HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.88

復帰3戦目のストーナーがホームGPで6連覇を達成!

 日本GP、マレーシアGPに続く3連戦最後のレース、フィリップアイランド・サーキットで開催された第17戦オーストラリアGPは、ケガから復帰して3戦目を迎えたケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)が、今季5勝目を達成しました。フリー走行、予選でライバルを圧倒。その走りを決勝でも見事に再現、5年連続のポールポジションから6年連続となるオーストラリアGP制覇を成し遂げました。今季を最後にグランプリを引退することを表明しているストーナーの母国GPの最後の走りを見ようと、サーキットに駆けつけた約5万3000人の大観衆も大満足。すばらしい走りをみせてくれたストーナーに大きな声援と拍手が送られていました。
 チャンピオン争いをしていたダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)は、3番手から決勝に挑み、オープニングラップで首位に浮上します。しかし、2周目のヘアピンで転倒を喫し、再スタートしますが、ピットに戻りリタイア。チャンピオン争いに終止符が打たれました。個人タイトルは獲得することができませんでしたが、前戦マレーシアGPでRepsol Honda Teamがチームタイトルを獲得しました。タイトル王手のコンストラクターズタイトルも、シーズン11勝目を挙げて大きく前進しました。アルバロ・バウティスタ(Team San Carlo Honda Gresini)は5位。ステファン・ブラドル(LCR Honda MotoGP)は6位。Honda勢の活躍がオーストラリアGPを盛り上げました。

−今大会は、うれしい出来事と、残念な出来事の両方がありました。まず、ケガから復帰して3戦目のストーナー選手が、母国GPで優勝しました。フリー走行と予選でライバルを圧倒。そして、青空が広がった決勝では、危なげない走りと速さで、オーストラリアGP6連勝を達成しました。まずは、ストーナー選手の今大会を振り返っていただけますか。

「とにかく、すばらしい走りでしたね。『本当にこれが今年で引退する選手なのか?』ってみんなに言われるほどでした(笑)。今回のケーシーの速さには、ライバル全員が脱帽という感じだったのではないでしょうか。とにかく、3日間を通じて、圧倒的な速さでしたね。気温が低く、風が強く、小雨が断続的に降り続けるという初日のフリー走行で、昨年の予選タイムとほぼ同じタイムをマーク。2日目も天候は不安定でしたが、相変わらず速かった。予選では、コースインした直後のヘアピンで、ハードタイヤだったこととギャップに乗り上げたことで転倒していますが、全然心配しませんでした。すぐに1分29秒台のタイムを出しましたし、セッション終盤のアタックでは、雨が降ってきましたのでタイムを更新できませんでしたが、圧倒的な速さでポールポジションを獲得しました。正直、ケーシーにとっても、我々にとっても、予選は不完全燃焼でしたが、それでも、あのコンディションの中で1分29秒台中盤のタイムはすばらしかったと思います。このまま普通に走れば、ケーシーが優勝するだろうという状況でした。そして決勝は、青空が広がりコンディションがよくなりました。そうなれば、もうケーシーの優勝は約束されたような印象でしたね」

−日本GP、マレーシアGPからの3連戦ということで、ケガをした右足首の状態は、あまりよくなかったと聞いています。しかし、フリー走行、予選、決勝と見せてくれた走りは、そういうことを全く感じさせないものでした。特に“ケーシー・ストーナー・コーナー”と命名された第3コーナーの高速スライドコントロールは、世界中のファンをうならせていました。

「(右足首は)完治していない状態。そして、リハビリもしっかりできないままの復帰でしたからね。加えて3連戦ということで、当然、右足首に疲労がたまりますし、この3連戦の中では一番よくない状態でした。しかし、ここは左回りのサーキットですからね。左コーナーが多く、素早い切り返しが要求されるコーナーも少ないので、もてぎやセパンほど、完治していない右足首は、走りに影響がなかったかもしれません。ここは高速コーナーが連続するサーキットなので、800ccから1000ccになったエンジンパフォーマンスの向上が、ラップタイムの向上につながりました。初日の走行が終わったときのコメントで、ケーシーは『自身で思っていたよりいいタイムが出せました。1000ccになったことがその理由の一つで、加速がよくなり、スライドコントロールもしやすかった』と言っています。今年、我々が目指してきたことが、ケーシーのコメントに集約されていましたね。これでケーシーは5勝目。ダニとロレンソが6勝なので、最終戦を勝って6勝にしたいと言っています。ケーシーにとっては引退レースになるわけなので、是非、優勝してほしいと思っています」

