vol.87 | ペドロサが今季6勝目を達成。復帰2戦目のストーナーは3位に入賞。 |
モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > HRCチーム代表 中本修平 現場レポート > vol.87
vol.87 | ペドロサが今季6勝目を達成。復帰2戦目のストーナーは3位に入賞。 |
日本GPからの連戦となった第16戦マレーシアGPは、予選2番手から決勝に挑んだダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)が、ポールポジションスタートから先行したホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)選手を10周目にかわしてトップに浮上すると、そこからペースを上げてリードを広げていきました。しかし、14周目にレースは赤旗中断。7周でレースが再開されることになりましたが、激しいスコールとなり、レース再開が不可能という判断が下され、13周を終えた時点でのリザルトでレースが成立し、ペドロサが今季6勝目を達成しました。3位には、復帰2戦目のケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)が入り、5戦ぶりの表彰台獲得となりました。これでRepsol Honda Teamは、2012年シーズンのチームタイトルを獲得。さらにコンストラクターズタイトルも、今大会を終えて王手としました。個人タイトルでは、今季6勝目を挙げたペドロサがトップのロレンソ選手との差を28点から23点へ縮め、逆転チャンピオンに向けて、また一歩前進。2年連続の3冠に期待をつなぐレースとなりました。
「FP1で振動の問題が出ましたが、リアタイヤがホイールの中で動いてしまい、バランスが狂ってしまったことが原因だったと判明しました。それ以外は、予選でタイムアタックする前まで順調でした。タイムアタックは2度やりましたが、チャタリングが出るようになり、思ったようにタイムを更新することができませんでした。それで予選は2番手だったのですが、ロングランでは一番いい内容でしたから、『今回も勝ってくれる、大丈夫』という気持ちだったし、その期待にこたえてくれました。とにかく、ドライ、ウエットともにRC213Vの持っているパフォーマンスをしっかり発揮してくれました。今大会の優勝に関しては、ダニがタイトルを獲得するためには、もう勝つしかないわけで、そうしたプレッシャーというか、あとがない状況で、ミスもなく、しっかり走りきってくれたし、よくやってくれたという気持ちですね。ダニにとっては、最高峰クラスでは初めて経験する3連勝。シーズン優勝回数も6勝へと伸ばした。チャンピオンになるためにも、連勝記録も優勝回数も更新していかなければならないわけですからね。依然として厳しい状況に変わりはないですが、奇跡の逆転チャンピオンに向けて、今大会はまた一歩前進できたと思っています」
「確かに、ウエットレースでダニは勝ったことがないので、どうなるんだろうという気持ちはありました。しかし、ウエットコンディションでも、これまで何度もすばらしい走りをみせていますし、決して苦手にしているわけではないですね。本人も、ウエットは嫌いではないし、ただ、結果を残せていないだけだと語っています。それが今回はイメージ通り、作戦通りに走って、優勝することができました。この2戦でダニは自己記録をいくつか更新してきましたが、ウエットでも勝つことができて、さらに、大きな自信を得ることができたんじゃないかと思いますね。レース前半、ホルヘの後ろについているときは、余裕の走りをしていましたね。そして、10周目にホルヘを抜くとぐいぐい引き離していきますが、あれは、ホルヘの後ろにいて、それまで抑えていたところを普通に走っただけのことですね。それでタイムが上がったからといって、決してリスクのある走りはしていませんでしたし、今日は安心して見ていられましたね」
