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裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.8 高橋裕紀・2012年復活の足がかり――前編

高橋裕紀の苦悩が止まりません。NGM Mobile Forward Racingに所属し、Moto2クラス3年目を迎える高橋ですが、今年は7戦を終えてノーポイント。2005年にHonda Racingスカラーシップで250ccクラスへの参戦を開始して以来、このようなことはいまだかつて一度もありませんでした。Vol.3で、スペインGPまでの高橋を巡る状況を要約して紹介しましたが、そのあとも彼らの状況は二転三転を続けています。思い通りの結果を残せないリザルトの裏側で、果たしてなにが起こっているのか。その経緯を、時系列順にふり返ってみましょう。

プレシーズンから試してきたフレームが問題を抱えていると判明し、2011年最終型へ戻したのは開幕直前のヘレステストでした。しかし、開幕戦のカタールGPと第2戦スペインGPでは、同じ11年型の別フレームで戦うことになりました。2週連続の第3戦ポルトガルGPでは、さらにまた別のフレームを使用することになります。このレースに使用したのは、11年のスタンダード型と言われる仕様。セッティングの積み上げはまたしても振り出しに戻ってしまったものの、レースウイーク中のコメントからは従来よりも若干の好感触が得られそうな手応えも感じ取れました。

第4戦フランスGPでも同じ車体を継続使用して初日の走行を終えましたが、この日の夕刻、一つの朗報がありました。12年仕様のフレームがようやく高橋の手元に回ってきたのです。本来ならば、この状態でプレシーズンテストから開幕戦を迎えたかったところですが、とにもかくにも、5度目の車体変更にしてようやく、フランスGPのフリープラクティス3回目から、念願の2012年マシンで戦う環境が整った、というわけです。しかし、決勝レースではスタート直後の1周目に目前で選手が転倒するというアクシデントが発生。重大化を回避するために、高橋は自らマシンを倒してコースアウトする以外に選択肢はありませんでした。そのあと、マシンを引き起こして戦列に復帰しますが、当然ながらかんばしい結果にはつながりませんでした。

第5戦カタルニアGPは初日から好天に恵まれ、

「サスペンションのセッティングも少しずつアジャストできる方向に進み、ようやくベースが少しずつ見えてきました」

と、金曜の午前午後を走り終えた高橋は明るい表情で語りました。ところが、翌土曜午前のフリープラクティス3回目が始まる直前に、チームメートのアレックス・デ・アンジェリスの使用しているリアサスペンションを使ってみないかという提案をチームから受けます。同じオーリンズ製のサスペンションでも、高橋が今まで使用してきたものとは中身の仕様に違いがあるということで、試しにフリープラクティス3回目の途中から使ってみたところ、

「明らかにグリップがよく、接地感もあります。曲がるようにもなりました」

と好感触を得た様子でした。午後には、同じくチームメートの使用しているフロントサスペンションを使用することになりました。決勝では序盤の混乱に巻き込まれてしまい、残念ながら順位をジャンプアップできませんでしたが、そのあとのレースペースは悪くなく、

「ある程度安定したラップタイムで走れるようになってきました。ただ、コーナーの真ん中から立ち上がりにかけてスライドしてしまうので、ここがよくなればもっと楽に走れるようになってくると思います」

と、明るいきざしが見えてきた様子をレース後に語りました。

第6戦イギリスGPが行われるシルバーストーン・サーキットは、天候・気温ともにあまりいい条件にならない土地です。今年も、金曜と土曜は雨と低い気温に翻ろうされる2日間でした。このレースでは、さらに大きな環境の変化が高橋を待ち受けていました。マシンは前戦と同じ状態で走ることができたのですが、チーム内でのメカニック作業に大幅な段取りの変更が加えられることになったのです。今シーズンの高橋担当チーフメカニックは、今まさに経験を積み重ねているところで、懸命に努力を重ねながら選手とチーフメカニックの二人三脚で戦ってきました。その経験の浅い部分をフォローするため、この大会から、次セッションのセッティング方向を相談する走行後のミーティングは、チームメートのデ・アンジェリス担当チーフメカニックと行うことになりました。つまり、フリープラクティスや予選中の微調整などは開幕以来の担当チーフメカニックとともに行い、セッション後のミーティングは全体を取り仕切る人物と行うことになった、というわけです。

この新しい段取りで取り組むようになり、フレーム仕様、サスペンション、作業システムと変わるべきものはすべて変わったようにも見えていたところへ、第7戦オランダGPで、フレームのコンストラクターそのものがスッターからFTRへ変更された、というわけです。突然のフレーム変更で、マシンが仕上がったのは初日の走行直前。午前のフリープラクティス1回目が、文字どおりシェイクダウンになりました。

初めてのマシンでまさにぶっつけ本番のレースを戦った第7戦の決勝レースでは、残念ながらポイントを獲得できませんでした。

「言葉がないですね……」

と、レース後の高橋は悔しそうに唇を噛みしめました。

「セッティングやコース、路面の問題などではなく、コーナーに進入してサスペンションが一番沈み込むところで、なにをやってもうまくセッティングを出せないんです。決勝に向けてジオメトリーも変更してみたのですが、それでも結局同じところで同じ問題が出てしまう……。ただ、ここまでいろいろなものを変えてくることで問題の所在をかなり絞り込めてきたと感じているので、次のドイツGPこそ結果につなげたいと思います」

ザクセンリンクでは優勝経験もあり、高橋にとっては相性のいいコースです。このレースで、苦しい12年の現状を大きく打破するきっかけを、ぜひともつかみ取ってほしいものです。


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