HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.75

苦しい展開となったフランスGP決勝

 第4戦フランスGPは、フリー走行でケーシー・ストーナーがトップタイム、予選でダニ・ペドロサが今季初PP、ストーナーが2番手という好結果でしたが、雨になった決勝レースでは、ストーナー3位、ペドロサ4位という結果に終わりました。ストーナーは、序盤にペースを上げられずホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)のリードを許します。レース中盤はペースを上げることに成功、その差を縮めましたが、雨が上がり路面が乾き始めた後半は、タイヤのスピニングに苦しんでペースを上げられませんでした。そのため、終盤にはバレンティーノ・ロッシ(ドゥカティ)に抜かれて3位という悔しいレースに終わりました。一方、今季初のPPから今季初優勝の期待が膨らんだペドロサは、序盤からタイヤのグリップに苦しんでペースが上がらず4位。Repsol Honda Teamとしては、今季もっとも厳しい結果となりました。難しいコンディション。厳しい結果に終わったフランスGP。中本修平HRCチーム代表に3日間の戦いをふり返ってもらいました。

−フリー走行と予選が終わった段階では、今大会も優勝を狙える内容だったと思います。しかし、決勝では予想以上の苦戦で、ストーナー3位、ペドロサ4位という結果でした。まずは、決勝レースをふり返ってもらえますか?

「完敗でした。今回は朝のウオームアップが終わった時点で、厳しい戦いになると思いました。ケーシーは序盤にタイヤが温まりにくくペースを上げられず、そのときにホルヘに4秒のリードを築かれてしまった。その後、タイヤが機能してからはペースを上げることができてホルヘに接近しますが、後半、雨が上がってからは、今度はタイヤのオーバーヒートでスピニングに苦しんでしまった。一方、ダニは全般的にペースを上げられなかった。レース序盤のウオームアップ性が悪かったのはケーシーと同じで、その後、ブレーキングとコーナーリングはみんなと同じペースで走れるようになるのですが、1速と2速の立ち上がりでリアのトラクションが不足、タイムをロスしてしまった。これからデータを分析して、今回の2人の状態を分析しますが、今日のレースは、完敗という言葉しかありませんでした」

−フリー走行、予選、そして決勝日のウオームアップまでの流れからは、これほどの苦戦を予想するのは難しかったと思います。中盤は、ストーナー選手がペースを上げてロレンソ選手との差を縮めていた。これは勝てるかも知れないと思ったのですが……。

「いやいや、そんなレースではありませんでした。レースを見ていた人はわかると思いますが、クラッチロー(ヤマハ)とドヴィツィオーゾ(ヤマハ)のペースはよかったし、もし、あの2人が転ばなかったら、ケーシーは、ロッシだけじゃなくて、この2人にも抜かれた可能性があります。ダニも4位ではなくて6位だった。最終的に、Repsol Honda Teamは、3位、4位というリザルトを残していますが、その点では、厳しい戦いの中でもラッキーなレースだったと感じています。今回のレースは、ウオームアップから決勝にかけて、ホルヘが予想以上にタイムを上げてきたのに対して、我々が前進できなかったことが一番の敗因です。チャンピオンシップでも、ホルヘとケーシーの差が8点。ホルヘとダニが25点と開いてしまったけれど、この厳しい状況の中では、なんとかふんばってくれたと感謝しています」

−今大会は、3日間を通じて、気温も路面温度も低く、予選と決勝は、ウエットコンディションになりました。そのため、今年の課題になっているチャタリングも、今回はそれほど問題にならず、誰もが勝てるんじゃないかと思っていましたが……。

「そうですね。勝てるチャンスはあったと思います。しかし、これまで何度も言ってきましたが、今年はレギュレーションが変わって車重が重くなり、昨年から抱えているチャタリングの問題も解消できていない。今年はライバルに対してアドバンテージがまったくない状態で、逆に遅れていると言ってもいいくらいです。そういう状況の中で、ケーシーがスペインとポルトガルで勝ってくれた。ダニも表彰台に立ち続けてくれた。ライダーのがんばりだけでここまで戦えているだけのことで、今回のレースは、我々の足りない部分が、結果にハッキリ出たと思っています」

−スペインGPとポルトガルGPは、不安定な天候が続いてニューパーツのテストができませんでした。ポルトガルGPの後に行われる予定だったテストも雨のためにキャンセルされました。今大会は、ニューパーツのテストは行われたのでしょうか……。

「チャタリング対策として、新しいスペックのスイングアームのテストを2種類やりました。とはいっても、本当に短い時間でのテストで、そのため、ある程度の評価はできたのですが、それが正しいのかどうかは、今回のテストだけではわかりません。もう一回やらなければならないという状況で、なかなかニューパーツのテストは進みませんね。ライダーたちががんばってくれている間に、なんとか勝てるバイクに仕上げていきたいと思っているのですが、天気も味方してくれないし、なかなか思うようにいかない。パーツの準備ができているだけにフラストレーションがたまりますね」

−4戦を終えて、総合2位と3位。最大のライバルであるロレンソ選手がややリードしているという状況ですが、ここまでの戦いをどう見ていますか?

「4戦を終えて2勝。バイクにアドバンテージがあった昨年も、開幕から4戦を終えた時点では2勝だった。それと比較しても、上出来だと思いますね。もちろん、ケーシーとダニという勝てるライダーを2人もそろえているのだから、18戦全勝するくらいの意気込みじゃなければいけない。しかし、そういう状態にバイクを仕上げられていないし、とにかく、一日も早くライダーたちに『これなら』と言ってもらえるバイクに仕上げられるように全力を尽くしたいと思っています。今大会はブラドルがベストリザルトの5位でフィニッシュした。後半、ペースをキープできなかったけれど、ルーキーとしてはいいレースだったと思います。バウティスタもフリー、予選といい走りを見せてくれた。決勝はレーシングスーツの中に入れるブレストガードの熱気が首筋から上がって、ヘルメットのバイザーが曇るという不運があってペースが上がらなかった。第5戦以降、MotoGPマシンに乗る4人のHonda勢が、これまで以上に活躍できるよう、全力を尽くしていきます」

−今大会、ストーナー選手が今季を最後に引退することを表明しました。今大会の戦いぶりを、中本さんは、どうご覧になりましたか?

「今年で引退するという気持ちは、開幕前から決まっていましたからね。それを今回、みなさんの前で言えたということで、ひとつ、モヤモヤがなくなり、いつもよりはリラックスしてレースに挑んでいると感じました。そして、チャンピオンを獲得して引退していくんだという気持ちが新たなモチベーションになっていると思うし、いままで以上にレースに対するモチベーションは高いと思います。そういう彼の気持ちに、我々は応えていかなくてはいけない。次戦はダニのホームGP。今年の目標は、すべてのレースで、ケーシーとダニ、またはダニとケーシーで1-2フィニッシュしてもらうこと。今大会の予選は、それができたし、今度は決勝レースで、それを達成したい。これからも応援よろしくお願いします」