裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.3 高橋裕紀・新たなる出発

アンダルシアのヘレスサーキットで開催された第2戦スペインGPを、高橋裕紀は21位で終えました。決して望ましいリザルトとはいえません。開幕戦のカタールGPでも高橋は19位という不本意な結果に終わっています。世界グランプリの舞台でこれまで何度も優勝争いを繰り広げ、昨年も表彰台を経験している高橋が、シーズン序盤とはいえ、今年はなぜこれほどまでに苦戦を強いられているのでしょうか。開幕前からここまでの流れを振り返れば、その理由が少しずつ浮かび上がってきます。

今シーズン、高橋はNGM Mobile Forward Racingへ移籍しました。このチームが使用する車体はスッター製。昨シーズン所属していたGresini Racingはモリワキを採用していたので、高橋はスッターの特性に習熟するためプレシーズンテストから勢力的にマシンに乗り込んできました。しかし、いろいろな試みや方向性にトライし、自らの乗り方も工夫してみたにもかかわらず、いいフィーリングを得られず、タイムアップも図れない状態が続きました。その原因が特定できたのは、開幕を目前に控えた2日間のヘレステストでのことでした。スッターの提供する2012年型フレームの中でも、高橋の使用していたものだけが個体差レベルでの問題を抱えていたのです。高橋はプレシーズンから違和感を訴え続けていましたが、スッターのエンジニアも他のライダーたちのデータとつきあわせて比較した結果、ようやく問題の所在が判明し、テスト2日目に2011年最終仕様のフレームへ交換することで、不可解きわまりない不振も払拭されることになりました。

3日間のテスト途中にふりだしへ戻ることになったため、総合ラップタイム順位はかんばしいものではありませんでした。しかし、それでもプレシーズンの間中抱えていた違和感が解決したことにより、高橋も、

「昨日からこのフレームにしたら、一気に普通に走れるマシンになりました。まだベースセットアップを探り出している最中なので、開幕戦でいきなりトップ争いをするのは現実的ではないと思いますが、タイムの伸び方にも手応えはあるので、まずは現状の中でベストを尽くしていきたいと思います」

と、明るい笑顔で話すことができるようになりました。

そして、4月上旬の開幕戦カタールGPを迎えます。

しかし、このレースでも試練が待ち受けていました。

ようやくフィーリングを得られるようになった2011年最終仕様のフレームが、諸般の事情によりチームメートのアレックス・デ・アンジェリスのもとへ渡ることになったのです。高橋は、2011年型の別仕様フレームで開幕戦を戦うことを余儀なくされてしまいました。プレシーズン最終テストの2日間で積み上げかけたベースセッティングも、レースウイークになってまた最初からやりなおしです。さらに、今年からチーム契約で使用することになったレーシングスーツも寸法が合わず、身体に余計な負荷がかかるライディングを強いられることになってしまいました。予選などでは電気系のトラブルも発生し、多くの不安要素を抱えて臨んだ決勝レースは19位という不本意なリザルトに終わりました。

日本へ一時帰国し、気分をリフレッシュさせたあと、高橋はスペインGPへ向け欧州入りしました。事前にチームから受けていた連絡では、この第2戦から2012年型フレームを受け取れるという話でしたが、ヘレス・サーキットに着いてみると状況はやや異なっていました。昨年までスッターで戦っていたものの今年の開幕戦は別マニュファクチャラーへ移っていた選手が、第2戦からスッター陣営へ復帰したために、高橋が使うはずだったフレームは、その選手のもとへ渡ってしまったのです。

気持ちを切り替えてレースウイークに臨んだ高橋ですが、今回は不安定な天候にも翻弄されました。カタールGPから使い始めたフレームで初めて挑む雨のセッション。予選はドライ。状況がさまざまに変わる中、予選22番手だった高橋は、

「明日も、厳しいレースになるのは間違いなさそうです。この予選から朝のウオームアップ、そしてウオームアップから決勝、とさらにセッティングを変えていきながら、レースでも実戦の場としていろいろなことを試して全力を尽くしたいと思います」

と決勝レースに向けた決意を語りました。

日曜正午過ぎの決勝時刻は、ドライコンディションとはいえ、路面のあちらこちらにウエットパッチが残る難しいコンディション。またいつ雨が降り出してもおかしくない雲行きでした。マシンのセットアップを見いだせていない状況ということもあり、序盤は転倒を避けて抑え気味に走りながら、少しずつペースアップを狙っていきました。そして、途中からは乗り方にも変化を加え、実戦での最適な走らせ方を探り出すことに努めました。

レースは降雨のために赤旗が提示され、17周で成立しました。高橋のリザルトは21位。

「決勝では自分なりに試行錯誤して、マシンのフィーリングはいいところもあれば全然変わらないところもありました。コーナー進入のブレーキングはだいぶんよくなってきたけれど、曲がりにくく出口でもうまく加速できないのでタイムアップにつながらない。今回のような結果が続くとフラストレーションも溜まりますが、今の自分たちに与えられている“モノ”で現状から脱出できるよう、全力を尽くします。苦しい状態が続きますが、チームと一緒にこの状況を変えていくためにがんばります」

第3戦のポルトガルGPは、第2戦からの2週連続開催。戦いの舞台エストリルサーキットは、昨年、3位表彰台を獲得したコースです。今後の長いシーズンを戦っていくためにも、この相性のいいコースは高橋の本来の能力を発揮し、成績を浮上させるきっかけの場になることでしょう。


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