「ラグナセカから投入したニューマシンも、まとまってきていると思いますね。それは、この数戦のダニの走りを見てもらえれば分かると思います。『ウインターテストのころと比べてどうか?』ということですが、これも繰り返しになりますが、我々が今シーズンに向けて作ってきた2012年型RC213Vは、一度はしっかりでき上がっていたんですね。昨年の最終戦バレンシアGP後のテストで、ダニが太鼓判を押してくれましたからね。ですが、最低重量が変更されて、ブリヂストンのフロントタイヤの仕様変更があって、もう一度、一から作り直さなければならなかった。ウインターテストでは、最低重量をクリアするためにウエイトを積んだり、暫定的なマシンでした。その後、タイヤの変更にも車体を合わせなくてはいけなくて、今年はこれまでになく苦労したシーズンでしたね。それがここにきてやっとレースに集中できるレベルになりました。反省点としては、そういうルールの変更や仕様の変更に、すぐに合わせられないこと。そういう技術がないといえば、ないのかもしれません。しかし、4kgも重量が変わればバランスも変わります。タイヤに合わせてマシンを作ってきたわけですから、タイヤが変われば当然マシンも変えなければいけない。そのような徹底した作り込みがアドバンテージにつながると信じていますし、ニューマシンを投入してからの後半戦の結果がそれを証明していると思います」
「もてぎのコースレイアウトは、右足首がまだ完全ではないストーナーには、ちょっと厳しいサーキットでしたね。セパンは、もてぎに比べると、素早いマシンの切り返しがないので、身体的には楽だったようですね。予選ではポールポジション争いをするんじゃないかと思っていましたが、フリー走行でブレーキにちょっと課題が出て、ブレーキに対して信頼感が持てず、予選では100%の走りができませんでした。データを見ると、ブレーキに不安がなければポールポジションはいけたと思いますね。ブレーキの課題というのは、もてぎでブレーキ温度が通常より上がってしまったので、キャリパーのオーバーホールをしたのですが、それでフィーリングが変わってしまったことです。キャリパーを新品に交換したり、オーバーホールしたりすると、この問題が出ることがあります。決勝は、ウエットになったので、違うブレーキシステムを使いましたが、ドライ用も決勝に向けていつもの状態に戻していました。決勝では、右足首のことがあるので、特に最初の数周はちょっと慎重になっていました。しかし、だんだんリズムをつかみ、もし赤旗中断にならなければ、ホルヘを抜いて2位になれたと思っています。ケーシーは、日本GPで復帰したときから、母国のオーストラリアGPに100%の状態で挑みたいとターゲットを絞っています。次のオーストラリアGPは、いつものケーシーの走りを期待してもいいと思います」
「今回のレース中断の理由は、正直、私には理解できないものでしたね。あのとき、雨が特別ひどくなったわけじゃないですからね。それまで2分15秒台で走っていて、確かにラップタイムは16秒台に落ちていますが、それが中断の理由にはならないと思いますね。確かに、中断してから10分後の激しいスコールは無理ですけどね。今回のレースは、ホルヘを含め、ヤマハ勢は全員リアにソフトタイヤを選択していました。確かに、雨が多少は強くなりましたが、ホルヘ一人が17秒台までペースが落ちたのは、ソフトのタイヤを選んでタイヤが消耗していたからであって、走れないくらいコンディションがひどくなってからではないと思っています。もし、あのままレースが続いていたら、ホルヘは、ケーシーはもちろんのこと、ニッキー(ヘイデン)にも抜かれていたでしょうね。とにかく、納得のいかない赤旗中断でしたね。その後、7周でリスタートすることになりますが、雨がひどいのでまもなく中止になった。この中止の判断は正しいと思いますが、『14周目の赤旗中断はないでしょう……』という気持ちでした」
「ダニがチャンピオンになるためには、勝たないといけない。オーストラリアGPでホルヘのタイトル獲得を阻止し、逆転チャンピオンに期待をつなぐためにも、やるべきことは一つ。勝つことですね。ただ、オーストラリアGPが行われるフィリップアイランドは、ダニがあまり得意としていないサーキットだということですね。でも、そんなことは言っていられないですし、ダニには、自己記録更新の4連勝、シーズン7勝目を目指してもらいたいと思います。セパンでは初めてウエットレースで勝っているわけですし、フィリップアイランドでも初めてのことを期待しています。フィリップアイランドで5連勝中のケーシーもオーストラリアGP最後のレースで優勝を目指しています。前回も言いましたが、ダニがチャンピオンになるためにはホルヘだけではなく、ケーシーにも勝たなくてはいけない。だからといってチームオーダーなんてあり得ないことですし、強敵のホルヘを相手に、そんなことが通用するわけもない。ダニには、ホルヘとケーシーに勝って、堂々とチャンピオンになってもらいたいという気持ちですね。Repsol Honda Teamとしては、残り2戦、1-2フィニッシュを狙っていきます。前回も言いましたが、奇跡を起こしてみたい。そのためにRepsol Honda Teamは全力で挑みます。オーストラリアGPも応援よろしくお願いします」