裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.17 目標と結果のはざまで

3週連続のレースを締めくくる第17戦オーストラリアGPで、日本人選手たちは、それぞれが掲げた目標に対して、手を伸ばせばつかめそうなところまで迫りながらも、あと少しのところで逃すという結果となりました。シーズン初表彰台を見据えた中上貴晶(Italtrans Racing Team)は、集団内のバトルにもまれながら10位でチェッカーフラッグを受けました。高橋裕紀(NGM Mobile Forward Racing)もポイント獲得を目の前にしながら、16位でフィニッシュ。悔しさと希望が相半ばする彼らのレースウイークを振り返ってみましょう。

オーストラリアGPが行われるフィリップアイランド・サーキットは、同国の南端に位置しています。海際の強風にさらされ、気象条件がよく変化することで知られています。今年のレースウイークも、冬のような寒さの中でセッションが進んでいきました。冷えた路面や、いきなり降り出す雨に悩まされながら、選手たちは少しずつセットアップを積み上げていきました。

中上は、金曜日午前の1回目のフリー走行で、トップから1.785秒差の16番手と出遅れましたが、午後の2回目は1.385秒差の9番手に浮上。そして、土曜日午前の3回目を経て、午後の予選ではフロントローは惜しくも逃しましたが、2列目5番グリッドを獲得しました。

初日の走行では、コーナーの立ち上がりで十分にリアタイヤへトラクションを伝えられないことが課題でしたが、マシンのセッティングを見直すことで、この問題は改善していきました。また、前戦で負傷した左足小指のケガも、どうやらライディングに差し支えるほどの問題ではなさそうでした。

「セッションごとにタイムは上がっていますし、確実に問題を解決してよくなってきています。予選途中の雨でピットへ戻ってきたときに、メカニックとじっくり相談してセッティングを変え、最後のタイムアタックではしっかりとタイムアップができました。前戦のセパンでは、一瞬のミスでレースを無駄にしてしまいました。ですから、今回は3連戦の締めくくりとして、とにかく限界を超えないように100%ぎりぎりまで力を出しきって走ります!」

日曜日は週末の3日間の中でも、最も天候と路面コンディションが安定した一日になりました。現地時間の午後2時20分に開始された決勝レースで、5番手スタートとなった中上は、スタートをうまく決め、1コーナーの進入で3番手につけ、この立ち上がりでトップに浮上。1周目は先頭集団をリードしながらメインストレートに戻ってきました。

その後、中上たちをかわしたポル・エスパルガロ(Tuenti Movil HP 40)が独走態勢に持ち込む展開となり、トップ集団は少しずつ分散していきました。中上は6台の集団で構成された5位争いのグループで、最終ラップまで激しいバトルを繰り広げました。

そして、最後は10位でチェッカーフラッグを受けました。5位を狙えた集団の中で、僅差の10位フィニッシュという結果だけに、悔しいレースとなってしまいました。

「混戦のグループから抜け出したかったのですが、リアのグリップが薄く、抜け出すほどにはペースを上げられないまま、不完全燃焼に終わってしまいました……。最低でも集団の先頭でゴールしなければいけないことは分かっていたのですが……」

レースを終え、ピットに戻ってから、展開を振り返った口調も心なしか歯切れが悪く、それがなおさら中上の悔しさを物語っていました。

「終盤の周回ではタイヤの滑りが原因で、ハイサイドの回数が多くなってしまいました。しかも、このコースはスリップストリームが効くので、後ろにつけていた選手たちに次々と抜かれてしまいました……。序盤の5周に無理をしてでも3番手をキープしていれば、展開がもう少し楽になっていたと思います。とても悔しい結果に終わりましたが、タイヤマネジメントやレース展開を含めて、多くを学ぶことができました。次はシーズン最終戦ですね。今回、こうしたリザルトで終わってしまったことを正面から受け止め、最終戦に向けて生かしていきたいと思います」

一方、高橋は金曜日午前の走り出しから土曜日午後の予選までのセッション時間を十分に活用しきれないまま、日曜日の決勝レースを迎えました。

金曜日の2回のフリー走行の結果を受けて、土曜日午前にセットアップの見直しと変更を行い、タイムアップを狙いましたが、セッション開始早々に転倒。午前の45分間を棒に振ってしまいました。午後の予選では28番手。これまでもフィリップアイランド・サーキットとの相性が今一つよくなかった高橋ですが、今回も苦戦気味のまま日曜日を迎えることになりました。金曜日から土曜日にかけてフロントフォークのキャスター角に変更を加えてきましたが、さまざまな方向からのトライも、抱えている問題を解決するには至らなかったようでした。

「荒れた路面の影響でマシンが暴れてしまうと、なかなか収まらない。マシンの制動の効きの悪さがキャスター角の変更からきているのか、ほかの部分が原因なのか、あるいは自分のライディングに由来するのか分かりませんでした。ですが、一つ確かなことは、昨日の走り出しの状態が一番よかったということです。この2日間で試したことを盛り込みながら、マシンを金曜午前の状態に戻して明日に臨みます」

そう話す高橋は、「とにかく明日朝のウオームアップ走行がすごく大事になると思います」と決意を秘めた口調で語りました。

日曜日のウオームアップ走行は20分間。順位は26番手とふるいませんでしたが、土曜日の予選タイムを1秒以上縮め、決勝に向けて期待を抱かせる内容になっていることがうかがえます。

25周で争われた決勝レースでは、午前のウオームアップで記録したタイムよりさらにいいタイムで周回を重ね、自己ベストタイムを次々と更新する走りをみせました。

「今日は金曜のベースセッティングに戻し、少しアジャストを加えた程度だったのですが、これでマシンの挙動がかなり安定しました。決勝もそこから大きく変更することなく、走りに集中しました。レース中に自己ベストもどんどん更新できましたし、以後もそれに近いタイムでずっと周回できました」

レースウイークの推移を考えれば、「決してレース内容は悪くなかった」と高橋は話します。

「ただ、自分のペースが上がる前に、前の集団と離れてしまったのが残念です。また、昨日の午前の転倒が原因で、土曜の一日を有効に使えなかったことも悔やまれます」

結果は16位。またしてもポイント圏外で終わってしまいました。しかし今回のレースは、本来のパフォーマンスに近づいたと、手応えを感じさせる内容であったことも事実です。

「終わってみれば、今回もポイントには届きませんでしたが、予選の28番手という低い順位から決勝に向け、チーフメカニックとともに、うまくまとめることができたと思います。一番相性の悪いフィリップアイランドでここまで走れましたので、次こそは間違いなく今回以上の内容で走れると思います!」

次戦は、2012年の最終戦バレンシアGP。選手たちはそれぞれに決意と思いを秘めて臨むレースになることでしょう。日本人選手たちも、この一年の総決算として悔いのない戦いを全力で展開してくれるに違いありません。シーズン締めくくりの大事な一戦で、彼らが披露してくれるであろう活躍を楽しみに待ちましょう。

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