モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > 裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ! > 前半戦を振り返って
第9戦イタリアGPを終え、2012年のMotoGPは年間スケジュールの折り返し地点を迎えました。ラグナセカ・レースウェイで行われるアメリカGPではMoto2クラスとMoto3クラスのレースは行われないので、両クラスの選手たちはインディアナポリスGPまで4週間のサマーブレイクに入ります。
カタールの開幕戦からイタリアGPまでの9戦は、3名の日本人選手たちそれぞれにとって、一筋縄ではいかないレースの連続でした。前半戦のしめくくりになった第9戦を中心に、ここまでの彼らの戦いを振り返ってみましょう。
Italtrans Racing TeamでMoto2クラスを戦う中上貴晶にとって、今回はチームのホームGPという大事なレースでした。第2戦スペインGPでは5位、第5戦カタルニアGPでは6位という結果を得ていますが、それ以降はなかなか思うように走れないレースが続き、ポイント圏内でフィニッシュすることにも苦しむ状態でした。
この現状を打破するため、第9戦ではMuSASHi RT HARC-PRO.の本田重樹監督が急きょ、日本から駆けつけることになりました。直前まで鈴鹿サーキットで鈴鹿8耐の合同テストに参加していた本田氏は、休む間もなくムジェロ・サーキットへ移動。到着直後からコースサイドで中上の走りを観察し、改善ポイントのアドバイスを与えるというあわただしさです。中上も、的確な指示を受けてセッションごとに走りを改善し、決勝レースではしっかりと結果を出して恩師とチームの期待に応えました。
予選を終えた土曜の午後に、「ここ数戦は、序盤でトップグループから離されてしまうので、明日は最初からいいタイムを刻んでトップ集団に加わることが課題です。後半の周回ではタイムを落とさずに走ることができていますので、序盤さえうまくいけば、いいレースができると思います」
そう語っていたとおり、スタートをうまく決めて、1周目からトップグループにつけることに成功しました。
「無理なく普通についていけました。ブレーキングでアドバンテージがあったので、うしろにいるか前に出るか少し考えたのですが、チームのホームGPですし家族も来てくれているので、ここは前に行こうと決意して先頭に出ました。そんなふうに考えることができるくらい、気持ちの面でも余裕がありましたね。実際に、無理をせず一つひとつ確実に前に出ていくと、意外とすんなりトップに出られた、という状態でした」
9周目にはトップを奪われたものの、それでもレース終盤まで先頭集団につけた中上は、21周のレースを終えて7位でチェッカーを受けました。
「最後はフロントタイヤにダメージが出てブレーキングからの旋回も厳しくなり、チャタリングも出た影響でペースを上げられなくて、少し順位を落として前と離れてしまったのは悔しいですね。でも、今回のレースでは、トップで戦える手応えを自分もチームも改めてつかめたので、結果はともかく内容としては今季の中でも格段によかったと思います」
レースを終え、汗まみれの笑顔で語る中上は、「この結果は本田重樹氏のおかげ」とも話しました。
「どういう言葉で表現すればいいか分からないくらい、感謝しています。本田監督が来てくれたおかげで、初日から状況が好転しました。今回のリザルトは、本当に90パーセント以上が本田監督のおかげだと思います。ここから先は、自分とチームの力で今回つかんだものを離さずにどんどんステップアップしていきたいと思います。後半戦は一刻も早く巻き返して、一戦でも早く表彰台に上がりたいですね」
後半戦の幕開けになるインディアナポリスGPでも、中上はきっとこの勢いで活躍を続けてくれることでしょう。
NGM Mobile Forward Racingで今シーズンを戦う高橋裕紀がここまで苦戦を強いられた理由は、前回でも紹介したとおりですが、今回はさらに、チーム内でのセッションの進め方が変更されました。マシンセッティングの方向性を決断する役割を高橋が負うようになったのです。
「お互いのいいところを少しでも引き出せる体制にしよう、ということで。自分がチーフメカニック的役割もしながら、全体を引っ張っていくことにしました。たとえば、走行中に感じたサスペンションのフィーリングをもとに僕のチーフメカニックがデータをチェックし、それを受けて僕から案を出してセッティングを変更していく、という具合です。僕の案どおりにいくこともあれば、チーフメカニックがサスペンションエンジニアや(アレックス)デ・アンジェリス担当のチーフメカニックと相談したアイディアを僕に提案してくれることもあって、自分のアイディアだけが暴走しないようにしています。セッション中のセットアップの進み具合は確かに遅く感じますが、お互いに言いたいことを言い合えるので、チームの中の雰囲気は以前よりもずっとよくなりました」
いわば、プレイングマネージャーのような役割になった高橋ですが、決勝レースではスタート直後の1周目でクラッチに問題を抱えて出遅れてしまい、そこから追い上げのレースとなりました。また、終盤にはシフトチェンジのパーツにも問題が発生。結果は17位でした。
「単独走行になってしまったので、途中からは乗り方などを考えながら走っていたのですが、レース中盤から後半でもかなりいいフィーリングで走行できて、走れば走るほどマシンに対する理解が進んできました。タイムにも、それが反映されていたと思います。ただ、今回は前半戦最後のレースだったので、なんとしてでも結果が欲しかったのですが……」
なんとも悔しそうな表情で、高橋は今年の前半戦を振り返りました。
「本当についていないレースの連続でした。フロントフォークの問題は解決されましたが、マシン以外の部分で運がなかったり、予想していなかった問題が出たりと、悪い流れを断ち切れなかったのが本当に残念です。 グランプリはこれでサマーブレイクになりますが、僕は来週、鈴鹿8耐に参戦するので、ここまでのフラストレーションを発散させるという意味でも、思う存分に自分の走りをしたいと思っています。8耐で流れを一気に変えて、後半戦のインディアナポリスGPからはいいレースをしたいですね」
運がないといえば、Moto3クラスで今シーズン初めて世界の舞台へ挑戦している藤井謙汰は、木曜夜に食中毒で腹痛を訴え、イタリアGP金曜のフリープラクティス1回目と2回目の走行キャンセルを余儀なくされました。土曜午前のフリープラクティス3回目でようやく、ムジェロ・サーキットを初走行。予選を終えて獲得したグリッドは最後尾35番手でしたが、決勝レースではレースウイークの自己ベストタイムを更新して25位でチェッカーを受けました。
開幕戦以来、藤井は世界の高い壁に直面して苦しいレースが続いています。
「グランプリはなにもかもが圧倒的に速く、すごく難しいところですが、その難しい中で少しでも前を目指していくことが大事だと考えています。後半戦はしっかりと自分の状況を見据えながら、挑み続けたいと思います。そう簡単にあっさり成績を上げられる世界ではないと思いますので、着実に少しずつ積み上げていけるようにしたいと思います」
前半戦を終えていまだノーポイント。厳しくても、これが現実です。そして、誰よりもその悔しさを一番かみしめているのは、藤井謙汰本人でしょう。後半戦は、一層の奮起と着実なステップアップに期待しましょう。