裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.11 高橋裕紀・鈴鹿8耐の成果を励みに

短い夏休みを挟んで、MotoGPの後半戦がスタートしました。MotoGPクラスは第10戦終了後から第11戦インディアナポリスGPが再開するまで2週間の休暇でしたが、第10戦のアメリカGPではMoto2クラスとMoto3クラスのレースが行われなかったため、この2クラスの選手たちは、約4週間の休暇を満喫できたことになります。貴重な時間を疲労回復や気分転換に利用したり、あるいはトレーニングに集中したりするなど、選手によって活用方法はさまざまですが、Moto2クラスに参戦する高橋裕紀(NGM Mobile Forward Racing)は鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)に参戦。グランプリとは異なる環境で己の力を存分に発揮する、有意義な機会になりました。

今年の鈴鹿8耐で高橋が参加したTOHO Racing With MORIWAKIは、2011年に結成されたTOHO Racingが全日本ロードレース選手権のJSB1000クラスに参戦しているチームです。昨年このチームでST600クラスのチャンピオンを獲得した山口辰也選手を中心に、高橋と手島雄介選手が加わって、今年の鈴鹿8耐に参戦することになりました。

周知の通り、2位表彰台というすばらしい結果。しかし高橋は、そこまでのいいリザルトを期待していたわけではなかった、と言います。

「僕たちのチームはファクトリー的なマシンではなく、あくまでもプライベーターのキットマシンで、ピット作業にかかる手間一つとっても、有力チームと比べて明らかに不利な状態でした。ただ、今年のチームは非常に強い団結力がありましたし、僕が事前テストに参加できなかった分、山口さんと手島君がしっかりとセットアップを進めてくれていました。今シーズンはグランプリで苦労をしていることもあって、Hondaの1000ccはすごく乗りやすくて、セッション中に走っていても、『もっとずっと乗っていたい』と思わせるくらいの仕上がりでしたね」

自分たちにできることを確実にしっかりとこなしながら、最低でもプライベーター最上位を目指そう、ということを目標に臨んだレースで、高橋が2位のチェッカーフラッグを受けました。

「ツナギを着てヘルメットを持って、ピットに行く準備をしているときに、モニターの映像で3番手を走行していた選手が転倒したことを知りました。ライダーチェンジでピットアウトした際には、このまま自分が無事にチェッカーを受ければ、3位が確定するんだなと思いながら走行していました。でも、レースを終えてピットに戻ってくるまで、2位に浮上していたことを知らなかったんです」

初めて登壇した鈴鹿8耐の表彰台は、やはりほかのレースでは味わえない特別な感慨があったようです。

「(チェッカーを受けたとき)最初に思ったのは、転ばずに終えることができた、という達成感。そして、チーム全員への感謝と、みんなが一緒に喜び合えたうれしさ。鈴鹿8耐の表彰台は、自分の力で上がったのは初めてだったので、上から見下ろしてなんだか申し訳ないような気持ちにもなりましたが、病みつきになりそうです(笑)。今年の鈴鹿8耐は、悪い流れを断ち切っていい流れに戻すためのきっかけにできればいいな、と思っていたのですが、予想以上の結果になっちゃいましたね。信用できるライダーたちとチームスタッフ、そしてHondaのマシンというパッケージで安心して楽しく走れましたし、その気持ちが結果につながったのだと思います」

 

高橋の鈴鹿8耐2位表彰台は、MotoGPのパドックでも話題になっていました。インディアナポリスGPでチームと合流すると、

「ホテルの朝食でも、『8耐の2位おめでとう』と次々に声をかけられたり、サーキットでもほかのチームの人たちから話を聞かせてくれと言われたり、思った以上にすごい反響でした。8耐がGPパドックでも注目されていることは知っていましたが、そこで結果を出すと、こんなに反響があるんだというくらいで、少し驚きました」

勢いをつかみつつあるこの流れに乗って、Moto2後半戦は一気に巻き返しといきたいところです。

ですが、結果からいうと、高橋はまたもや厳しいレースを強いられてしまいました。

今回のレースウイークでは、金曜のフリー走行時にクラッチに微妙な違和感を抱えており、午後の走行後に点検をした結果、土曜日には問題が解消したものの、決勝日午前のフリー走行では、今度はミッションに不調が生じました。レース前の貴重な20分間の走行の多くをピットで費やす羽目になり、決勝レースは思いきってエンジンを載せ替えて挑むことになりました。

そして、その際に、チーム側が「いいセッティングがあるから、これで決勝レースを走ろう」と提案。文字通り、ぶっつけ本番でレースに挑むことになりました。しかし、そのセッティングでは高橋は序盤から一向にタイムを上げていくことができず、それどころか、原因不明のチャタリングに襲われて何度も転倒しそうになる始末。あまりにも症状がひどいため、やむなくピットへ戻らざるをえませんでした。問題の原因はタイヤだろうということで、交換をして再びレースに復帰したものの、そこからは上位を目指せるはずもなく、高橋はやむなく28位でレースを終えました。

「自分の走りが昨日から今日でそんなに大きく変わるとは思えないので、エンジンを載せ替えたときになにかが起こってしまったのか、それとも急きょ試すことになったセッティングが原因なのか、そのどちらかしか考えられないですね……」とレースを終えた高橋は、フラストレーションのたまる様子で困惑気味に語りました。

「エンジンを載せ替えている最中に、『いいセッティングがあるから決勝はそれでいこう』と言われたんです。『チームメートの(アレックス)デ・アンジェリスやほかの選手もこれがいいと言っている』と相当に自信のある様子でしたのでそれを受け入れたのですが、断れなかった自分にも問題があるとはいえ、それにしても、いいと言っていたはずのデ・アンジェリスやほかの選手も低位に沈んでいたので、なぜそのセッティングを試そうという気になったのか……。精神的にかなりモヤモヤも残りますが、次は連戦のチェコGPですので、早く気持ちを切り替えて、次こそいい流れに持っていきたいと思います」

苦しい戦いが続きますが、高橋は鈴鹿8耐でも最後まであきらめずに着々と努力を積み重ねたことが2位表彰台という結果につながりました。グランプリの今後の戦いでも、本来の能力を存分に発揮できるときがきっと訪れるはずです。高橋の高い実力は、ほんの数週間前の鈴鹿8耐で実証されたばかりなのですから……。


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