HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.82

ニューマシンのパフォーマンスを引き出し、
ペドロサはポールポジションから今季2勝目を達成!

 2週間の夏休みを終えたグランプリは、アメリカ大陸を西から東へ移動。第11戦インディアナポリスGPが、8月17日から19日までの3日間、インディアナポリス・モータースピードウェイで開催されました。ラグナセカで行われた前戦アメリカGPでは、ケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)が優勝し、後半戦のスタートとなった第11戦インディアナポリスGPでは、ダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)が勝ち、Repsol Honda Teamとしては、今季3度目の2連勝を達成しました。ペドロサは、予選で今季3度目のポールポジション(PP)を獲得し、決勝でもライバルを圧倒して今季2勝目を挙げました。前戦アメリカGPで今季4勝目を挙げたストーナーは、フリー走行でトップタイムをマークしますが、予選で転倒を喫し6番手。この転倒で右足首を負傷し、土曜日の時点では出場できるかどうか微妙な状態でしたが、持ち前の強い気持ちで最後まで走り抜いて4位でフィニッシュしました。Repsol Honda Teamは、これでインディアナポリスGP3連覇を達成。総合ポイントでは、依然としてペドロサ2位、ストーナー3位という順位ですが、2年連続タイトル獲得に向けて一歩前進しました。ラグナセカ、インディアナポリスとアメリカラウンドを制し、11戦で6勝目を達成した中本修平HRCチーム代表に、今大会をふり返ってもらいました。

−Repsol Honda Teamは、これでアメリカラウンド2連勝。前戦はストーナー選手が勝ち、今大会はペドロサ選手が優勝しました。ペドロサ選手は、前戦アメリカGPからニューマシンで出場しています。エンジン、車体ともに一新された2013年型プロトタイプのデビュー2戦目にしての初勝利。どんな感想ですか。

「前戦のラグナセカは天候が不安定で、なかなかセットアップを進めることができず、ダニは手探りの状態で決勝に出場して3位でした。優勝することはできませんでしたが、たくさんのデータを収集することができましたし、こうすればいいね、という部分を見つけました。今大会は天候に恵まれて、フリー走行、予選と順調にセットアップを進められましたし、マシンがうまくまとまりました。ダニはニューマシンに慣れたこともあって、レベルの高い走りができましたね。昨年、ここで優勝したケーシーの記録をすべて塗り替えましたからね。サーキットベストタイム、レース中のファステストラップ。そして、レースのトータルのタイムでは、昨年より約13秒も速かったです。路面コンディションがスリッピーで転倒車が多かったことを考えれば、かなり、いい結果だと思いますね。ダニは、まだまだ細かいところの注文はありますが、ニューマシンのパフォーマンスをしっかり引き出せたと思いますし、非常に満足できるレースでしたね」

−第7戦オランダGPで、仕様違いの車体を投入しましたが、ペドロサ選手は、それが気に入りました。それをベースに改良されたニューマシンが前戦アメリカGPから投入されて、ペドロサ選手は、ますます気に入ってくれて、ほぼぶっつけ本番の状態で実戦に投入しました。ラグナセカはセッティングする時間が十分に取れず3位でしたが、今回はすばらしい内容で優勝しました。どの部分が大きく改良されたのでしょうか。

「この部分を変えました……と言って、劇的によくなる魔法の杖はないですからね(笑)。本当に細かな改良の積み重ねが好結果につながったんだと思っています。エンジンに関しては、すごく乗りやすくなったと、ダニもケーシーも高く評価してくれています。車体に関しては、好みが別れましたね。ダニはニューシャシーをすごく気に入ってくれて、それが結果にもつながってます。ひとことで言えば、旋回性がよくなって、結果的にエンジンのパフォーマンスもより引き出せるようになった、ということですね。ケーシーに関しては、前戦アメリカGPと同じで、従来の車体とニューエンジンの組み合わせで今回も挑んでいます。予選で転倒するまでは、本人がコメントしているように、PPも優勝も、というすばらしい走りでしたね。もし、ケガがなかったら、間違いなく、ダニと優勝争いをしたと思いますね」

