HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.80

厳しい展開となったイタリアGP。ペドロサは2位入賞

 3連戦最後の戦いとなった第9戦イタリアGPは、今季2度目のポールポジションから決勝に挑んだダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)が2位。予選5番手のケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)は、決勝も波に乗れず、コースアウトを喫するなど苦しい戦いとなり8位。オランダGP(ストーナー)、ドイツGP(ペドロサ)に続き、Repsol Honda Teamの3連戦、3戦連続勝利を収めることはできませんでした。今大会は、最大のライバルであるホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)選手が、すばらしい走りを見せました。2位になったペドロサは、フリー走行、予選と順調にセットアップを進め、ほぼ想定した内容でレースを戦いましたが、優勝には届きませんでした。しかし、ペドロサは9戦を終えて8度の表彰台に立つ安定した走りで総合2位。シーズンの折り返しとなる第10戦アメリカGPから、念願のタイトル獲得を目指します。一方、セットアップに苦しんだストーナーは、今大会、表彰台に立つことができませんでした。3連戦最初のオランダGPでは、今季3勝目を挙げる絶好のスタートとなりましたが、ドイツGPで転倒、今大会は8位と、ややリズムを崩しました。しかし、心機一転となる後半戦は2年連続タイトル獲得に向けて全力を尽くします。今大会はステファン・ブラドル(LCR Honda MotoGP)が自己ベストとなる4位でフィニッシュ。後半戦の成長にますます期待が集まりました。

−シーズン前半戦で最大の山場となった3連戦。Repsol Honda Teamは、オランダGP、ドイツGPと優勝しましたが、イタリアGPは厳しい戦いとなりました。今大会を前に中本チーム代表は、「ムジェロはロレンソ選手が得意とするコースなので厳しい戦いになる」と語っていましたが、レースを終えて、どんな印象ですか。

「そうですね。今大会をひとことで言えば、ホルヘに負けた……という言葉しかないですね。昨年の大会も、ホルヘはすばらしい走りをしていました。今年は、そのホルヘに勝つために我々もいろいろ対策を講じてきましたが、我々の予想を上回るパフォーマンスでした。1分48秒フラットくらいのレースならチャンスはあると思っていました。しかし、それ以上の走りをホルヘはしましたからね。ダニは、フリー走行、予選と着実にセットアップを進めてきましたし、想定どおりの走りをしました。しかし、今回のホルヘにはかないませんでした。その要因の一つが、スタート直後の1コーナーでミスをしてホルヘに抜かれたことです。そのあと、アンドレア(ドヴィツィオーゾ、ヤマハ)に抜かれてしまい、アンドレアを抜くのに何周かかかってしまったことですね。その間に1秒以上のアドバンテージを築かれてしまったのが痛かったです。ダニは、ブレーキングがハードなアンドレアを抜くのに手こずりましたが、そのため、自分の走りのリズムを取り戻すのに何周かかかっています。この間にホルヘは安全なリードを築いて、それをしっかりキープされてしまいました」

−ロレンソ選手は、今回、ペドロサ選手の調子がいいので、序盤からペースを上げて、リードを築こうという作戦だったと語っています。ペドロサ選手も中盤は、1分47秒台にペースを上げて追い上げるのですが、リアタイヤのスピニングが激しくなり、チャタリングも出てきて、苦しかったと語っています。

「ホルヘは、序盤にリードを築けたことで、余裕ある走りができたと思いますね。あれが、0.3秒とか0.5秒くらいの差でしたら、前を走っている方も必死になります。しかし、1秒の差になると、タイヤもセーブできますし、うしろのペースに合わせて走ればいい。一方のダニは、序盤の遅れを取り戻すために必死にペースを上げなくてはなりませんでした。ホルヘの走りがすばらしかったことはもちろんですが、先にも言ったとおり、ダニは、序盤の遅れが痛かったですし、あれでタイヤにも負担をかけることになりましたね。とは言っても、ダニは想定したタイムで走りましたし、それ以上にホルヘが速かったということになります。今回は、天候にも恵まれましたので、ダニは、オランダGPから並行して使っている仕様違いの車体のテストもこなせました。フリー走行、予選と、着実に、確実にセットアップを進めましたので、言い訳はありません。とにかく、今回のホルヘはすばらしく速かったです。ただただ、ホルヘに完敗、という言葉しかありません」

−一方のストーナー選手は、フリー走行、予選とセットアップに苦しんでいました。その結果、予選は5番手。決勝も序盤に遅れて、やっと5番手まで上がりますが、中盤にコースアウトを喫して再び順位を落としてしまいました。最終的に8位でゴールするという大会になりましたが、中本さんは、今回のストーナー選手をどう見ていますか?

