裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.16 Moto2の3選手・悲喜こもごもの雨

第16戦の決勝レースは雨。しかも、熱帯地方特有のスコールに立て続けに襲われるというとても厳しいレースでした。そして、Moto2クラスを戦う中上貴晶、高橋裕紀、小山知良の3人の日本人選手は、この雨に翻ろうされる結果となりました。

セパン・サーキットで行われるマレーシアGPは、気候的な特徴から必ずといっていいほど、3日間のレースウイークのどこかで雨に見舞われます。セパン・サーキットでのレース経験が豊富な関係者なら、それくらいはあらかじめ想定していますが、今回のように雨が長時間降り続くのはやや珍しいことかもしれません。

とはいえ、金曜日午前のフリー走行から土曜日午後の予選までは、時折りウエットコンディションを挟みながらも、おおむねドライコンディションでの走行でした。日本人選手の中で、この土曜日までのセッションを最も順調に進めたのが中上です。土曜日の予選を終えた段階で4番手タイム。土曜日午前のフリー走行ではトップタイムをマークしており、いい流れでセッションを進めてきました。ドライ用のセットアップを着実に積み上げ、ウエット状態でもブレーキングのアドバンテージを実感できる手応えを得ていました。

小山は予選21番手。小山から14、15番手の選手までのタイム差は、それぞれ0.1秒に満たない僅差です。シーズン後半からの途中参戦ながら、ポイント圏内を狙えるところまでマシンを仕上げてきたことは、この数字からもうかがえました。

「0.1〜0.2秒で順位がポンと跳ね上がる。そういうところまでやっと到達できたという感じですね」

そう話す小山の口ぶりからは、参戦からこれまでの日々の内容の濃さを感じ取れました。

一方の高橋は、少しずつマシンが煮詰まってきているものの、土曜日の予選で最後のタイムアタックの組み立てに失敗。十分なアタックができず、23番手に沈んでしまいました。

日本人3選手の明暗が分かれたフリー走行と予選。しかしこの段階ではまだ、日曜日の決勝レースがあれほど荒れた展開になるとは、だれも想像していませんでした。

日曜日のスケジュールは通常のケースと異なり、Moto3クラスの決勝レースが午後1時から、Moto2クラスは2時20分からと、いつもより1時間45分ほど遅いスタートでした。天候は、朝から強い日差しが照りつける快晴となりましたが、昼間にはスコールの到来を予感させる黒い雲が姿を見せ始めました。そして、Moto3クラスの決勝途中から本格的に雲行きが怪しくなり、レースが終わるころには豪雨になっていました。安全性への配慮から、Moto2クラスの決勝は遅延。当初の予定より30分遅れの2時50分、雨が小降りになったのを見計らってレースがスタートしました。

すっかり濡れてしまった路面状態で始まった決勝で、中上はスタートを決めて1コーナーへ入っていった……かに見えた瞬間、雨に足元をすくわれて転倒を喫してしまいます。マシンを起こしてコースに復帰しますが、最後尾からのレースとなってしまいました。そこから追い上げようとした中上ですが、3周目の1コーナーで、遅い選手をかわして旋回動作に入ろうとした直後、かわしたはずの選手に接触され、またもや転倒してしまいます。

「前にいたライダーとかなりのタイム差があったので、1コーナーで普通に抜いて、ブレーキを離して曲がろうと思った瞬間に、『ドン』とアウトから接触されてしまいました。その際、左足首をひねる格好になって、足の甲から先に痛みが走りました。転倒して立ち上がったあと、足首は大丈夫だったのですが足の甲全体が痛くて……」

中上はその後、メディカルセンターで診察を受けた結果、左足の小指を骨折していることが判明しました。

「ケガをしてしまったのは残念です。ですが、小指だけで済んだので少しほっとしています。次のオーストラリアGPもレース走る方向で検討していますが、少しでもいい状態で走りたいので、足を休めながらよく考えたいと思います」

周回を重ねても、一向に雨がやみそうな気配はありません。やがて、南国特有の降りの強い雨は、さらに激しさを増していきました。

「ストレートでも、伏せていると(前の水しぶきで)全然前が見えないんですよ」と、小山はレース後に、このときの様子を振り返っています。コンディションの悪化にともない、レースも荒れた展開になっていきました。何台ものマシンが転倒していく中、高橋と小山は堅実な走りでサバイバルレースを生き抜き、15周目には高橋が16番手、小山が17番手につけていました。

その後、高橋は14番手、小山は15番手に順位を上げ、さらに前方を走る選手が転倒したことで、2人のポジションは1つずつ上がりました。ところが、ここでレースは赤旗中断。最後尾の選手が16周目を終了していなかったため、15周が終了した段階での順位がレースのリザルトに。高橋の13位、小山の14位は幻に終わってしまいました。

「『15番手に上がった瞬間に赤旗はないだろう、もう一周走らてくれよ!』って気分です」と、小山は濡れた体をふきながら苦笑を漏らしました。

「あのままいけば、裕紀と僕は14、15位だったんですよ。(アンドレア)イアンノーネ選手が転倒していたから、13位と14位か!? でも結局ノーポイント。残念だけど、これもレースの醍醐味なので仕方がないですね」

同じく高橋も、赤旗中断時には自分が13番手につけていることを知りませんでした。

「ぶっつけ本番で、サスペンションのバネレートを大きく変更してレースに臨みました。結果的にこれはいい選択だったのですが、少しリアを柔らかくしすぎたので、穏やかな雨だった序盤から中盤は逆にグリップがありすぎて、今一つうまく乗れませんでした。でも、終盤に雨が激しくなると、少しずつフィーリングがよくなってきました。ペースアップにともなって順位もどんどん上がっていって、水しぶきでサインボードが見えなくてよく分からなかったのですが、赤旗を降られた瞬間、自分は13番手だったらしいですね。でも、その前の周回でレースが成立したので、結果は16位でした。仕方がないですね……。最近はこんなことが続いていますが、次戦ではポイントを取れるようにがんばりたいと思います」

今週末に行われる3連戦のラスト、第17戦オーストラリアGPの舞台は同国南端のフィリップアイランド・サーキット。シーズンの締めくくりに向けて、日本人選手たちの一層の奮起を期待しましょう。

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