裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.12 中上貴晶・この悔しさを糧として

Moto2クラスにとってはシーズン11戦目となるチェコGPの決勝レースで、中上貴晶(Italtrans Racing Team)はポイント圏外の17位という悔しい結果に終わりました。想像以上に激しいチャタリングに悩まされ、全くペースを上げられず、周囲と同じラップタイムで走ることができなかったため、予選で獲得した3列目7番手という好位置から周回ごとにどんどん順位を下げていくという厳しい内容でした。

 

前週のインディアナポリスGPでも17位でしたが、このときはレース途中からクラッチのフィーリングが悪くなり、エンジンブレーキにも不自然な症状が発生し始めたために、狙い通りのブレーキングや旋回動作を行えないまま走り続け、このリザルトに終わりました。インディアナポリスGPからチェコGPまでは、2週連戦の上に大陸間の移動も大きいというあわただしいスケジュールでしたが、その条件の中でチームは懸命に原因を特定、究明して、問題解決に当たりました。

その結果、チェコGPの舞台であるブルノ・サーキットでは、クラッチを新品に交換するとともに、エンジンブレーキに関わる電子制御系も見直し、インディアナポリスで発生した問題については解決を見ることができました。ただし、今回のレースウイークでは、金曜午前のフリープラクティス1回目からチャタリングに悩まされるようになります。そして、この問題は決勝まで終始つきまといました。

 

金曜の走行は、午前と午後の2回を終えて16番手。午前はトップから1.340秒差の18番手という苦しい位置でしたが、午後の走行ではトップから0.840秒差の12番手と改善傾向がうかがえました。しかし、午後のセッションでは、序盤に転倒を喫してマシンの修復に時間を費やしてしまい、この日に予定していたメニューを消化しきるまでには至りませんでした。この段階でチャタリングはすでに発生しており、その対策が翌日の土曜日に向けた課題の一つとなっていました。

金曜日は汗ばむ陽気で、気温と路面温度がともに高い状況でしたが、夜半に起こった雷雨の影響と朝からの曇天で、土曜の温度条件は前日に比べてかなり低めの状態になりました。予選が行われた午後3時の気温は20℃、路面温度は23℃。決勝レースのグリッド獲得に向けて重要なこのセッションで、中上は着実に目標をクリアしながら3列目7番グリッドを獲得しました。わずかな差で2列目を逃したものの、フロントローの2番グリッドを獲得した第2戦スペインGPに次ぐ上位からのスタート位置です。

0.067秒という僅差で惜しくも2列目を逃したことに関しては、やや悔しそうな表情も見せましたが、その口調からは、総じていい手応えをつかみ始めている様子が感じ取れました。

「予選中はずっと1本のタイヤを使用していました。フロントのチャタリングが特にすごくて、この状態ではなかなか2分2秒台に入れるのは厳しかったのですが、それでも2分3秒2でコンスタントに走ることはできました。セッション最後にタイヤを新しいものに交換してアタックしたときは、現状の力をしっかり出して、目標の2分2秒台に入れることができました。あと百分の数秒で6番手でしたので、2列目を逃したのは残念ですが、マシンのフィーリングはドライならかなり勝負ができそうなところまで仕上がってきました」

また、チャタリングに関しては、完全に解消しきるよりも、むしろ対処できる範囲に収めることが重要、と考えている様子でした。

「今日の午前のフリープラクティス3回目で、フロントフォークの角度を調整してみると、今までよりも走りやすくなりました。でも、チャタリングを全くなくすことは不可能なので、どれだけ抑えることができるかが明日のレースのキーポイントになると思います。ポールポジションとの差はまだ1秒ありますし、コーナリングスピードを上げるとチャタリングが発生しますので、明日午前のウオームアップまでにチームと相談してアイデアを出して、決勝までにさらによくしたいと思います」

 

土曜の夜にも再び雨が降り、この雨は決勝日の午前中まで続きました。午前のウオームアップ走行はウエットセッションになったため、試したいアイデアをトライして検証することはできませんでした。しかし、昼前に路面は乾き始め、午後0時15分にスタートするMoto2クラスの決勝レースはドライコンディションで行われました。

中上のリザルトは17位。7番グリッドからのスタートにも関わらず、ペースを上げることができないまま周回ごとに順位を下げていき、最後はポイント圏外という散々な結果でした。

ピットボックスに戻ってきた中上は、

「……あまり言うことがないですね」

と、フラストレーションのたまる口調でつぶやきました。悔しそうな表情の中上に、順位を落としていった事情を尋ねてみると、チャタリングのために全然思い通りに走れなかった、とのことでした。

「昨日の予選で少しはよくなったかと思ったのですが、決勝レースでは1周目から前についていくことができず、ペースを少しでも上げようとすると、チャタリングがフロントからすぐリアにも出てしまい、ずっとチャタリングと一緒に走っているようなありさまでした。とてもまともに旋回できる状態ではなく、転ばずにチェッカーを受けることで精一杯でした。今日はただズルズルと順位を下げるだけで、走っていても全然余裕がなかったですし、厳しく辛いだけの決勝になってしまいました。ほかの選手はそこまでチャタリングの悪影響を受けていなかったのですが、なぜ自分だけこのような状況になってしまったのでしょうか……。路面状況が悪かったのは事実ですが、それだけでこのような問題が発生するとも思えませんし、なにか大きな原因があって、それが悪さをしているとしか思えません。予選のデータと決勝のデータを比較して、しっかり考えてこの問題を解決しなければ、ちょっとこれでは話にならないですね……」

そのあと、チームが詳細にデータを検討し、マシンの状態もチェックをしてみたところ、中上のマシンは車体に大きなトラブルを抱えていたことが判明しました。中上が訴えていた通り、まともに走れる状態ではなく、対応不可能な振動が出てしまうのも仕方ない状態だったのです。

決勝前にこの事実が判明しなかったことが悔やまれるとはいえ、この問題がなければ7番手スタートの中上が、レースで上位を狙う走りができていたであろうことは十分に想像できます。また、今回のレースを不本意な内容と結果で終えざるを得なかった悔しさは、次戦のサンマリノGPで雪辱を期すための、なによりの発奮材料となるはずです。チームにとっても、次のレースはホームグランプリとなる重要なレース。万全の状態でウイークに臨むことは間違いありません。今回の残念なリザルトを自分たちの糧として、中上貴晶とItaltrans Racing Teamが持てる力を存分に発揮するに違いない次回のレースを楽しみに待ちましょう。

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