モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > 裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ! > 藤井謙汰・一歩一歩、前へ
今年からMotoGPに参戦を開始した藤井謙汰が、世界の最高峰で厳しい試練を経験しながら着実に経験を積み重ねています。昨シーズン全日本ロードレース選手権J-GP3クラスでチャンピオンを獲得した藤井は、Technomag-CIP-TSRからMoto3クラスに参戦。開幕前から、スペインのバレンシア・サーキットやヘレス・サーキットで精力的にテストを積み重ねてきました。
今シーズンがグランプリ初年度の藤井にとって、ほとんどのサーキットが初体験の場所になります。開幕戦カタールGPのロサイル・インターナショナル・サーキットもその1つでした。コースそのものが初体験であることに加え、この開幕戦はナイトレースという特殊な環境で行われます。フリープラクティス2回目を終えた順位は31番手、と苦しい順位につけていました。
「自分の中では攻めている感覚はあるのに、なぜこんなにタイムが出ないのかな。どうしてこんなにタイムが出ないのか、それを見極めないと……。初めてのコースで最初からあわせていく能力が、自分にはまだまだ足りないのだと思いました」
自分の不足している部分を率直に認めるのはつらく苦しいものですが、一刻も早く上位へ浮上するためにも、藤井は冷静に自分を見つめていました。セッションごとに少しずつ改善を重ねていきましたが、現実問題としてトップを争う選手たちとのタイム差は一朝一夕で詰まるものではありません。28番手からスタートした日曜の決勝レースは、21位でチェッカー。決して望ましい順位ではないかもしれませんが、それでもフリープラクティス1回目から少しずつ前進を果たし、グランプリレースの水準を確実に学び取ったレースになりました。
「レース序盤から、どんなに無理をしてでも追い抜いて、少しでも前へ出てやろうという周囲の気迫を強く感じました。彼らのガッツを見習わなければならない、ということが今日のレースでとてもよくわかりました。見習うところがたくさんある中で、自分はこの決勝レースでウイークの自己ベストタイムを更新して走れたし、途中で単独走行になってからは乗り方やラインも試して、学習できたことの多いレースになりました」
シーズン初戦から世界最高峰の厳しい洗礼を受けた藤井ですが、第2戦は開幕前の事前テストで走行経験のあるヘレス・サーキットです。しかも、昨年はこの地で行われたスペイン選手権に参戦した際には、ファステストラップも記録しました。この経験を生かして、経験豊富な選手たちと互角にわたり合うきっかけにしたいところです。
しかし、この第2戦は不安定な天候に見舞われ、セッションごとにころころと変わるコンディションに、藤井に限らず選手たち全員が翻弄されることになりました。日曜の決勝レース時刻は気温も低く、雨の影響でコース上にウエットパッチの残る状態で始まりました。22番グリッドからスタートした藤井は、1周目で20番手、3周目は14番手、そして4周目では11番手、と確実に順位を上げていきました。その間にも、不安定な路面状態に足下をすくわれた選手たちは続々と転倒していきます。半数近い選手がリタイアを喫し、もはやサバイバルレースといった様相を呈する苛酷な戦いの中で、藤井は11周目に7番手まで浮上していました。
しかし、全23周のレースが折り返し地点をすぎた16周目、ついに藤井も転倒してしまいました。左へタイトに旋回する最終コーナーに残っていたウエットパッチに乗ってしまった結果の出来事でした。
「あの場所はみんなが注意しながら走っていて、自分も慎重に通過していたんですが、もっとプッシュしようと思ったらリアが流れてしまい、そのままハイサイド……。もったいないことをしてしまいました」
あのまま残っていればさらに上位も目指せたレースだっただけに、ノーポイントに終わってしまったのは残念で、藤井の口調も悔しそうでしたが、この難しいコンディションの中で攻め続けた結果と考えれば、ポジティブな収穫もあったといえるでしょう。開幕戦では低位に沈んでしまっただけに、シングルの位置で走ることのできる自らのポテンシャルを確認できたという意味では、ある程度の自信回復にもつながったのではないでしょうか。
そして、2週連続開催の第3戦はポルトガルのエストリル・サーキット。このレースウイークも悪天候に悩まされる大会になりました。ときに雨が強く降るセッションもあり、前戦のヘレス同様に気温が低く路面コンディションも一定しませんでした。しかし、日曜はすっきりと晴れわたり、ウイーク中で最も安定した一日になりました。エストリル・サーキットは強風が吹くことでも有名なコースですが、この日曜日は風も穏やかで、Moto3クラスの決勝レースが行われる時刻の路面温度は34℃、と比較的良好な状態になりました。33番グリッドという苦しい位置からスタートした藤井は、23位でフィニッシュ。厳しい結果の中にも、さらに経験と学習を積み重ねた一戦になった、とレース後に振り返りました。
「レース中にウイークのベストタイムを出せましたが、前を走る集団とはまだ差が大きく、スタート後に一周してストレートに戻ってきたら全然違うところにいた、というのが現状です。それでも最後の最後まで自己ベストのペースで走れて、レースウイークの組み立てとしても初日のフリープラクティスから少しずつ改善していくことができたので、学べたことや得たものはたくさんありました。今後は、改善してゆく領域やタイムをもっと高い水準にしていかなければいけないと思います。
3戦を終えて、グランプリの雰囲気にはかなり慣れてきましたが、次戦のレースも初めて走るサーキットなので、一戦一戦を大事にしながら、次につながるようにしていきたいです。フランスGPは、僕にとってはアウェーだけど、チームにとってはホームグランプリなので、少しでもいい結果を出したいと思います」
グランプリの水準は高く、今後も厳しい試練は続くでしょう。しかし、その悔しさの中から、藤井謙汰は謙虚に自らに必要な事柄を学びとり、今日よりも明日、明日よりも明後日、と日々、前進を続けています。さらなる高みを目指す挑戦は、これからも続きます。