HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.81

前半戦は10戦中5勝。後半戦に向け確かな一歩

 ヨーロッパから北米大陸へと舞台を移した第10戦アメリカGPは、予選2番手から決勝に挑んだケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)が、今季4勝目を達成しました。オープニングラップは3番手。3周目にチームメートのダニ・ペドロサをかわすと、先行するホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)選手をピタリとマーク。終盤の22周目、ホームストレートでロレンソ選手をパスしてトップに立つとじりじり引き離し、32周のレースで真っ先にチェッカーを受けました。2位はロレンソ選手。この2人と中盤までトップグループを形成したペドロサは3位でフィニッシュ。Repsol Honda Teamの両選手がそろって表彰台に立つのは今季6度目。Repsol Honda Teamは、これで、1995年以来、通算300表彰台を達成しました。ルーキーのステファン・ブラドル(LCR Honda MotoGP)は7位。アルバロ・バウティスタ(Team San Carlo Honda Gresini)は8位という結果でした。シーズンの折り返し点となるアメリカGPで今季5勝目を達成し、後半戦の巻き返しに弾みをつけたRepsol Honda Team。今大会の勝因を、中本修平HRCチーム代表に聞いてみました。

−今大会は、Repsol Honda Teamのストーナー選手とペドロサ選手、そして最大のライバルであるロレンソ選手の3人の戦いとなりました。フリー走行と予選では、この3選手が上位を独占。バウティスタが「今回、この3人の速さは異次元」と語るほどでしたが、ストーナー選手の今大会の勝因は、なんだったのでしょうか。

「今回は……というより、今回も……という感じで、初日から、ダニとケーシー、そしてホルヘの3人が頭ひとつ抜けていましたね。ホルヘはフリー、予選と、アベレージも安定していました。一方、ダニは、前戦イタリアGPのあとにテストした2013年型プロトタイプでのデビュー戦、ケーシーはニューエンジンを従来の車体に搭載して挑むことになりました。そのため今回は、フリー、予選と慎重にセットアップを進めていきましたし、初日から好調でポールポジションを獲得したホルヘとのギャップを確実に縮めながら決勝のグリッドについたという感じでしたね。正直、今回も厳しいレースになると思いましたし、データだけならホルヘが一番安定していました。そのホルヘをどうしたら逆転できるかという戦いでした。そんなレースで今回は、ケーシーのがんばりで勝てたという感じですね。ほんと、よくやってくれたという気持ちです」

−レース後のコメントでは、ソフトタイヤをチョイス。タイヤを温存しながら戦っていたと語っていましたが……。

「ここはタイヤに厳しいサーキットなので、決勝はハードで戦うことになると思っていました。それはケーシーも我々も同じで、ハードでセットアップを進めてきました。今年は、ハードタイヤではセットアップに苦しんできましたが、今回はわりと順調で、ペースも悪くありませんでした。しかし、ここはパッシングポイントがなく、スタートのうまいホルヘがPPからスタートすることもあって、彼に先行されたらなかなか抜くチャンスがないなと思っていました。ホルヘに勝つためには、なにかが必要だねということで、ケーシーからの提案で、決勝はソフトでいきたいということになりました。確かに、予選でソフトを使ったときに、フィーリングもアベレージもよかったです。しかし、ロングランのテストができていませんでしたし、午後の決勝の時間帯は気温も路面温度も上がっていきます。そうなると、決勝でソフトを選択するのはリスキーなので、我々はハードを勧めました。それでも使いたいというので、とにかく、ハードでコースインして、それでもやっぱりフィーリングが悪かったらグリッドでソフトに換えなさいとアドバイスしました。グリッドについたらやっぱりソフトがいいというので、それじゃ、しっかり自分でタイヤのマネジメントをするんだよ、ということで、ケーシーはレースに挑んでいきましたね」

