイムを出すということは、マシンの性能もさることながら、ライダーのコントロール能力が高いことを裏付ける結果といえる。
2輪は、マシンを操るライダーの存在が大きい。全身を駆使し、マシンをねじ伏せながら“少しでも前へ”マシンを導く。速いライダーほど、マシンの上でよく動いて仕事をするものだ。マルケスは、それが高いレベルでできているのだ。
中本:マルケスはポテンシャルが非常に高い選手だね。でも、一周ノーミスでまとめるなんでまだ無理な状態だから、これから伸びると思いますよ。
宮城:毎周チャレンジして限界を探っていますよね。チャレンジしなければ伸びないわけで、僕は彼のその姿勢を買っています。ところで、セパンのテストでおっしゃっていたさまざまな制御をマルケスのマシンにも導入したんですか?
中本:導入していますね。だけど、マルケスは制御をあまり使わないタイプ。自分でコントロールしたがるね。要求がストーナーに似ています。
宮城:具体的にはどんなコメントですか?
中本:「フロントブレーキがスポンジーだから改善してくれ」ってピットインしてきたあと、「トラクションコントロールが効きすぎだから落としてくれ」って言ってくる。これはストーナーのコメントそのまま。違うところは、マルケスはよくなると「ありがとう」って言うことかな(笑)。でも、マルケスはストーナーみたいになっていくと思いますよ。だから、これからたくさん転ぶと思います。
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