−インディアナポリスのグランプリコースは、インフィールドのグリップが悪く、以前から選手たちには不評でした。今年は特によくなかったようですが、そういう状況の中で、ストーナー選手が予選で転倒します。転倒のあと、自力で立ち上がれず、担架に乗せられて運ばれていくのですが、あのシーンを見たときには、今回は出場するのが無理かなと思いました。

「チームスタッフ全員が、そう思いましたね。最初に運ばれたサーキットの医務室では亜脱きゅうの診断。これだけでも十分に厳しい状況でしたが、痛みがひどいことから、そのあと、インディアナポリス市内の病院でMRIの検査を行うことにしました。この検査で足首の部分に骨折があることが分かり、じん帯もかなり損傷していました。とても厳しい状態だなと思いましたね。最終的に、ウオームアップを走ってどうするか決めようということになったのですが、検査と治療を終えて深夜に病院を退院してからも、痛みのためにほとんど眠ることができませんでした。そんな状態でしたが、ウオームアップで思ったよりも乗れたということで出場を決めました。序盤はさすがにペースは上がりませんでしたが、アルバロ(バウティスタ、Team San Carlo Honda Gresini)、ステファン(ブラドル、LRC Honda MotoGP)、そしてアンドレア(ドヴィツィオーゾ、ヤマハ)を抜いて3番手争いをリードしていきます。さすがに後半はエネルギーを使いきってペースを落としてしまいましたが、それでも4位でフィニッシュしました。今大会のケーシーのファイトには頭が下がる思いですし、今回のレースは、よくやったと褒めてあげたいですね」

−序盤、前を走るベン・スピーズ(ヤマハ)選手のエンジンブローで、3位争いのセカンドグループが大きく遅れてしまいました。あのハプニングがあるまで、着実に順位を上げていましたし、もし、あのまま走っていれば……と思うのですが……。

「レースに、もし、はないですが、確かに、あのハプニングで遅れなければ、もう少し後半まで体力をキープできたと思いますし、違う展開になっていたかもしれませんね。ベンのエンジンブローでセカンドグループは一気に5秒ぐらい遅れてしまいました。ケーシーは、無理の利かない身体だったということもあり、その集団の中でも慎重になって順位を落としてしまいます。そこからまた追い上げていくのですが、ここでかなり体力を使ってしまいました。最後は痛み止めの効果も切れてきて、その痛みを補うための体力も残っていませんでした。結果的に4位でしたが、もし、あのハプニングがなければ、ホルヘ(ロレンソ、ヤマハ)にも追い付いたかもしれないと思いますね。土曜日の予選の転倒で負ったケガの状況が伝わってきたときには、今回出場は無理かなと思う気持ちと、ケーシーなら走るかもしれないという2つの想いがありました。それにしても、すごいレースをしたと思います。改めて、ケーシーの強さには驚かされましたね。ただ、連戦となる次のチェコGPは、体力の必要なサーキットなので、今回よりも厳しいレースになるかもしれません。我々は全力でサポートしていきたいと思っています」

−11戦を終えて、総合首位はロレンソ選手。18点差でペドロサ選手が2位。トップから39点差でストーナー選手が3位。シーズンは残り7戦。タイトルを獲得するためには、もう、一戦も落とせない感じですね。

「前半戦は、開幕前の最低重量の変更とフロントタイヤの仕様変更の対応に多くの時間を割いてきました。それは今も続いていますが、ダニに関してはやっと戦える状態になってきました。今回のレースもそうでしたが、前半戦とは明らかに違う走りを見せてくれると思いますし、ここからの巻き返しに期待しています。ケーシーに関しては、彼のリクエストにこたえるためにいろいろ準備は進めていますが、今回のケガの回復状況を見ながら、ニューパーツの投入の時期を考えたいです。いずれにしても、Repsol Honda Teamがタイトルを獲得するためには、勝ち続けなくてはいけないわけで、その目標に対して全力で戦っていきます。Team Sun Carlo Honda Gresiniのアルバロも、PPを獲得したイギリスGPの状態にセットアップを戻して、調子を取り戻してきました。LCR Honda MotoGPのステファンは、ラグナセカ、インディアナポリスの2戦ではフロントのセッティングにやや苦しんでいますが、大きな成長を感じさせています。残り7戦、みなさんの期待にこたえられるよう、Hondaライダーを全力でサポートしていきたいと思っています。これからも応援よろしくお願いします」