「初日のフリー走行でいい状態が見つからず、2日目のフリー走行からやっとセットアップを進めたという感じでした。初日にデータを積み上げられなかったことが、結局、予選と決勝に影響してしまったと考えています。初日にケーシーは、タイヤの温度が完全に上がる前の2周ごとに何度もピットに入ってセッティングを変えました。こういうときこそ落ち着いてセットアップに取り組まなければならないということは、ケーシーだって十分に分かっているはずなのに、前回のドイツで転倒してノーポイントに終わっていることが、やっぱりあせりにつながったのかなと思います。マシンの状態を一気に改善したくて、短い周回でピットに戻りセッティングを変えていきました。もう何周か続けて走ってくれれば、セットアップの方向性が見えたと思うのですが、それを初日にできなかったことが、今大会のケーシーの敗因だったと考えています。しかし、最終的には、表彰台に立てる状態に仕上げることができたと思います。ケーシーもそう思っていたし、決勝では、順位を上げていきました。あのままいけば、アンドレアとステファンも抜けたと思うのですが、コーナーの立ち上がりで振られ、ブレーキのキャリパーが開き、コーナーで止まりきれませんでした。それでグラベルに飛び出して順位を落とし、8位になるのがやっとというレースでした。前回のドイツで転倒したことも残念ですが、今回のレースも残念でした。この2戦はケーシーらしくない……とも言えますし、また、ケーシーらしいとも言えます。しかし、ケーシーの速さは我々がよく知っていますからね。この2戦は悪い方向にいってしまいましたが、後半戦は、ケーシーのよさを引き出せるように我々もがんばりたいです。とにかく、今回の我々の課題は、ダニもケーシーも、ロングコーナーのエッジのグリップを引き出せなかったことに尽きます」

−今大会は、開幕前日にRepsol Honda Teamの来季の体制が発表になりました。来季に向けてのスタートにもなったわけですが……。

「そうですね。ダニの継続、Moto2クラスのマルク・マルケス選手が新たにチームに加わります。しかし、ライダーのラインナップが決まっただけで、スポンサーなど、来季の準備は始まったばかりです。今年は厳しいシーズンになると言ってきました。そういう状況の中で、ダニが総合2位、ケーシーが総合3位。ポイントでは負けていますが、まだまだ逆転のチャンスはあると思いますし、逆転するつもりで戦っていきます。これから始まる後半戦は、何度も言っているように、ダニとケーシー、ケーシーとダニ、どちらでもいいので、Repsol Honda Teamとして1-2を目標に戦っていきます。そして、この2人にチャンピオン争いをしてもらいたいです。そういう状態でシーズンを終えて、来年のシーズンにつなげていきたいと考えています。今大会は、ルーキーのステファンが自己ベストの4位。アルバロ(バウティスタ、Team San Calro Honda Gresini)は転倒の影響で思うようにパフォーマンスを発揮できませんでしたが、RC213Vに乗る4選手が、いい結果を残せるよう全力を尽くします」

−最後に、昨年のマレーシアGPで不慮の事故で亡くなった故マルコ・シモンチェリ選手のご両親に、今大会、HRCはRC212Vをプレゼントしました。シモンチェリ選手のご両親はもちろんのこと、世界中のレースファンに感動を与えました。

「マルコが亡くなったときに、お父さんのパオロからマルコの乗っていたマシンが欲しいと言われていました。その約束を果たせてよかったですし、パオロもすごく喜んでくれました。マルコはすばらしい才能を持ったライダーでしたし、僕がF1からグランプリに戻ってきて、最初に注目して契約したライダーでしたからね。贈呈式には、たくさんの関係者が集まってくれました。みんなに愛されたライダーだったんだということを、改めて実感しました。次のアメリカGPからはシーズン後半戦に入りますが、チャンピオン獲得を目標に全力を尽くします。これからも応援よろしくお願いします」