HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.84

不運に見舞われたサンマリノGP

 第11戦インディアナポリスGP、第12戦チェコGPと2連勝を達成して絶好調のダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)。自身初の3連勝に挑むことになった第13戦サンマリノGPは、不運のレースとなりました。カレル・アブラハム(ドゥカティ)選手のエンジンストールでスタートがやり直しとなり、再スタートの進行中にフロントホイールにトラブルが発生。そのため、マシンをグリッド上からピットロードへ移動させなければならず、今季4度目のポールポジション(PP)スタートが、最後尾からのスタートとなりました。気持ちを取り直して決勝レースに挑んだペドロサは、最後尾から猛列な追い上げを見せますが、オープニングラップの8コーナーでヘクトール・バルベラ(ドゥカティ)選手に追突されて転倒し、ノーポイントに終わりました。がっくりと肩を落とすペドロサ。総合2位は変わらずも、チャンピオン争いは厳しい状況となりました。ケガのために欠場しているケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)の代役として出場したジョナサン・レイは8位でフィニッシュ。アルバロ・バウティスタ(Team San Carlo Honda Gresini)は、MotoGPクラスでは自身初となる表彰台を獲得して3位。ステファン・ブラドル(LCR Honda MotoGP)が6位というレースでした。

−なんと言っていいのでしょうか。残念なレースになりました。グリッド上の混乱……その中でペドロサ選手にトラブルが発生する……。サーキットにいた観客はもちろんのこと、テレビを見ていた世界中のレースファンが、「一体、なにが起きているんだ?」という気持ちでした。あのとき、ペドロサ選手のマシンには、なにが起きていたのですか?

「原因がはっきり分からないのですが、ブレーキがスタックした状態になってフロントホイールが動かなくなりました。そのためタイヤウオーマーも外せず、仕方なくスペアのマシンでいこうという判断になりました。そこで、スタンドをかけたままの状態でグリッドからピットロードに移動させることにしたのですが、その最中にフロントホイールがぐっと動いたので、これならいけるという判断となり、そのままグリッドに戻してウオームアップに出ていきました。マシンを、ピットロードに一度出したということで、この時点で最後尾スタートのペナルティになっているのですが、それでもスタートすることができましたし、今のダニの調子なら表彰台には確実に立てるだろうと思っていました。それがバルベラ選手にぶつけられて転倒してしまいました。とにかく、再スタートの進行手順がよく分からないまま、その中でトラブルが起こり、最後尾スタートしたあとに今度は追突されてしまうという、不運としか言いようがないレースでした」

−ペドロサ選手を取り巻く状況は、とにかく混乱していました。「再スタートになったときに、ウオーマーを巻いていいのかどうかはもちろんのこと、どういう進行なのか全く分かりませんでした。周回数も28周のままなのか、26周なのか、27周なのかも情報が錯綜していました」と語っています。

「ダニの言う通りですね。アブラハム選手のエンジンストールで再スタートとなるのですが、本来のルールならば、リスタートのときはウオーマーは使えません。ところが、ドゥカティがウオーマーを巻き始めたので、皆一斉に巻き始めてしまって収拾がつかなくなりました。とにかく、スタート進行の手順が全く不透明で、そうこうしているうちに1分前の表示が出されるという状況で、とにかく混沌としていました。そのときにフロントホイールがロックして動かなくなってしまいます。原因を調べていますが、まだ、はっきりしたことは分かりません。データを見ると、ブレーキの油圧は正常でしたし、ブレーキのハードの問題ではないということは、はっきりしています。ディスクもパッドもチェックしましたが、これも異常はありませんでした。タイヤウオーマーにも問題はなく、なんのダメージもありません。考えられるのは、タイヤのカスがかんだりして動かなくなったのではないかなど、いろいろとありますが、ピットロードへ移動中に動き出してからは、すべて正常なので、このトラブルを再現することもできません。とにかく、再発を防ぐためにも、なにが原因だったのかということを、できる限り究明はしたいですね」

−本当についてないとしか言いようがないトラブルでした。ペドロサ選手は、「最後尾からのスタートになりましたが、落ち着いてミスをしないように追い上げようと思っていました。優勝だってできたかもしれないが、バルベラ選手にぶつけられて……と語っています。これも仮定の話になりますが、もし、あのまま走っていればペドロサ選手はどのくらいまでいけたと思いますか?

