モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > 裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ! > 【番外編】小山知良・終盤6戦のグランプリ復活劇
イタリアのミサノ・サーキットで行われた第13戦サンマリノGPから、小山知良(Technomag-CIP)がMoto2クラスに参戦を開始しました。現在29歳の小山は、2005年から10年まで125cc(当時)に参戦。何度も優勝争いを繰り広げ、表彰台経験も豊富なベテラン選手です。
「ビックリですよね、本当に」と、小山自身も今回の抜てきには驚きを隠せません。
「友人たちからも、『(強運を)持ってるな〜、おまえ』って言われました。実は、夏に(高橋)裕紀と一緒に恒例の四国のお寺参りをしたんですが、護摩をたいてもらう際に『なんでもいいから願いごとを書きなさい』と言われて<GP復帰!>と書いたんです。そうしたら、1カ月で実現してしまいました。神頼みって、効くなあ〜(笑)」
小山が後半6戦を戦うチームは、Technomag-CIP。日本人選手の故・富沢祥也が所属していたチームです。Moto2クラスの決勝レース中に不幸な事故が発生した10年のサンマリノGPでは、小山は125ccクラスにフル参戦をしていました。レース後には富沢が搬送された病院に駆けつけ、19歳で早すぎる生涯を終えた後輩に別れを告げた、数少ない選手の一人です。11年の小山は、全日本ロードレース選手権に復帰してJ-GP2クラスへ参戦すると同時に、Technomag-CIPチームからスペイン選手権にも参戦。日本とスペインの両国を往復するあわただしい一年を送りました。
今シーズンも、小山はチームを移籍してスペイン選手権に継続参戦しています。そこへ、MotoGPのMoto2クラスでTechnomag-CIPに所属していた選手が、前戦のチェコGPを最後にチームを離れることが決定。その選手の代役として、小山に連絡がいくことになりました。
小山は、昨年のサンマリノGPでも、このMoto2クラスでTechnomag-CIPチームから参戦を果たしています。昨年は負傷選手の代役参戦でしたが、今年は離脱選手の交代要員として最終戦のバレンシアGPまで走ることが決定しています。後輩の富沢が若い命を落としたミサノの地で2年連続の参戦が決定した偶然を、小山は偶然以上のなにかが作用しているように感じた、と言います。
「2年連続でミサノからの参戦。昨年も今年も、連絡をもらったのがレース直前の月曜日。しかもこのチームです。普通に考えると、こんな偶然はあり得ないですよね。さらに今年の場合は、最終戦まで走るわけだから、本当に鳥肌が立ちましたよ。『やってくれるなあ、祥也』って」
今シーズン、世界の舞台で戦う日本人選手たちは苦戦を続けています。小山は、自分のグランプリ復帰が決定したことで「みんなの尻に火を付けてやりますよ」と冗談交じりながら、後輩たちに発破をかけるべく、その意気込みを語ります。しかし、小山自身も突然の参戦決定で、厳しい状態からのスタートを強いられていることは十分に理解しています。今回からの6戦を戦う覚悟について、その心中を以下のように明かしました。
「これが最後のグランプリ参戦になったとしても悔いが残らないように、しっかりけじめをつけるつもりです。めったにあるチャンスではないですからね。まず今回のサンマリノGPでは、問題点がたくさん明らかになると思いますから、このレースウイークではそれをピックアップすることが目標です。次戦の前にスペインで1日テストがあるので、今回洗い出した問題をそこでできる限り解決して、アラゴンGPに備えます。そして、アラゴンGPで車体をある程度仕上げて、日本GPに『ゴー!!』って計画ですね」
しかし、その日本GPもあくまで「けじめ」の通過点だ、と小山は話します。
「本当に重要なのは、第17戦オーストラリアGPのフィリップアイランド・サーキット。あそこは初めて表彰台を獲得したサーキット(05年125ccクラス、2位)で、フィリップアイランドから自分のグランプリ生活は始まった、といってもいいです。だから、そのサーキットでしっかりけじめをつけたい、と思っているんです。その結果、次のシーズンにうまくつながればラッキーだし、もしつながらなくても悔いが残らないように全力で走りたいと思います」
金曜日から土曜日にかけて、3回のフリープラクティスと予選を精力的に走り込み、現在のマシンが抱える問題を少しずつ明らかにしていきました。
「コーナー進入でリアタイヤが流れるのはいいですが、そのあとグリップしてしまうので、進入がハイサイドのような状態になってしまう。それさえなくなれば、マシンはすごく曲がるようになると思います。とにかくここでロスをしてしまうから、向きを変えることができなくて、立ち上がりでも(スロットルを)開けていけない。もったいないですね。ここが直らないと、タイムは詰まらないけど、逆にここさえ直せばあとは許容範囲内だから、グッとよくなると思います」
土曜日午後の予選順位は26番手。日曜の決勝レースは9列目からのスタートすることになりました。まずは完走が目標、できれば20位以内を目指したい、とレース前に話しましたが、決勝レースを終えて小山は21位でチェッカーを受けました。
「ブレーキングで無理をできないマシンなので、案の定、ブレーキングで差されて終わってしまう展開になりましたね。今日のレースでは何度か危ない目に逢って転びそうになりましたが、それを持ちこたえるたびに『祥也、ありがとう』と心の中で思っていました。 進入の問題を修正すればもうちょっと気持ちよく走れることは分かってきたので、次の月曜に実施するテストで解決の方向性を探って、アラゴンGPに挑みたいと思います」
豊富な経験と高い技術を武器に、あせらず着実な歩みを見据える小山の姿勢は、その冷静さゆえにかえって見る人の期待を高めます。次戦のアラゴンGPでも、小山は持ち前の分析力を武器に、確実な前進を遂げてくれることでしょう。