−結果的に、ケーシーの選択、感じているフィーリングが、勝利につながりましたが、レースを見ていてどんな気持ちでしたか。

「今大会は3日間を通じて、天候が悪かったです。午前中は霧が出て、気温も路面温度も低くて、決勝を想定した走行ができませんでした。ニューエンジン、ニューシャシーを投入した我々にとっては、午後の走行時間帯しか決勝に向けたセットアップができず、厳しい条件だったのですが、今回のケーシーは、その限られた時間の中で確実にマシンを仕上げてくれました。前回のイタリアGPは、ドイツGPで転倒した焦りもあって、セットアップがうまくいきませんでした。今回はその反省もあって、最低でも2周してマシンの状態を見るということをやりました。そのかいもあって、タイヤの選択も冷静にできたのだろうと思いますし、決勝では、終盤までタイヤを温存して、みんなが苦しくなってくるときに、ペースをキープして引き離すことができましたね」

−ニューエンジンが今回の優勝に大きな貢献を果たしたと思うのですが、ニューエンジンのよさはどこにあるのでしょうか。

「イタリアGP後にテストをしたときに、ケーシーもダニも新しいエンジンで走りたいというので、短い時間の中でなんとか準備することができました。大変でしたが、そうした我々のがんばりに応えてくれたということでは、すごくうれしいですね。ニューエンジンのよさですが、エンジンブレーキの特性など、これまでの課題を一つひとつ解消したことが、乗りやすさにつながっている点だと思います。これでタイムは確実に上がると思います。今のレギュレーションでは、エンジンだけで一気にラップタイムが上がるということはないですね。今回はニューエンジンで初めてのレースでしたし、その最初のレースで勝てたことがすごくうれしいですね。今回のデータを分析して、次のインディアナポリスGPに向けて、さらにパフォーマンスを上げていきたいですね」

−一方のペドロサは、ニューエンジン、ニューシャシーの組み合わせで今大会に挑みました。初日フリー走行では、従来のマシンと乗り比べて、新型でいくことに決めました。かなり気に入っていた様子ですが、決勝では、セットアップができていなかったのか、やや苦戦。3位という結果でしたが……。

「ダニは、エンジンも車体も2013年型プロトタイプをチョイスしましたが、先ほども言いましたように、午前中の天候と路面コンディションが悪かったのが決勝に影響しましたね。特に2日目午前中のフリー走行が霧と寒さで走れなかったのが痛かったです。ダニは、イタリアGP後のテスト、今大会の初日のフリー走行でニューマシンをすごく気に入ってくれました。しかし、走行時間があまりにも短すぎて、セットアップをまとめきれませんでした。決勝では、フロント、リアともに転倒寸前の滑りを何度も経験していますし、それがちょっと残念でした。しかし、ニューマシンのデビュー戦で、しかも、満足いく走行時間がなかった中で3位表彰台に立ってくれたという点では、よかったと思います。あと、1、2戦戦えば、ダニが感じている、ニューマシンの高いパフォーマンスを発揮できると思います」

−ブラドルが7位、バウティスタが8位でした。この2人の結果については……。

「ステファンは、ラグナセカを走るのが初めてでしたし、最終的に7位でしたが、途中まではセカンドグループに混じっていい走りをしていました。アルバロは、前回のイタリアからちょっと自信を失っていますので、次戦では、自信を回復できるようなことを考えています。2人ともに波はありますが、着実にRC213Vを乗りこなしてきていると思います」

−昨年はRepsol Honda Teamとして最高峰クラスで100勝目を達成しました。今大会は、通算300回目の表彰台を記録しました。

「Repsol Honda Teamの2人がそろって表彰台に立ったのは、10戦を終えて、これで6回目になりますね。しかし、目標とする1-2フィニッシュは、オランダGPの一回しか実現していないので、残り8戦、全部のレースで1-2フィニッシュできるように全力を尽くしたいです。ホルヘは本当に強くて速いライダーなので、彼に勝ってタイトルを獲得するためには、我々は1-2フィニッシュしていくしかないですからね。シーズン途中から投入されている新しいフロントタイヤへの対応も、まだまだできていません。我々としては、持っているマシンのパフォーマンスを引き出せていないですし、依然として厳しい戦いが続いています。しかし、今大会の勢いを次につなげたいと思っています。次のインディアナポリスGPも優勝を目指します。これからも応援よろしくお願いします」