「たらればの話をしても仕方ないのですが、今回の仕上がり、想定できるペースから考えれば、2位にはなれたんじゃないかと思いますね。ダニは『優勝も?』と言っていますが、ホルヘ(ロレンソ、ヤマハ)は、ダニがいなくなったことでかなりペースを抑えていますからね。確かに、ホルヘのタイムだけを見れば、その気持ちは分かります。しかし、そこまで甘くはなかったと思います。いずれにしても、トラブルも、そしてバルベラの追突も、ついてない、不運だった、としか言いようがありません。これでチャンピオンシップは厳しくなったことは間違いなく、ダニは自力でチャンピオンになるのは難しくなりました。でも、レースは今回のようになにが起きるか分かりませんし、最後まであきらめません。今まで通り、我々は勝ちにこだわり、チャンピオンを獲得するために全力を尽くしていきます」

−結果はノーポイントでしたが、ペドロサ選手のRC213Vの仕上がりはどうですか?

「ラグナセカでのアメリカGPにデビューしてから、レースをこなすごとによくなっています。ダニが苦手とするチェコGPでの優勝がそれを証明していますし、今回も、ドライコンディションでぶっつけの予選でPPを獲得できましたからね。チェコGPのあとのアラゴンテストで、ダニはこういうセットアップにしてもすごくいいね、と言うほど手持ちの駒を増やすことに成功しています。今回のノーポイントで、ホルヘとは、ポイントが13点差から38点差へと開いてしまいましたが、マシンのポテンシャルは確実に上がっていますし、残り5戦、全勝を目指していきます」

−ストーナー選手の代役として参戦したレイ選手はどうでしたか?

「今回は天候が不順で、3回のフリー走行がほとんど活用できませんでした。初出場のジョニー(ジョナサン・レイ)には、そういうハンディキャップはありましたが、しっかりと完走してくれました。まだまだ、スーパーバイクの乗り方なので、MotoGPマシンのパワーを引き出す走りができていません。今は慣れていく段階ですが、次戦のアラゴンGPは2日間テストをしたサーキットで開催されるので、もう少し順位を上げてくれると思います」

−バウティスタ選手が3位、ブラドル選手も光る走りを見せていました。

「アルバロは、チームの本拠地でのレースでしたし、そういうプレッシャーを力にして初表彰台に立ちました。今回のレースは大きな自信になったと思いますし、残り5戦、さらにいいレースを期待しています。ステファンは、正直、成長したなとうれしくなりますね。がんばっています。今回も、フロントタイヤの内圧が下がるというトラブルがなければ、間違いなく2位になれたと思います。残り5戦で必ず表彰台に立つと思いますし、これからのさらなる成長に期待しています」

−今大会は、昨年のマレーシアGPで亡くなったマルコ・シモンチェリ選手の地元のサーキットということで、ミサノ・サーキットは、「ミサノ・ワールドサーキット・マルコ・シモンチェリ」となりました。シモンチェリ選手に大きな期待をしていた中本さんとしては、どんな気持ちですか?

「サーキットに彼の名前が残ることで、シッチ(シモンチェリ選手)というすばらしいライダーがいたんだということが語り継がれていけばうれしいですね。今回も月曜日に、シッチの家族に会いに行ってこようと思っています。今大会、コースサイドにたくさんの『58』(シモンチェリ選手のゼッケン番号)が掲げられていましたが、シッチが生きていたら、今ごろ、間違いなくチャンピオン争いをしているんだろうなと思いましたね」