HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.86

ペドロサが日本GP2連覇を達成!

 第15戦日本GPは、予選2番手から決勝に挑んだダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)が、ポールポジション(PP)スタートから先行したホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)選手を12周目にかわしてトップに浮上すると、一気にペースを上げて24周を走りきり、今季5勝目を達成しました。前戦アラゴンGPと同じように、前半はロレンソ選手をピタリとマーク。中盤、ペースが落ちたライバルをかわすと、それから一気にリードを広げる危なげない走りでした。これで総合首位のロレンソ選手との差を33点から28点へと縮めることに成功しました。予選5番手から決勝に挑んだアルバロ・バウティスタ(Team San Carlo Honda Gresini)が厳しい3位争いを制し、2戦ぶり今季2度目の表彰台を獲得。第11戦インディアナポリスGPでのケガでチェコGPから3戦欠場、4戦ぶりに復帰したケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)が5位という結果でした。これでHondaは15戦を終えて9勝目を達成。コンストラクターズタイトルとチームタイトルは2位以下にリードを広げて首位をキープしました。個人タイトルは、依然として追う側の立場ですが、逆転チャンピオンに向けて一歩前進。2年連続3冠に期待をつなぐレースとなりました。

−今大会も全く危なげない走りでペドロサ選手が優勝しました。今年の日本GPは天候もよくて、フリー走行までは、セットアップも順調に進みました。ところが、予選になってチャタリングが出るようになってPPを逃してしまいました。一方のロレンソ選手は、アベレージもよくて一発のタイムもよかった。決勝に向けてやや不安を抱えることになりましたが、そんな状況を中本さんは、どう見ていましたか?

「フリー走行まではとにかく順調でしたね。ところが、予選になって、突然、振動とチャタリングの問題が出てしまいました。予選中も、ハードタイヤで走っていたセッション終盤までは順調でした。そして、ソフトを入れてタイムを出そうとしたら、振動が出てタイムが出せないという。そこでスペアのマシンに前後のホイールを入れて走ってみたら、今度はチャタリングが出てしまいました。振動とチャタリングは、症状は似ていますがその発生のメカニズムが違うので、どうしてそういうことになったのか分かりませんでしたね。しかし、レースタイヤでは、一番速いペースでダニは走れていましたし、なにもなければ勝てると思っていました。そして決勝では、チャタリングは少し残っていましたが、予選ほどはひどくなかったです。それで前半はタイヤの状態を見ながらホルヘを追いかけました。確かに、ホルヘのペースが速くてなかなか抜けなかったのですが、中盤になってホルヘのペースが落ちてきましたので前に出ることにして、それから一気にペースを上げて逃げきったというレースでしたね。前半は1分46秒台。ホルヘを抜いてからの数周は1分45秒台にタイムを上げてリードを広げました。それでホルヘが2位狙いの走りに切り替えたこともあって、最後は4秒以上の差でフィニッシュすることができました」

−前戦アラゴンGPのときに、「チェコGP後にアラゴンで行ったテストで、ダニはセッティングの幅が広がった。あのテストで、ダニはRC213Vのパフォーマンスをさらに引き出せるようになりましたし、勝つための武器をこれまで以上に手にすることができた」と中本さんは語っていました。今回の要因はなんでしょうか。

「うちのマシンの基本特性は、止めて、曲げて、加速するというもの。もてぎは、典型的なストップ&ゴーのレイアウトで、その基本特性をしっかり出せたことが勝利につながったと思いますね。今年は第10戦アメリカGPでニューシャシーとニューエンジンを投入しましたが、このマシンになってから、ダニのパフォーマンスは明らかに上がっています。ダニがコメントしている通り、ニューエンジンを投入したことで、ブレーキングからコーナーの進入がよくなり、改良されたニューシャシーがコーナーの立ち上がりを一段とよくしています。レースをこなすごとに、ニューマシンのパフォーマンスを引き出せるようになっていることが、勝利につながっていると思います。シーズン前半は、マシンの最低重量のルール変更と、フロントタイヤの仕様が変更されたことで、マシンのバランスを見直さなければなりませんでした。その場しのぎのセットアップでレースを戦わなければならない時期もありましたが、夏休み以降は、昨年のような状態に戻れたと思っています」

