裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.18 最終戦、そして2013年へ

2012年シーズンの最終戦バレンシアGPが終了しました。Moto2クラス、Moto3クラスで戦ってきた日本人選手たちも、それぞれに成果と課題を手にした一年でした。

3選手が参戦したMoto2クラスでは、中上貴晶(Italtrans Racing Team)が日本人最上位の年間ランキング15位。最終戦バレンシアGPではフロントローを獲得しながら、決勝レースになって突然、大きな違和感が生じてしまいました。危険を感じるほどであったために仕方なくピットへ戻り、残念ながらリタイアとなりました。トップ争いを見据えることができた位置からのスタートだっただけに、この結果への中上自身の落胆は、並大抵のものではありませんでした。

「なぜこれほどまでに遅くなってしまったのか。どうしてこのような問題が生じたのか。今の状況をまずは追究しなければなりません。今後のためにもすごく大事なことですので、それが分かるまで、これからチームとともに徹底的に究明したいと思います。明日から来年に向けたテストが始まります。この悪い流れを忘れることはできませんし、忘れてはいけないとも思います。ですが、今日で悪い流れをしっかりと断ちきり、明日のテストを実のあるものにして、2013年に向けていいスタートを切れるよう、がんばりたいと思います」

2012年の年間ランキングは15位。後半戦では、予選で安定した速いタイムを記録し、上位が望めるグリッドを獲得できるようにもなりました。しかし、これまでに何度か本人もコメントしてきた通り、今後の課題はレース後半のラップタイムの維持となります。これを高水準で保つことができれば、上位陣に加わる選手として、さらなる活躍が期待できるようになるでしょう。

高橋裕紀(NGM Mobile Forward Racing)は、レースキャリアで初めて味わう塗炭の苦しみに悩み続けた一年となりました。グランプリのフル参戦を開始した05年以来、毎年表彰台に上がり、トップ争いをたびたび繰り広げてきました。にもかかわらず、今年は1ポイントも獲得できない低位をさまようレースが続きました。しかし、バレンシアGPで14位に入り、シーズン最終戦にしてようやく、今季初めてのポイント獲得となりました。

「こんなに苦しいシーズンは初めてでした。14位という結果は決して喜んでいい順位ではありませんが、ポイントが取れなかったころと比べますと、少なからずいいレースにはなりました。ここまで支えてくれたチームの皆さんやスポンサーの皆さんに、感謝したいと思います。久しぶりに少しはレースっぽいレースができたかな、といった気持ちですね」

中上同様、高橋もこの最終戦翌日のテストに参加することが決定していました。テストをするチームは、元GPライダーの岡田忠之氏が新たに結成したHonda Asia Team Taddy。高橋は来季に向けた候補選手の一人として、月曜日のテストへ参加することになりました。

「いいテストにしたいですね。(このチームで来季参戦できるかどうかは)もちろん自分の力では決められないことですので、まずは精一杯走って自分の力をアピールし、データ収集等でチームに貢献をできればと思っています」

シーズン後半の6戦に参戦した小山知良(Technomag-CIP)は、最終戦の決勝日がレインコンディションになることを期待していました。しかし、あいにく本人が望んでいたほどの雨量にはなりませんでした。

「雨の降り具合が中途半端すぎましたね。レース中に雨が降ってきたとき、みんなのペースが落ち始めました。自分はペースを維持できていたので、前に追いつき、『おっ!?』と思ったんですけどね……。すぐに雨が止んでしまって、また離されてしまいました。濡れているときはグリップがいいのですが、水しぶきが上がらない中途半端な状態になると、スピンしてしまいます」

選手たちがある程度マシンを仕上げてきた後半戦からの参戦は、セットアップの積み上げという面での不利を強いられました。ポイント獲得圏内には至らなかったものの、少しずつ上位でフィニッシュできるようになり、最終戦は18位でチェッカーフラッグを受けました。

「不安定な天候になるレースウイークが多く、セットアップ面では厳しかったことも事実です。ですが、参考になったこともたくさんありました。ハンドルバーの位置変更であったり、ウエイトであったり、“こういうことをやったらこう変化する”ということが分かりましたので、勉強になったシーズンでした。来年も現役を続行するつもりですが、どのカテゴリー、選手権を走るかはまだ白紙の状態です」

Moto3クラスに参戦した藤井謙汰(Technomag-CIP-TSR)は、世界の壁を痛感しながらシーズン全17戦を戦いました。最終戦のリザルトは23位という結果でした。

「接地感や安心感がなく攻められず、路面が乾いてきたころにようやく少しプッシュできるようになって、前の選手に少し追いついて終了、という悔しいレースになりました」

開幕戦カタールGPで、「まずはポイント獲得」と語った抱負に到達できないシーズンとなりましたが、「それだけに学ぶものも多かったシーズンだった」と藤井は振り返りました。

「すごくレベルの高いところで走ることができました。自分もそのレベルで勝てるようになって、またここに戻ってきたいと思います。この一年は、なにもかもが勉強でした。来年は、スペイン選手権と全日本選手権を掛け持ちで走ろうと考えています」

決勝日の翌日にはMoto2クラスのテストが行われ、前述の通り、中上はItaltrans Racing Teamで、高橋はHonda Asia Team Taddyで参加しました。それぞれ92周、109周と精力的に走り込みました。ベストタイムは非公式ながら、中上はレースウイークの予選タイムを上回る1分35秒4、高橋は予選タイムに0.3秒差の1分36秒9を記録しました。

「走り始めから2013年型のKALEXシャシーと新しいスイングアームを投入し、少しずつセッティングを詰めていきました。終了時間が近づくとリアサスペンション、次にフロントサスペンションを2013年仕様へ交換しました。わずかな周回の走行でしたが、最後には自己ベストタイムを更新できました。やるべきことはまだまだたくさんありますが、フィーリングはいい感触が得られました。このあと、アルバセテへ行き、2日間のテストを行います。さらにいろいろなトライをして、テストでしかできない事柄をたくさん試し、2013年シーズンに向け、いいスタートにしたいと思います。来シーズンは、今年のような成績のアップダウンがないようにしなければいけないと痛感していますし、スポンサーからもそのようなリクエストがきています(笑)。チームも自分も、このリクエストを前向きに捉えているので、いい緊張感と雰囲気で臨めそうです。アルバセテでのテストをいい状態で締めくくり、年明けから万全の状態で走り出したいですね!」(中上)

「たくさん周回したという実感は全然なくて、『あっという間に終わった』という印象でした。トライするべきパーツをいろいろと試せましたし、1日の限られた時間の中で方向性が見えてきたと思います。今日使用した車体は、まず昨年の最終仕様で走り出し、そのあとに2013年型に集中しました。2013年型からは高い可能性を感じられました。自分が今回感じたことと、MORIWAKI(エンジニアリング)さんの考えている方向性は似ているような気がします。ですから、先が明るいですね。チームは岡田監督以下、みんな日本人スタッフですから話をしていても呼吸が分かるし、雰囲気も非常にいいものを感じました。とにかく乗ったときの印象が『そうそう、バイクってこう乗り物だよな』と非常にしっくりくる、根本的な完成度の高さを感じました。今日の自分の走行が、どのように評価されるのかは分かりませんが、今日は楽しく精一杯走らせてもらうことができました」(高橋)

2013年シーズンこそ日本人選手たちが大活躍するシーズンになってほしい。それが日本でレースを見守るファンの共通した願いです。選手たちはすでに走り出しました。来季へ向けた戦いは、もう始まっています。

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