−ストーナー選手の優勝でオーストラリアGPはおおいに盛り上がりました。しかし、チャンピオン争いをするペドロサ選手が2周目に転倒し、チャンピオン争いに終止符が打たれました。ここ最近の、中盤までじっくり様子を見て、後半、ペースを上げて一気に突き放すという勝ちパターンを見ることができませんでした。今大会、ストーナー選手には届かなかったと思いますが、チャンピオン争いをしているロレンソ選手に対しては、そういう強いレースを期待していました。やはり、プレッシャーが大きかったのでしょうか。

「なんとか最終戦にチャンピオン争いを持ち越したかっただけに、ダニはもちろんのこと、我々も残念でした。しかし、今回はマシンがあまりまとまらず、自信を持って勝てるという状況に持っていけなかったことが敗因でした。今回のケーシーには勝てなかったと思いますが、ホルヘには先着しようとがんばった3日間でした。初日のフリー走行は予想以上に順調で、昨年の予選タイムに匹敵するタイムを簡単に出すことができました。しかし、そこからなかなか前進できませんでしたね。課題はリアのトラクションで、2日目は2台のマシンを異なる仕様にして走らせました。一台はトラクションはやや弱いがバランスはいい、もう一台は強いトラクションはかかるがバランスが悪いという状態。ここからなかなかいい方向に進めませんでした。それでも最終的には、一発のタイムは出なかったですがアベレージは悪くないというところまで持っていくことができました。これならなんとかケーシーの次にゴールできるのではないかという状態にはなりました。決勝日のウオームアップでも、ホルヘはぽんぽんとタイムを出しましたが、タイヤがたれてきてからの落ち込みが大きい。対して、ダニはアベレージで負けていないので、『これならいけるんじゃないか。ただ、序盤に前に出られてホルヘに逃げられたら、ちょっと厳しい戦いになるかもしれない。そこで、序盤からホルヘの前に出て走ろう』という作戦でした」

−つまり、焦ってはいなかったし、作戦通りだったということですね。

「そうですね。1周目のヘアピンでホルヘを抜いてトップに立った。そのうち、ケーシーは抜いていくだろうと思いましたが、ホルヘは絶対に抑えようという走りでした。しかし、2周目のヘアピンでブレーキングミスをして膨らんでしまいました。そこでラインを外し、ギャップに乗り上げてしまい、フロントが切れ込んで転んでしまった、というのが転倒したときの状況ですね。終わってしまったことなので仕方ないですが、最後まで走っていたら、どうなっていたのかな? と思いますね。レースを終えたダニとは、最終戦バレンシアで7勝目を挙げて最多勝利を狙おうと話し合いました。これまでのダニは、『勝てるかもしれない』というレースばかりでしたが、今年の後半戦は、『今回は勝てるぞ』というレースが多くなりました。来年は、こういう戦いを一年を通じて続けていきたいですし、来年は絶対にタイトルを獲得しようとダニと話しました。個人的には、サンマリノGPでの不運のノーポイントがなくても、ダニが苦手とするフィリップアイランドが一つの大きな鬼門になるだろうなと思っていました。結果は、転倒という最悪の形でしたが、これまで大の苦手だったフィリップアイランドで、優勝争いができるところまで走りのレベルを上げられましたので、来年に向けて大きな成果になったと思います。チャンピオンを獲得するためには、苦手なコンディション、苦手なコースがあるうちは駄目ですからね」

−コンストラクターズタイトルも王手となりました。

「21点差で最終戦を迎えることになり、間違いなくコンストラクターズタイトルは獲得できると思います。といいますか、最終戦も勝ってシーズン12勝を挙げるというのが、我々の次戦の目標ですからね。ケーシーとダニ。ダニとケーシー。どちらでもいいからRepsol Honda Teamの1-2でシーズンを締めくくりたいですね。これから来年のシーズンがスタートするわけですが、現状から大きく飛躍させるようなマシンを作るのはそう簡単ではないので、細かくラップタイムを削っていけるようにコツコツがんばっていきたいです。ステファンも、ここにきてかなりいいレベルの走りをするようになりました。アルバロも今年はセッティングに苦しんできましたが、ここにきて、かなりまとまってきています。来年はマルク(マルケス)が加わりますし、彼がどういう走りをするのか、ということも楽しみの一つです。とにかく、最終戦も優勝を目指し、来年は絶対に三冠を奪い返します。これからも応援よろしくお願いします」