−確かに、第11戦インディアナポリスGPから5戦を戦って、ペドロサ選手が4勝とすばらしい成績を残してきました。第12戦チェコGPで勝ったときには、ロレンソ選手との差が13点。それが第13戦サンマリノGPの不運の転倒ノーポイントで38点差に開き、アラゴンGP、日本GPで28点差までばん回しました。それを思うと本当にサンマリノGPのリタイアが惜しいですね。

「みんなそう言いますが、こればっかりは、終わったレースのことですからね。時間が戻るわけではないですし、仕方がない。とにかく、ダニはもう勝ち続けるしか逆転チャンピオンの可能性はないわけで、仮に残り3戦全勝しても、ホルヘが全戦2位なら逆転できないわけで……。ダニはもちろん、我々の作戦は実にシンプル。とにかく、勝つ。それだけですね」

−今回は、ストーナー選手が4戦ぶりに復帰しました。予選、決勝と、まだ完全に回復していない右足首との戦いになっていたようですが……。

「歩くのに、もう松葉杖を必要としないところまで右足首は回復していますが、トレーニングができていませんからね。しかも、もてぎは、ブレーキングと加速時のステップワークと体重移動が非常に重要になるコースですので、右足首への負担は相当だったと思います。それでも、走ることで、足首の動きは徐々によくなっていきますし、右足首の負担を減らすためのライディングができるようになっていくと思います。そうしたケーシーのパフォーマンスの向上に、チームのセットアップがついていけなかった……というのが実情でしたね。我々が思っている以上に、ケーシーはタイムを出せるようになっていましたし、それに歩調を合わせてあげられなかった。これがうまくいっていれば、予選は間違いなくフロントローはいけたと思います。決勝は、さすがに足首がつらかったようですが、スタートがもう少しよくて、ダニとホルヘの後ろにつけることができていたら、表彰台はいけたかなと思います。ケーシーのことですからね。ダニとホルヘが前にいれば、モチベーションも違ったと思いますし、なんとかついていけたんじゃないかと思いますね。しかし、今回は序盤から3番手、4番手争いの集団の中でもまれてしまったことで、ああいうレースになりました。それでも、トレーニングもできない状態で復帰して、今大会の走りはさすがでした。マレーシア、オーストラリアでどんな走りを見せてくれるのか。本当に楽しみです」

−今回はバウティスタ選手が3位になりました。予選から好調で、中本さんも今回は表彰台に立てるんじゃないかと言っていました。

「アルバロは、フリー走行、予選とアベレージがよくて、今回は表彰台に立てるんじゃないかなと思っていました。今年は、ダニとケーシーとホルヘの3人が表彰台を独占してきたシーズン。サンマリノGPの初表彰台は、ダニが転び、ケーシーが出場していない中での3位でした。今回は3強がそろい、その中でケーシーが万全でないという状況の中でしっかり3位になりました。サンマリノGPの3位とは内容も違いますし、トップとのタイム差は接近していますので、評価できる3位ですね。この調子で残り3戦、がんばってもらいたいです。一方のステファン(ブラドル、LCR Honda MotoGP)は、ハードブレーキングが続くもてぎで、初めて腕上がりに苦しみました。そのためペースが上がりませんでしたね。今年は800ccから1000ccになり、もてぎのブレーキングは一段とハードだったと思います。ルーキーには厳しい戦いだったと思いますが、これからのトレーニングの課題ができたんじゃないかと思いますね」

−2年連続でホームGPのもてぎで優勝することができました。今、どんな気持ちですか?

「日本GPだから特別勝ちたいというのは、正直、ないですね。18戦全部勝ちたいと思っていますし、勝つためにがんばっているわけですからね。そういう意味では18分の1という大会です。しかし、応援してくれるファンや会社の関係者も大勢サーキットに駆けつけてくれましたからね。あぁ、勝ててよかったなという気持ちはあります。次のマレーシア、オーストラリアと連戦になりますが、この調子で勝って、できることなら奇跡を起こしてみたいと思っています。とにかく、全力を尽くすだけ、という気持ちですね。残り3戦。応援よろしくお願いします」